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有栖有栖「朱色の研究」

ねたばれはしておりませんが、犯人を予測出来る記述がございます。御留意下さいませ。




 ほんっとに何年も前に読んだので、内容が記憶のかなたに飛んでおりました。なので、新作を読む感覚で楽しめました。すっごく面白かった。
 この作品を読む前に、「海のある奈良に死す」を読了しておりました。有栖川先生はおもちゃ箱を広げて、ほらこんなに素敵な謎がありますよと提示し、そのおもちゃを飾り棚に美しく並べていくのがとても上手な作家さんだと思っております。「海のある~」はそれがなんだかちょっと有栖川先生にしては手際があまり宜しくないように感じたのですが、本作はとてもきれいに陳列完了! でした。犯人の動機については、物凄く納得出来る人と、出来ない人に分かれそうだなあと思いました。私は納得出来ない派です。
 この作品は、本格ミステリ+青すぎる恋にもなっていない恋のお話だと私は感じました。そのバランスが絶妙で、凄くいいなあと思いましたし、物語としての完成度はめちゃくちゃ高い。それは語り手であるアリスが、あくまでも火村先生の側にいて、その上で犯人の憑坐としてその感情を語っているからだと思います。もし犯人がその感情を語ったら、「恋」の比重で物語を全く違う印象に変えてしまっていたように感じます。学生アリスシリーズならそちら。でも、作家アリスシリーズなら、やはりその手法が良かったと私は思います。だから、「納得出来ない派」の私でも、この作品は物凄く素晴らしいと、読書の喜びを心から感じられます。
 それと、憑坐になれるのはアリスであって、火村先生ではない事がこの二人のシリーズをより面白いものにしているのだなあと改めて感じました。無神論者で、白か黒かの世界にいる火村先生には、多分この犯人の気持ちを完璧に理解する事は出来ない。でも、トリックを見破る事は出来る。反対にアリスはトリックは見破れないかもしれないけれど、犯人の感情を慮る事は出来る。足りない部分をお互いが補いあって成立する推理。こういうコンビは、いそうで中々いないので、貴重だと思います。
 

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