フランスの知の巨人が食を語る『食の歴史』
ほぼ毎日読書をし、ほぼ毎日「読書ログ」を書いています。276冊目。
「フランスの知の巨人」「欧州を代表する知性」と呼ばれるジャック・アタリの最新の本です。日本だと、NHKの特番とかに出ている印象。未来を占う大知識人的なイメージが強そう。
そんなジャック・アタリ、これまで、さまざまな分野でその歴史を紐解いてきましたが、次に取り組んだのは「食」の歴史。
例のごとく、まずは、食にまつわる歴史の大綱を駆け足で紹介していく。
以前このnoteでご紹介した『海の歴史』と似た構成。
アタリの歴史モノを指して、この歴史の大きな流れを紹介する取り組みを雑だと批判する人が多いそうだけど、それは筋違いだと思う。
これまでの歴史の大筋を理解することは、投球前のフォームをじっくりと観察するようなもので、その後の球筋を理解する為には必要なことだ。
それに、読んでいてとても面白い。フランス贔屓もアジアへの理解の浅さもきにならない、いや気になるけど、そんなことは問題にならない歴史のダイナミズムを感じられて大満足。
いやね、今回も強引なところもあるのだけど。食というのはやはり特別で、人類は人口を増やし定住するきっかけを作ったのは食だというのはその通りだと思うし。
結果、統治機構が生まれ、文明が生まれ、帝国が生まれ、その都度戦争やら内戦やらで同族同士が殺し合いを繰り返しながら現代にいたっている。そんな人間の歴史の中核に位置する重要な人間活動が食である、というのは、あながち大げさともいいきれまい。
さて、アタリは未来をどのように見ているのか、どのような道筋がみえているのか。それは、止まらない人口増加と経済的な格差への取り組みという事になるのだろう。
現在もそうだが、地球上の全人口が満足に食事をとるためには、食品産業に頼らざるを得ない。しかし、どう考えても現在の食肉産業には問題があるし、それを改善しようと願えば、規模を縮小するしか方法がない。農業も水産も効率を追求するあまり、環境破壊や粗悪な製品の乱造があり、それによる健康被害も無視が出来ない。
そして、そういった問題に付きまとうのが貧困の問題だ。現代では、貧民層は飢饉以外に、栄養出張や、粗悪な食品による健康被害で死んでいる。
資本主義社会であるかぎり、解決なんて出来そうにない。
アタリは代替食品の可能性などを模索するが、西洋では昆虫食は多くの人に受け入れられてはおらず、現在はまだ富裕層のお戯れでしかない。
では、どうしたらよいのか、どのようになっていくのか、アタリがどのような提言をしているのか。気になる方は、是非本書を読んでみてください。
救いの無い気分になるけど、面白いですよ。
食に興味のあるかた、食に課題意識を持つ方、コーンフレークが性欲減退の為に作られた経緯を知りたい方にもおすすめ。
どう考えても食に関しては悲観的な未来しか思い浮かばないなと思いながら手に取ったのだけど、アタリもまた悲観的である。
そしてここにきてこのコロナ騒動。長引けば、アタリの画く悲観的な未来は思ったよりも早く訪れてしまうもかもしれない。
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