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毎日読書#265 『谷崎潤一郎随筆集』

noteであれこれと記事をめぐっていて、芥川龍之介の随筆を紹介する記事をみつけた。

その随筆はこちら。青空文庫ですね。

芥川龍之介が谷崎潤一郎を伴って神田に行った話なのだけど、二人の仲良しな感じがほほえましい。まず、書き出しがイイ。芥川が谷崎の赤いネクタイをちゃかしている。谷崎はいつもこの格好をしているのだろう。

僕は或初夏の午後、谷崎氏と神田をひやかしに出かけた。谷崎氏はその日も黒背広に赤い襟飾りを結んでゐた。僕はこの壮大なる襟飾りに、象徴せられたるロマンティシズムを感じた。

流石だよね、この書き出しで二人の関係の関係が見えてくる。一気に読む人を舞台に引き込むこのスピーディーさ。藤子不二雄の漫画並みの手際。

芥川龍之介は随筆も上手くて、読み応えのあるものが多いのよね。

明治、大正の文豪は随筆で遊んだ人が多くて、全集を読む楽しみの理由の一つでもある。みんなサービス精神旺盛で楽しませてくれる。

谷崎潤一郎も、良い随筆を多く残していて、どれもこれも谷崎っぽくて面白いので、ライトな谷崎潤一郎ファン(ってなに)として、あれこれ読んできました。

谷崎の随筆で有名なのは『陰翳礼讃』でしょう。これ表題にした文庫も出ているし、いつだったか写真集も見かけたことがあるので、知っている方は多いと思う。

今日紹介する『谷崎潤一郎随筆集』は、谷崎の随筆のうち名作と誉れの高い11作品を収めたお得な本。

『陰翳礼讃』は、現代の日本からは失われてしまった、過去の、それこそ電気もまだ無いころの生活様式や風俗を反映した、自然と共に暮らした様式から美を見出す評論。自然と共に生活をしていた時代の、上流階級に暮らした人々が求めた美やわびさびに思いを馳せる。読んでいると、過去の日本の事なのに、どこか遠くに連れて行かれたような心持に。

本作は、谷崎潤一郎の小説が古典回帰に走った時期とかぶるのだけど、たとえば小説『蓼食う虫』で、要が風呂に案内された場面の情景など、まさに陰翳礼讃で谷崎が焦がれた世界が見事に表されていたなと思い出す。

本書では、他にも下記の代表的な随筆作品が読める。

「門」を評す
懶惰の説
恋愛及び色情
「つゆのあとさき」を読む
私の見た大阪及び大阪人
陰翳礼讃
いわゆる痴呆の芸術について
ふるさと
文壇昔ばなし
幼少時代の食べ物の思い出
「越前竹人形」を読む

なかなか盛沢山でお得です。個人的には「私の見た大阪及び大阪人」や「文壇昔ばなし」あたりが楽しかった。

とくに『文壇昔ばなし』は、芥川龍之介もたびたび登場し仲良しっぷりを見せつけてくれて面白い。谷崎と芥川が一緒になって泉鏡花をからかったり、そこに漱石と荷風加わって、島崎藤村嫌いのエピソードを紹介してみたり。

カジュアルな谷崎潤一郎ファン(ってなに)としてはこの1冊で代表的な随筆が楽しめるのでお得です。


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