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ロマンティックSFの名手であるヤングの代表作 『たんぽぽ娘』

ハインラインの『夏への扉』が日本で映画化されるというニュースがあり、しかも舞台が現代の日本ということで、友人の本読み界隈が(主に不安がる方向で)少しざわついた。なんてことがあった。

どんな作品になるのか見当もつかないが、きっと映像にかける予算もそんなに無いだろうから、アイドル俳優が活躍する甘いタイムトラベルものになるのかな。

甘いSFといえば、思い出すのはロバート・ヤング。しかも、ヤングでタイムトラベルものと言えば、代表作といわれる『たんぽぽ娘』だ。

著者であるロバート・ヤングは、生涯で二百作近い短編を残したSF作家だが、その作風はWikipediaに

叙情的で優しい、気恥ずかしいほどストレートに愛を語るロマンティックな作風が特徴。

と書かれるほどにウフフな作品が多い。ムフフじゃないよ。

同じくヤングの短編集である『ジョナサンと宇宙クジラ』は随分と昔に読んだ記憶があるが、話のあらすじは思い出せないのに、内容がロマンチックだったことだけは覚えている。

せっかくなんで読み直して確かめようと思ったが、自宅の書棚には無かった。度重なる引っ越しで、処分してしまったのかもしれない。もったいないことをした。やはり本は取っておくべきだね。

さて、ロバート・ヤングの代表作と言われる『さんぽぽ娘』だが、冒頭のような流れでどうしても読みたくなった。ということで、河出文庫から伊藤典夫編で全十三編の短編集として出ていたので購入した。

『たんぽぽ娘』(ロバート・ヤング)

短編「たんぽぽ娘」の内容をざっくり紹介すると、四十四歳の妻帯者のオッサンがタイムトラベルしてきた二十歳そこらの綺麗女性に一目惚れするも最後は夫婦愛に気が付きましたよめでたしめでたしなお話。最後まで読むと、なんともいえない甘ったるい気分に浸れます。

本短編、日本で最初に紹介されたのは、1967年に創元推理文庫の「年刊SF傑作選」に収められたのが最初みたいで、そのあと幾つかのアンソロジーに収められるも、ヤングの代表作のくせに手に入りにくい状況が続いていた。(本書の編者あとがきを読むと、どうやら版権の問題があったようで)

この『たんぽぽ娘』は人気ライトノベルである「ビブリア古書堂の事件手帖」でも紹介されており、そこで紹介されたのは「海外ロマンチックSF傑作選」で掲載された版。せっかくなら他のロマンチック作品も含めて色々と読んでみようかと思い探したが、値段が1万円近いので断念。

ビブリア古書堂効果だったのだと思うが、復刊ドットコムからも『たんぽぽ娘』のみが刊行されたりもしたようだ。

今、新刊で読めるのは↓の企画本と、

今回私が購入した伊藤典夫編の短編集の2冊。

ビブリアのほうは、ファンブック的なものだと思うし、掲載作品もビブリアシリーズを読んだ人向けになっているので、積極的におすすめするものでもなさそう。

純粋にヤングを楽しむということなら、安定の伊藤典夫訳ということもあるし、こちらの河出文庫をどうぞ。たんぽぽ以外も良い作品が揃っている。

編者あとがきを読むと、伊藤典夫自身が、

このたびは「たんぽぽ娘」を中心にヤングが遺した二百編近い短編を手に入る限り読みあさり、版権などの制約なしに自由に選んで、十三編をここに収めた。

とあり、結構なヤング好きではないか。なんだか、友人の家にあそびに行ったら、本棚に「BOYS BE…」(学園ラブコメオムニバスでDT男子から大人気だった)が並んでいて見ている方が照れてしまう的な面白み。伊藤典夫と聞くと、『2001年宇宙の旅』とか、わりとハードで硬いSF作品を手がけられているイメージが有ったので意外。熱の入ったヤング解説も面白いので是非。

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