僕はケンタに恋をした。⑤(再会)
*ここからご覧になる方は、是非一番最初からご覧頂くと前後関係が分かるかと思います*
「月曜日から大阪いるよ」
それは私にとって予想外な返信だった。
ケンタには1年以上連絡をしていなかったこともあり、返信があったこと自体に驚いていたが、まさか大阪に来るとは・・・
土曜日の朝、奈良へ向かう電車の中でケンタからの想定外の返信に、一瞬どうすれば良いのか考えてしまった。
LINEを送った時は軽い気持ちだったし、まさか返信があるとも思わなかった。
ましてや会うことになるなんて全く想定していなかった。
でも、こんなチャンスまたとないかもしれない・・・
17年ぶりに会うけど何を話せば良いんだろう・・・とか、どんな顔になってるんだろう・・・とか、ケンタは自分のことどう思ってるんだろう・・・とか。
色んなことが頭をよぎったが「会う」以外の選択肢はなかった。
早速月曜日の夜に会おうと返信し、何を食べようか相談したところ、ケンタから
焼き肉食べたい!
と返信があり、梅田で黒毛和牛食べ放題のお店を予約した。
そして月曜日当日・・・
月曜日は朝から打ち合わせや外勤が続き、忙しくしていたが心ここにあらず状態。時計ばかり気にして全く仕事にならなかった。
そして定時になり早々に仕事を切り上げ梅田へ。
約束の時間よりも早めにお店に着き、個室でケンタを待った。
もうドキドキしかなかった。
17年の月日が経ち、今やっと会える・・・夢にまで見たケンタに。
「お前は乙女かっ!!!」ってツッコミが入りそうだが。
1分1秒がとても長く感じた。
「本当に来るんだろうか・・・」ケンタは来ないのではないか・・・
そんなことばかり頭に浮かんだ。
ガラっ・・・・
扉が開いた
久しぶり
そこに現れた青年。間違いなくケンタだった。
17年前の記憶のままではなかったが、確かにケンタだった。
そこから時が経つことを忘れるくらい色んなことを話した。
ケンタは中学生の頃に付き合っていた彼女と同じ高校に行くために、あえてレベルを落としたが、結局彼女はその高校に落ちてしまったこと。
彼女と別れ、サッカーも辞めたこと。
サッカーを辞めた反動で高校生活は堕落して、最低限の単位を取るだけで家にも帰らず、ほとんど学校に行かなかったこと。
両親が離婚し、荒れて色んな悪さをしたこと。
高校を卒業してトラックの運転手になったこと。
ケンタは17年前と同じように、靜かに、優しく話してくれた。
風の噂に聞いていたが、実際に本人の口から話を聞いて驚きの連続だったし、自分の中にぽっかり空いた17年を埋めるかのように、話に聞き入った。
中学生の頃のケンタはみんなに慕われ、好かれ、まさにヒーローだった。そして誰もがプロサッカー選手になれると信じていた。そのために、ケンタもプライベートを犠牲にして全てをサッカーにかけていたし、その姿を近くで自分も見ていた。
そんなケンタが、全く逆の道を進んでいた。
話を聞きながら、自分に出来ることはなかったのか・・・自分がもっとケンタを支え、正しい道へ導いてあげることが出来なかったのか・・・
何をもって正しいと言えるのか。
ケンタの今の道が「正しくない」と自分が決めるけるのもおかしな話だ。
だが17年前、自分がケンタのことから逃げずに向き合っていれば・・・
もっともっとケンタと話をしていたら。高校受験について話をしていたら・・・
ケンタの悩みや相談を聞いていたら・・・
もしかしたらケンタの人生が変わっていたかも知れない。
そして、17年も空白が開かなかったかもしれない。
そんなこと、今言っても仕方がないと分かっていながらも、頭の中ではそんなことばかりグルグル、グルグル駆け巡っていた。
ケンタのアイコスのフィルターが5本を超えた頃、食べ放題終了の時間となった。
あっという間に2時間が過ぎた。
まだまだ話足りないのは自分だけではなかったようで、梅田の喧騒の中をブラブラ歩くことにした。
香水の匂いなのか、柔軟剤の匂いなのか分からないが、夜風とともにケンタから流れてくるその匂いは、17年前と同じような気がした。
それから、健太が大阪に来た際に、何度か会った。
その度に、17年間を埋めるように色んな話をした。
失った17年は取り戻せないけど、でも大阪での再会がきっかけで、18年目の1歩目を始めることが出来たような気がする。
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