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007.世間が子なし夫婦に冷たいのではなくて、自分が武装しすぎていただけだった

「結婚の自由をすべての人に」の第一審判決で、現在の法律で同性カップルがパートナーと家族になる法制度が存在しないことは、人格的生存に対する重大な脅威、障害であり、憲法24条2項に違反する状態にあると判示し、実質的な「違憲状態判決」が出された。

このことはこれからの結婚に関する議論についての大きな一歩であることには違いない。
だが私をより打ちのめしたのは、この判決に至る過程での大阪地裁の判決である。

2022年6月20日の大阪地裁の判決では、婚姻の目的は「生殖関係の保護」とし、生殖関係のない同性カップルは婚姻できなくても不平等ではなく、合理的な区別だと判断した。

私たちは共働きで子どもがいない夫婦、いわゆるDINKsである。二人とも31歳、次第に出産祝いを周りに贈ることも多くなってきた。
私がこの大阪地裁の、しかも結婚の自由を求めた裁判の判決に過剰に反応したのは、「子どもを産み育てることこそ結婚の意味」という宣言に対してはっきりとした拒絶感情を抱いたからだ。

私たち夫婦は、子どもを持たないと話して、子どもと過ごす代わりに、たくさん二人で日々を重ねようと決めたのだった。
幼少期から甘え下手だった私が、寂しかった日々を取り返すように甘え、時には甘やかす、平凡で穏やかで、楽しく愛おしい時間を過ごしている。
このことは、精神的なつながりだけではなく、自分達を法的な関係だと自認し、外部からもパートナーシップを公的に承認されていることで得られていると思う。
その結婚の「意味」を、地裁という影響力の大きな機関が宣言することで、「子どもを持たないカップルは、結婚制度を不正利用している」と社会から認定されるのではないかと恐れた。

「早く孫の顔が見たい」と無邪気に話す祖父母。
その祖父母をはっきりと諌めない父。
子どもの甲高い声に顔をしかめた私を見て、聞こえるように非難したある母親。

DINKsと検索すれば、予測ワードはこうだ。
DINKs ずるい
DINKs むかつく
DINKs 結婚する意味。

子どもを持たないだけで、夫婦で支え合って生きているだけなのに、なぜこうも息苦しいのか。

* * * * * *

「早く孫の顔が見たい」と無邪気に話す祖父母に対して、「親しくもないのに子どもをせびるなんて、なんて失礼なんだ!」と腹を立てた。
「私たちは、子どもは持たない」と伝えていたのに、はっきりと祖父母を咎めてくれない父の姿を見て、「守ってくれない」と傷つき怒った。

だが、「私たちは子ども持たないんだよ、話し合ったんだよ」と爽やかに言わなかったのは誰か。私だ。
「守ってくれない」と喚く娘を見ても、「子どもを産まないなんておかしい」などと私を非難しないで見守っていたのは誰か。父だ。

では祖父母は私たち夫婦を「おかしい」「子どもを産め」と言ったのか。
祖父母に彼らは「孫が欲しい」と言っただけで、私や私の選択を否定したことはなかった。
では勝手に疎外感を感じて怒っているのは誰か。私だ。

自分が、自分の選択に胸を張れていない、それだけなのだ。

大好きな友人に子どもができて、嬉しいけど寂しい。
「ばあば」とディズニーランドに向かう小さな女の子を見て胸が痛む。
定期的に「本当にこれでいいのか」と悩んでしまう。

自分の選択に自信が持てないから、社会が自分を責めていることにして、心地いい被害者に成り下がっていたのだ。誰も子どもを産まないことや夫婦関係を否定するようなことは言わなかった。
結婚の自由に関する裁判のセンセーショナルな類の報道の、ほんの一行を切り取って内面化して傷ついていた。

そろそろ世間の優しい無関心さに気付かなくてはならない。
何も無意味に自己開示し、「子どもはいらない!」と声高に主張する必要はあるまい。だが必要な時には、「私たちは子どもいないんだー」とさらりと言えばいい。
どうせ傷付けられると過剰に防御姿勢を取っていたことで、世間が思ったよりも自分達を攻撃してこないことにすら気づいていなかった。

先日母に、「孫と遊ぶ友達とか見て、やっぱり羨ましいって思ったりする?」と聞いてみた。
「ぜんっ…ぜ、ぜんっっっっ、全っ然、思ったこともない」と笑っていた。
「孫いたら、お母さん(母の一人称)にもお金かかるじゃなーい?」とのこと。そ、そうでしたか。

母はこう続けた。
「それにあんたたち、二人で決めたんでしょ?そしたらもっと強くなりな。それにさ、あんたがそんなんじゃ、〇〇くん(夫)、かわいそうじゃん」

まだ31歳、多分これからもっと「少数派」であることを意識する場面が自分達に降りかかるだろう。
でもこれからはしぶとく、強かに、必要がある時には「子なし」を名乗っていきたい。ひけらかす必要もなければ、隠す必要もないのだ。

#DINKs #子なし夫婦 #これからの家族のかたち

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