移乗動作の問題(ブレーキ・フットレスト管理等)に対する評価とリハビリテーション-高次脳・認知機能障害に対する、脳科学的な考え方と評価・アプローチ方法-

移乗動作におけるブレーキやフットレスト管理へのアプローチってめっちゃ悩みませんか?

移乗動作においては、

・ブレーキやフットレストの管理が難しく、なかなか自立にならない
・移乗動作の手順の定着が促せない
・なぜ移乗動作のエラーが生じているのかが分かりにくい

などなど、さまざまな悩み相談を受けることがあります。

実際の臨床では、移乗動作の観察を通じて、身体機能、感覚機能、高次脳機能面や認知機能面の関わりを考察する。

そして、移乗動作のエラーの原因を特定し、間接・直接的にアプローチし、さらに必要に応じて環境設定を行う、という流れが必要になります。

移乗動作に対する評価やアプローチがよくわからない方の最大の共通点、それは、、、
「移乗動作の自立を妨げる要因の理解と評価方法、アプローチの仕方」を理解できていない事にあるんです。

移乗動作の定着がなかなかうまくいかないと…

移乗動作は、車椅子を用いる必要がある人にとっては、かなり重要な動作になります。

ベッドからの乗り移り、トイレでの乗り移りなど、日常生活を自立して送るためには必要不可欠な動作と言えます。

移乗動作が自立できない場合、介護負担が大きくなることで、在宅復帰の妨げになることが予測されます。

「移乗動作の問題(ブレーキ・フットレスト管理等)に対する評価とリハビリテーション-高次脳・認知機能障害に対する、脳科学的な考え方と評価・アプローチ方法-」の出番です

このnoteは、移乗動作のエラーを軽減する事に焦点を当てています。

移乗動作の構成要素、高次脳機能、認知機能側面の関わりを確認する。

そこから必要な評価が考えられ、評価結果に応じたアプローチが組み立てられる。

そのようなことを目指して作りました。

もちろん、症状には個人差がありますが、ベーシックな考え方ができるように内容が構成されています。

患者様に、症状の出方やアプローチの考え方を説明する際にも、もちろん使える内容になっています。

マガジンでは脳卒中や前頭葉機能障害についてのnoteを確認できます

脳卒中リハビリテーションの臨床場面でよく遭遇する
・視床
・大脳基底核
・橋
・小脳
に対するリハビリテーションの考え方と実践についてのマガジンです。

脳画像の読影ができ、神経システムとの関係性の理解が進めば、なぜその症状が出現しているのかがわかります。
すると、評価や治療で行うべきことが把握できるようになります。

前頭葉機能障害については、スタンダードな実践方法を分かりやすく解説しています。

専門書はお値段が高く、少しでも皆様のお手元に渡りやすいと思われる値段設定にしました。

貴重な時間を無駄にしないために、できるだけ端的に、臨床場面に活かせるような内容にしました。

私見も含まれているため、臨床応用する場合は慎重に行ってください。
このマガジンが皆様の臨床の手助けになれば幸いです。

移乗動作で問題になりやすい事

移乗動作は、起立から立位を含む工程が含まれているため、転倒に繋がりやすい動作と言えます。

移乗動作には、起立前のブレーキ・フットレスト管理が含まれており、そのエラーは転倒リスクを高めてしまいます。

認知機能低下や高次脳機能障害があると、自己でのブレーキ管理等が行えなくなることがよく確認されます。
また、半側空間無視や注意障害の存在は、移乗動作の自立を妨げやすくなります。

移乗動作が自立できないと、ベッド上での生活を余儀なくされたり、家族の介護負担が増すため、在宅復帰につながりにくい事も考えられます。

移乗の相

車椅子とベッド間の移乗は、順序立てられ、組織化された動作です。

移乗の相は主に、
①車椅子をベッドに寄せる

②ブレーキを止める

③フットレストを上げる

④移乗する 
というように、大まかには4つの相がある動作になります。

移乗動作の工程分析

移乗動作を細かく工程分析します。
①移乗可能な位置にまで車椅子を近づける

②左のブレーキをかける
 
③右のブレーキをかける
 
④左のフットレストを上げる

⑤右のフットレストを上げる
 
⑥立ち上がる
 
⑦その場で回転する
 
⑧着座する

片麻痺者の場合、⑤と⑥の間に「麻痺側の足の位置を整える」という工程があるかもしれません。

行動に関わる脳部位

ここで、脳についての話に変わります。

我々が行動するまでの順序は以下のようになります。
・認知
 
・評価
 
・行動計画
 
・運動プログラム
 
・運動

そして、各段階においての、関わる脳部位は以下のようになります。
・認知(後頭葉、側頭葉、頭頂葉)
 
・評価(側頭葉内側(辺縁連合野))
 
・行動計画(前頭前野)
 
・運動プログラム(補足運動野、運動前野)
 
・運動(一次運動野、脊髄)

視床と大脳皮質-大脳基底核ループの関係性

大脳皮質の運動関連領域から出力された情報は、大脳基底核の入力部である線条体(被殻・尾状核)に伝達されます。

その後、直接路(アクセル)と間接路(ブレーキ)の二手に分かれ、大脳基底核の出力部である淡蒼球内節・黒質網様部に至ります。

その情報は視床へ伝達され、最終的には運動関連領域へと収束していきます。

直接経路は、抑制を緩めて運動を促進させる(脱抑制)経路で、間接経路は、抑制を強めて運動を止める経路です。

このような運動制御の中で、視床亜核に情報が伝達されますが、これを担っているのが主にVA:前腹側核(Ventral anterior nucleus)、VL:外腹側核(Ventral lateral nucleus)です。

前腹側核(VA:Ventral anterior nucleus)は、以下のような特徴があります。
入力:基底核、小脳
出力:運動前野、補足運動野
運動プログラム、姿勢制御に関連

外側腹側核(VL:Ventral lateral nucleus)は、以下のような特徴があります。
入力:基底核、小脳
出力:運動野
精緻運動に関連

視床が損傷することで、大脳皮質—大脳基底核ループの機能低下が起こることが予測されます。

大脳皮質-大脳基底核ループの具体的役割と生じる障害

大脳皮質-大脳基底核ループは、
①運動ループ
②眼球運動ループ
③前頭前野ループ
④辺縁系ループ
の、4つのループからなります。

運動ループは、補足運動野-被殻-外側腹側核でループを形成し、記憶誘導性の運動や、自発的な動作に関与します。
運動ループの機能低下が起こると、記憶を元にした運動の手順の障害が起こることが予測されます。
また、自発的な運動が起しにくくなることが予測されます。
 
眼球運動ループは、前頭眼野-尾状核-前腹側核、背内側核でループを形成し、眼球運動(サッケード)が頻繁に生じないように抑制をする役割があります。
眼球運動ループの機能低下が起こると、サッケードの抑制障害が起こったり、自発的な眼球運動が生じにくくなるなどが予測されます。

前頭前野ループは、背外側前頭前野-尾状核-前腹側核、背内側核-外側眼窩前頭皮質-尾状核-前腹側核、背内側核でループを形成し、遂行機能、問題解決、意思決定や衝動のコントロールを制御する役割があり、報酬予測にも関連します。
前頭前野ループの機能低下では、これらの機能低下に加え、運動学習を阻害することも予測されます。

辺縁系ループは、前帯状回-腹側線条体-背内側核でループを形成し、情動や動機付けに関与しており、辺縁系ループの機能低下では、情動のコントロールや動機付けの障害が生じることが予測されます。

大脳基底核障害が生じる視床亜核は脳画像上どの部位にあるのか

おまけとして、大脳基底核障害が生じる視床亜核は脳画像上どの部位にあるのかを確認します。

「VA」が前腹側核、「VL」が外側腹側核、「MD」が背内側核です。

外側腹側核の損傷では、記憶を元にした運動の手順の障害、自発的な運動の障害が起こる可能性があります。

前腹側核、背内側核の損傷では、サッケードの抑制障害が起こったり、自発的な眼球運動が生じにくくなる可能性があります。
また、遂行機能、問題解決、意思決定や衝動のコントロール、運動学習の障害が生じるこ可能性があります。

背内側核の損傷では、情動のコントロールや動機付けの障害が生じる可能性があります。

大脳基底核の働きと移乗動作の関係性

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