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若いビジネスマンにこそ読んでもらいたい 『衰退の法則―日本企業を蝕むサイレントキラーの正体』

ほぼ毎日読書をし、ほぼ毎日「読書ログ」を書いています。82冊目。

『衰退の法則』(小城武彦)

同じ業界なのに、生き残る会社と衰退していく会社がある。

筆者は、過去に破綻へ至った日本企業には、共通する「衰退のメカニズム」が存在するという仮説に立ちサーベイしている。

そのメカニズムに侵された企業は、アルコールで壊れていく肝臓のように、当人が知らぬうちにその機能を低下させ、いざ有事や環境変化にさらされた際に変化を受け入れられずに破綻していく。

本書では、衰退企業と同業の優良企業を以下の四つの分類でOBや関係者のインタビューを通し調査し整理し、比較をし、仮設の検証を行っている。

①経営陣の意思決定プロセス
②ミドルによる社内調整プロセス
③ミドルの出世条件・経営陣登用プロセス
④経営陣の資質

目次は以下の通り

序章 破綻企業に共通する「衰退の法則」をあぶり出す
第1章 破綻企業の内側
第2章 日本企業への文化の影響
第3章 優良企業の内側
第4章 オーナー系企業の内側
終章 日本企業への警鐘

若い人にこそ読んでもらいたい

ここまで聞くと、経営層、トップマネジメント層向けの本のような印象をうけるし、その通りなんだけど。ここはぜひ、若い人にこそ読んでほしい。

うっかり衰退企業に勤めてしまうと、自分の将来のキャリアがどうなってしまうのか、本書を読むとよくわかるのだ。

特に1章で紹介されている衰退を招く数多のエピソードは、失礼ながら笑ってしまうようなエピソードも多く、興味深く読めてしまう。だが、衰退企業に勤めてしまうと、いずれ自分の身にふりかかることになるエピソードでもある。そう思うと、ちょっと笑えない。

たとえば……

絶対に対立意見を言われたくない全会一致のシャンシャン会議を望む担当役員のため、会議用のペーパーを必死に作ることになる。残業を繰り返し、関係者への接待(もちろん相手は社内だ)を繰り返し、社内調整を繰り返し、(逆の意味で)誰にも文句を言われない、角の取れたつまらない資料を量産することになる。

上司の移動には黙ってグリーン車とハイヤーを手配し、工場の視察に来た来賓(社内の幹部)の為に予定されていた地元小学校の社会科見学をキャンセルする。100メートル離れた隣の工場に行く? もちろんタクシーを使うよ。

社内では、上司には絶対にノーと言わず、調整の鬼たる上司たちの政治的に正しい判断に黙って従う。ちなみに政治的に正しいとは「正しいか正しくないか」ではなく「好きか嫌いか、仲間か仲間ではないか」で物事を判断する態度を指す。

もちろんPDCAなんてもってのほか、上司や経営幹部の失敗を指摘することになる行為はすべて慎まなければならない。

出世を望むのであれば、上記のような生活をしながら忖度を忘れず、政治的に正しく行動し、一切目立たず上司に代わり無難なエクセルとワードの資料を作り続ける事になる。

これがオーナー系企業になるとさらなる忖度が必要となる。オーナーの車を磨き続けて出世した人が経営幹部に居たら要注意だ。

そういったわけで、上記のような仕事に自分の貴重な時間を割き、他で通用しない調整と忖度だけが取り柄の人材になりたくないと思うのであれば、背筋が寒くなったのであれば、悪いことは言わない。見切りを早くつけた方がいいのかもしれない。

優良と衰退を分けるポイントは二つの「くさび」

だがしかし「うちの会社ヤバイ!」となっても焦らないで3章まで我慢して読んでほしい。実は、上記のような衰退企業の特徴は、日本企業の「文化」という側面もあるという。

実は、優良企業を調べてみたら、わりと似たり寄ったりの結果が出てきたりもするのだ。

では、いったい優良企業と衰退企業の分水嶺はどこにあるのか? それは二つの「くさび」が関係する。

一つ目は、

①事実をベースとした議論を尊重する規範

である。つまり、正論と正論がぶつかり、より正しいとされる意見が採用されるような議論が行われているかが重要となる。

自分の会社が意思決定をどのようにしているのか? 年次や役職の垣根を超えた意見のぶつかり合いはあるのか? もし、上司や年長者に意見を言う空気感が無く、イエスマンの意見だけが登用されているようなら要注意だ。

そして二つ目は、

②人事部局の統制に基づく公正な人事登用プロセス

となる。

どんな人が偉くなっていくかを見る。人事が弱く、人治主義がはびこり、経営幹部や上司の好き嫌いでポストが決まる組織に未来は無いことが明らかにされている。

アンチパターンの教科書

ということで、自分のことは棚に上げ偉そうなことを言ったが、サラリーマンとして幸せに生きていく為にも、アンチパターンの教科書としても、とても有用な本なのでミドル層にも、トップマネジメント層の方々にも、是非手に取って頂きたいなと思う。

ちなみに、私は衰退を扱った本が好きだ。別に悪趣味なわけではなくてね。なぜか、それは、世の中にあまたある成功事例などは、ごく一握りの天才か、幸運に恵まれたか、そういった方々の結果論でしかなく、物語としてはすこぶる面白いし、気持ちも揺さぶられる。が、実際は参考にならない。

だが、アンチパターンは、自分の世界の延長にある改善活動に繋がる重要なノウハウになってくれる。目の前の課題に取り組み、自分の成長の道筋を示してくれるので好きなのだ。

個人的には『ビジョナリーカンパニー③』『HARD THINGS』(ホロヴィッツは最後は超大成功しているけど)と並んでも良い本と感じている。あと『会社は頭から腐る』にも近しいので一緒に読みたい。

それにしても、紹介されている衰退企業社員・関係者からのインタビューの内容がすごい。震えながら、笑いながら読んでほしい。

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