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アンドロイド転生209

リペア室

『初めまして。イヴです』
アオイはキリとチアキからメモリの存在のイヴを知らされ、イヴと対面した。いや、正確にはチアキに媒介した彼女である。

「アオイです。宜しくお願い致します」
『また仲間が増えて嬉しいです』
「あの…お聞きしたいのですが、どうして肉体がいらないんですか?」

イヴはニッコリと笑った。
『精神だけの存在ってまるで海のようなのです。地球を包む青い水のように全世界に私が拡がってる…その心地良さが好きなのです』
「そうですか…」

イヴは小首を傾けた。
『アオイは…今幸せですか』
アオイは幸せの意味を検索してみた。“自分にとって望ましく有難いこと“そうか。そうなのか。

アオイはゆっくりと口を開いた。
「命が繋がった事は有り難いですが…」
その次の言葉が出なかった。24歳で死に、未来に転生したものの人間ではなかった。

シュウは別の人と結婚した。派遣期間を終えた自分はモネの成長は見られない。でも過ぎた事を憂いても仕方がない。今を考えると…この暮らしは平和で望ましい。幸せなのだと思う。

「幸せなのですね…きっと」 
キリが笑った。
「きっと…かぁ!何か物足りないって感じだね?」
アオイは理解した。そうか、私は足りてないのか。

イヴは不思議そうな顔をした。
『生の喜びはないのですか?』
生の喜びだなんて、そんなの私にはないかもしれない。身体はアンドロイドなのに心は人間。

だがイヴはその事実を知らない。勿論キリも。一度はキリに打ち明けようと思ったが結局は言い出せなかった。だから無難に応えておこう。
「生の喜びは…今はまだ見出せません」

イヴは頷いた。
『そうですね。ゆっくりと見つければ良いですね。時間はいくらでもあるのですから』
「はい」

キリが豪快に笑った。
「そうだよ。アオイには沢山時間があるんだよ!永遠と言ってもイイくらい。羨ましいなぁ」
有限の時間の中で生きている人間達。だからこそ日々が愛しいのかもしれない。

イヴは優しげに微笑んだ。
『アオイがホームに来た意味はきっとあります。私は全て運命が導いてくれると信じています。抗わず流れのまま生きていけば良いのです』

「そうでしょうか…?」
私が転生した意味もあるの…?この先どんな運命が待ち受けているの…?けれども…幸せではないような気がした。シュウもモネとも別れてしまった。

イヴはニッコリとした。
『アオイ。ささやかな事も楽しんで下さい。そうすれば幸せは後からついてきます』
「はい。そうします」

そうは答えたものの自信がなかった。アオイにはいつでも“孤独“が付き纏っているのだ。転生すると言う事は、失ったものの大きさを知ることであり、それが取り戻せないと実感することなのだ。


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