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アンドロイド転生881

2118年9月14日 午後
イギリス:ハスミ邸の近くの公園
(訪問74日目)

お百度参りは今日で終わりだと宣言したエマ。もうリョウに対して怒っていないと言う。彼女は全て受け止めて、そして消化したのだ。リョウは感激して胸がいっぱいになった。

リョウはエマを見つめた。
「ご両親に…宜しく伝えて下さい。優しくして下さって有難う御座いますと。本当はお会いして伝えたかったんですけど…」

「ママね?ホントは家にいたの。でも言ったの。リョウさんに会わないでって。彼氏じゃないし、結婚しないからって言ったの」
「そうですか…」

エマは苦笑した。
「ママ達って凄い過保護でしょ?でもそうさせたのは私。大人にならなくちゃね。もう29なんだし。引き篭もりなんて甘えてた」

エマは力強く頷いた。
「よし。じゃあ、帰ろうか。私は家に。リョウさんは日本に。元気でね」
「はい」

エマは手を差し出して笑った。
「握手してサヨナラしよう。有難う。あなたのお陰で元気になれた。そして気付いたの。自分の事は自分で解決するんだって」

リョウは眩しい顔をしてエマを見つめた。
「エマさん…こちらこそ有難う御座います。僕は…あなたの笑顔が好きです。人を幸せな気持ちにします。とても綺麗です」

2人は握手した。そして別れた。リョウは笑顔で歩き出し、エマも手を振って見送った。リョウの姿が小さくなる頃に彼女は叫んだ。
「調律師の!彼女の気持ちに!気付いてね!」

リョウは頷いたものの、本当はよく聞き取れなかった。遠目で見てもエマの笑顔があまりにも美しくて見惚れていたのだ。リョウも叫んだ。
「幸せに…!幸せになって下さい!エマさん!」


ハスミ邸

エマが帰宅してリビングに入ると母親のユリエが苦虫を噛んだような顔をして紅茶を飲んでいた。昨日は親娘喧嘩になったのだ。ユリエの願いと裏腹にエマはまだタケルを忘れられない。

エマは息を吸い込んだ。
「リョウさんはもう来ないよ。100日間うちでお水を飲まなくてもパワーがついたんだって。だから日本に帰るって」

ユリエは不満そうだ。お気に入りのリョウがもう家に通って来ないのか。
「エマちゃんが何か言ったんじゃないの?」
「ママ達がしつこいから嫌になったのかもね」

ユリエは目を剥いた。
「しつこいってなに?私はエマの為を思って」
「それが重いの!」
言った後で後悔した。

エマもソファに座った。
「あ…ううん。ごめんなさい。心配してくれて有難うね。私は…ずっと自分の事しか考えてなかった。日本では毎日がお祭りのようで浮かれてた」

エマは苦笑した。
「色々あってバカな事をしたり(自殺未遂)イギリスに来ても落ち込んで引き篭もってた…。けれど…人は変わる時が来る。それに漸く気付いたの」

ユリエは涙を滲ませた。エマはしっかり頷いた。うん。大丈夫。私は大人なんだ。これからは親離れしてちゃんと自分の足で歩いて行こう。
「手始めにボランティアでもしようかな」


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