見出し画像

「酉の市」  ラジオ番組『仙波書房の東京歳時記』連動企画記事 11月分

各季節ごとの東京の行事や、文化を文学作品内の描写からご紹介するラジオ新コーナー番組『仙波書房の東京歳時記』は毎月第3土曜日の深夜に放送。
ラジオ連動企画記事として、noteでは番組の概要を掲載。
  
今月11月は「酉の市」について紹介。

「さア、掻込め掻込め、縁喜のいいの、負つたい負つたい!」
売手は声も嗄(か)れよと怒鳴る。
十円と云ふ熊手を二円までつけたが、今年は売らなかつたと話し合つて行く縁喜商売の年増がある。
三尺もあらうと云ふ大熊手を高々と指上げて群衆を割つて行く兄哥もある。
笹に刺した八ツ頭を大切さうにぶらさげて、美しくとり上げた銀杏返(いちょうがえし)に熊手簪をいなせにさした女もある。
その群衆の中を突のけるやうにして、驀地に𠮷原へ突貫する兵子帯連の一隊もある。
袂をちぎられる、足を踏まれる、道路の中央に予め引かれた綱が、僅かに衝突を免れる境界線で、昔は怪我人もあツたらう。
酉の市は年によつて二度ある事がある。
三度ある事もある。
三度ある年には火災が伴ふと云ひ伝へて、恐れられると云ふのも、何かさうした例があるからでもあらうが、十一月の月に入つての最初の酉の日を初酉、次を二の酉と云つて、まづ大抵の年は二の酉でとどめられて居る。
龍泉寺町の他、深川の八幡、四谷須賀神社、新宿北裏華園神社、南品川荏原神社などの大鳥神社も、相応に賑ふが、到底龍泉寺町の比ではない。
『夜の四季』 武田鶯塘(おうとう)

こちらは、武田鶯塘(おうとう)による「夜の四季」という作品の一節。
大正8年の作品で、東京都台東区千束にある鳳神社での酉の市について記されている。

鳳神社の祭礼「酉の日」は俗に「酉のまち」と呼ばれ、「まち」は祭りの意味、現在では一般的に酉の市と呼ばれている。

11月最初の酉の日が初酉または一の酉、次が二の酉と呼ばれ、年に酉の市が二度しかない時が多いのだが、たまに三の酉まである年もある。
ただ、その年は火災が多いという俗信も…

さて、酉の市と云えば、熊手。
「三尺もあらうと云ふ大熊手を高々と指上げて群衆を割つて行く兄哥もある。」
作品中でも1m位の大きさの熊手を買って帰る方の描写がある。
福、縁起をかきこむための熊手は商売繁盛を祈り、購入する方が多いのは昔も今も変わらない。

「袂をちぎられる、足を踏まれる、道路の中央に予め引かれた綱が、僅かに衝突を免れる境界線で、昔は怪我人もあツたらう。」

また、本作品の他に、このような句も残っている。

吉原ではぐれし人や酉の市   正岡子規
何やらがもげて悲しき熊手かな 高浜虚子

酉の市があまりに混んでいて、人とはぐれたり、名物である熊手を購入したのに縁起物の飾りが取れてしまった…という句が残り、酉の市がかなり混み合っていたことが様々な作品から伝わる。

それから、「笹に刺した八ツ頭を大切さうにぶらさげて…」と、いう描写もある。
酉の市では熊手の他に、芋頭(里芋)、栗餅なども販売。
芋頭は芋のあたまと書いて、古来より頭の芋(とうのいも)と呼ばれている。
これは、人の頭に立つように…つまりは出世できますようにと…願いが込められている。
さらに、芋頭はひとつの親芋からたくさんの子芋ができることから「子宝に恵まれる」という意味も込められている。
ちなみに、栗餅は金持ちに…という語呂合わせ。
熊手以外の縁起物、芋頭、栗餅を販売していた様子は、当時の風俗画にも残っている。

今回紹介した武田鶯塘(おうとう)の「夜の四季」の他にも、「酉の市」については、樋口一葉の代表作「たけくらべ」や、正岡子規の「熊手と提灯」他、様々な作品内で記されている。

今年の酉の日は、一の酉が先日の11日(土)で過ぎ、二の酉が来週23日(木)にある。
ちょうど、勤労感謝の日で、祝日にあたるので、皆様で出かけてみては。

このように明治から昭和初期の文学作品を通した当時の東京の様子と、各季節ごとの文化を番組内で、やさしく紹介するラジオ新コーナー番組「仙波書房の東京歳時記」。
作品中に描かれている今も変わらない東京の名所、逆に今は無くなってしまった風習、文化など、番組を通して、東京の現在と過去を感じてもらえたら、嬉しく思う。


■ラジオコーナー番組との連動企画
本記事は、ラジオ「池袋FM」で放送中のコーナー番組
『仙波書房の東京歳時記』と連動。
ラジオは以下の日時に放送!

11月18日(土)の放送では、今回のnote記事にある「酉の市」について紹介。
2023年11月18日(土) 23:30~23:45
「Like water…」内
『仙波書房の東京歳時記』
池袋FMにて放送!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?