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モータースポーツを描く失敗例としての「オーバーテイク!」

再放送が始まる「アルドノア・ゼロ」を楽しみにしております。
好きな作品なのです。また見られて嬉しいです。

しかし、今日はその話とは別に、同じあおきえい監督でスタッフも一部同じの「オーバーテイク!」の話をしようと思います。

つまらなかった

一言で言うと、超絶つまらなかったのです。途中で離脱するほどです。

つまり、「アルドノア・ゼロ」が面白かったのは、「オーバーテイク!」にいなかった脚本であり原案も勤めた、虚淵玄さんと音楽の澤野弘之さんの力が大きかったのではないかと思います。
キャラデザ原案の志村貴子さんのファンなので残念な限りですが、たぶんあおき監督は、前にお話しした水島監督と同じ演出家タイプの監督なのでしょう。

モータースポーツは普通のスポーツではない

さて、「オーバーテイク!」が面白くない理由は、モータースポーツを普通のスポーツものとして描いたからだと思っています。
「オーバーテイク!」はフォーミュラ4という実在のレースカテゴリーを舞台にしているのですが、プロモーション段階からフォーミュラ4を「モータースポーツの甲子園」と表しています。

「オーバーテイク!」で舞台となるのは“モータースポーツの甲子園”としての役割を担うF4(フォーミュラ4)の世界。

「オーバーテイク!」実際のモータースポーツに寄り添いながらも人間ドラマを描く

これが間違いだと思うのです。

実は私はレースに関わったことがあります。なのでわかるのですが、巨大な設備、超絶的性能を持つマシン、工芸品のようなパーツ、大勢のスタッフ…モータースポーツは他のスポーツより大きなお金がかかります

そうなると、フォーミュラ4でトップを争うには、プロと同じ資質が必要です。
それは、応援者やスポンサーを惹きつけたり、ライバルと同じスキルであるときにトップチームに選んでもらえる人間的魅力です。
つまりフォーミュラ4は甲子園などではありません。すでにプロと同じ土俵であり、ドライバーは人間的に完成されていなければいけないのです。
2024年現在、日本人唯一のF1ドライバーである角田裕毅選手は英語での口の悪さがウケていますが、それはキャラ設定だと思っています。

なのでモータースポーツでプロを目指す人、F4のトップランカー達は、幼い時からカートレース等を通じて、そういったことを意識して育ってきています。
ひとつの問題として、それが既に曽田正人さんの「capeta」(アニメ化もされています)で描かれていることです。前例があるのになぜそこから学ばなかったのか、と思ってしまうのです。

なのに普通のスポーツものとして描いてしまった

なのに「オーバーテイク!」は主人公の精神的成長を物語の主軸にしてしまいました。
反抗的で頑固者、とても親しみやすいとは言えない性格の主人公で、とてもF4のトップになれるドライバーとは思えませんでした。
しかも、トップチームから選ばれたのに、こだわりで蹴ってしまいます。
これも上を目指すならあり得ないと思うのです。
フォーミュラ4は同じ車体を使い、チームごとの条件差を低くする工夫がされていますが、それでもお金があるチームとそうでないチームでは、大きな違いがあります。
消耗部品が潤沢にあるだけでタイムに差が生まれるのです。
タイヤ、ブレーキパッド、そういった部品のほんの少しの鮮度の差が、勝敗を分ける鍵になります。
モータースポーツで上を目指すなら、「オーバーテイク!」の主人公がこだわるべきものは違うものであるべきだと思うのです。

リアル路線なのに同期放送のMFゴーストほどの「レースの面白さ」がなかった

運が悪かったのは、同期に「MFゴースト」が放送・配信されていたことです。
MFゴーストはファンタジーです。
ですが、モータースポーツものでヒット作をいくつも出しているしげの秀一さんが原作ということもあり、レースの駆け引きを物語に組み込むのが一枚上手だと思いました。
それと、ダサい部分があっても男子に訴えかける中二病的な魅力がMFゴーストにはありました
「オーバーテイク!」はリアルな路線を目指したので、それが得られませんでした。

モータースポーツものを面白くする条件?

スポーツものとして、視聴者が望む「勝利」や「熱」みたいなものはモータースポーツであっても同じです。
しかしモータースポーツには独自の何かがあると思います。
ひとつ確かなのは、スポーツものにありがちな人間的成長を描くとリアリティが消える、ということです。それをやるならcapetaのような半生を描く大河ドラマにするか、サイバーフォーミュラのように完全なファンタジーにしてしまう方法になると思います。
おそらく、モータースポーツものを面白い作品にするには、人間的成長とは別のもっと高度で、そして幼稚な、独特の何かが必要なのです。
なので、作り手のモータースポーツに対する理解がない限り難しく、安易に手を出してはいけない分野に思えます。
ええ、たとえばハイスピードエトワー…ゲフンゲフン、いや、なんでもありません。

以上、「オーバーテイク!」を例にした「モータースポーツもの」の考察でした。


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