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アンドロイド転生219

2114年12月20日 夕食後

「あ!タケルー!今年も行くんでしょ?」
食堂でテーブルを拭きながらミオが声を上げた。タケルは食器を持ってキッチンに向かう。
「おお、そうだな」

アオイはミオのすぐ側にいた。今年も?行くって?どこに?アオイは耳を澄ます。ミオはタケルの背中に向かって続けた。
「慰霊碑は綺麗だよね!静謐って感じがする!」

アオイは思わず口を挟んだ。
「慰霊碑って震災の?」
ミオはアオイを見た。
「そう。アオイも行ったことあるでしょ?」

2040年の第二次関東大震災で関東平野は壊滅し多くの人命を奪った。東京駅跡地に500棟の慰霊碑が建造され、震災日の12月28日は毎年慰霊祭が開催される。アオイも過去にモネ達と参加し両親と弟の名前を発見した。彼らも被害に遭ったのだ。

ああ、そう言えば…とアオイは思った。タケル本人も家族も震災で命を落としたのだ。彼は転生してから毎年命日に慰霊碑を訪れ、母と妹の鎮魂のため朝まで時を過ごしていた。

アオイはあの静謐な場所を思い出す。行きたくなった。そう。…私も行きたい…!家族を慰めたい…!慰霊祭には一度しか訪れた事がないのだ…。言ってみようか…?タケルに。

アオイがキッチンに行くと、タケルは人間達に混じって片付けをしていた。巨大な洗浄機にグラスを並べている。20分程して作業を終え、これから各々自由時間だ。

アオイはリビングで幼児達と遊ぶが、気になって仕方がなかった。チラチラとタケルの様子を伺う。言ってみる?私も慰霊祭に行きたいと。でもタケルに話しかけるのは緊張する。

「なぁ!ゲームしようぜ!」
トワが少年達とタケルに声を掛けた。タケルは頷くとゲーム室に向かっていく。いつもタケルの傍にいるエリカがいない。チャンスだ!

アオイは追いかけて呼び止めた。
「ね、ねぇ?タ、タケル…!」
彼が振り向く。アオイは緊張する。彼とはいつも何となく話しづらい。

「い、慰霊祭に行くの?」
タケルはアオイをじっと見つめた。
「…うん」
「私も一緒に行きたい…!」

アオイの口から飛び出した。タケルは目を見開いた。アオイは息を吸い込んだ。もう破れかぶれだ。
「私の両親も弟も震災で亡くなったの」
タケルはああと言って頷いた。

「ね?知ってるでしょ?慰霊碑に名前が刻まれている。一度しか見た事ないの。また見たい」
タケルはゆっくり唇に手を当てた。逡巡しているように見えてアオイは不安になる。

なんで黙ってるの?何とか言ってよ。タケルは漸く口を開いた。
「別に良いけど…」
「ほ、ほんと?」

そうは応えたものの、タケルには懸念する事がある。エリカだ。アオイと近づくなと煩いのに、2人で出掛けるとなったら大騒ぎだろう。一緒に行くと言い出すかもしれない。

タケルが応じてくれたのでアオイは嬉しくなった。だがタケルの顔を見ていると俄かに緊張して来た。2人では気まずい。彼と共に過ごすのは窮屈だ。エリカと3人で行こう。それが得策だ。

タケルに言われる前にアオイは提案をした。
「エリカを誘ってみようと思うの」
タケルはホッとしたように頷いた。
「それがイイかもな」

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