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私的推薦盤~Pink Floyd『The Division Bell』

 ロックというものに私は偏見があった。なにせ根がフォークなヤツだもんで、「うるさい」「やかましい」「グレてる」「ワル」といった先入観があったのだ。そんなやかましい音楽をなぜ聴くのかわからなかったし、音楽って静かに聴くもんだと思っていたのである。そう、中学の前半までは。

 そんな私の考えは完全に間違っていたと知るのにそう時間はかからなかった。いろいろ音楽に触れていくうちに、ロックにはロックの良さがあり、先入観の枠にハメたところでそれは自分の世界を狭めることに他ならないことはすぐにわかったのだ。何かきっかけが特にあったかというとあまり覚えていない。

 そんな私が高校に入学すると、周りは音楽に詳しい奴らばっかりで、ちょっと焦りを覚えた。「洋楽を知らないのは音楽を知らないヤツ」というレッテルを貼られそうで、とにかく洋楽を聴いてみようということからテレビの『ベストヒットUSA』だけを頼りに洋楽の扉を開けることになった。

 だから洋楽なんて何にも知らない私からすると、本当に赤ん坊が世界に飛び出すかのようなものだったのだ。とりあえずPhil Collinsの『No Jacket Required』を聴いたが、これも結構にぎやかに感じた。にぎやかというと語弊があるかな。とにかく重厚に感じたのだ。それでもPhil Collinsは「ポップス」なんだそうな。ジャンルってやつはよくわかんねぇな。

 そこからどう発展すべきか困った。とりあえずPhilのことをいろいろ調べると、Genesisのメンバーなんだとか、Genesisってこういうバンドなんだとか少しずつわかってきたのだ。Genesisを聴いたらちょっと不思議な感じがしたが、それでもGenesisって「プログレッシブ・ロック(以後、プログレ)」なんだそうな。は? プログレ? なんじゃそれ? ……って感じである。

 調べるとなんだか小難しいことがいろいろならんでいる。うわぁ~、こういうのって語っちゃう人がたくさんいるんだろうなぁ~って思うだけで私はなんだかイヤぁ~な気分になる。ん? お前も語ってるじゃないかって? ん~、まぁでも専門的なことってほとんど語っていないような気がする。だって音楽的なことって、専門的な教育を受けてなければ、好きか嫌いかでしか語れないんじゃないかって思うわけだから、結局は私は主観をこねくり回しているだけでしかない。

 うわぁ~、前置きが長くなったなぁ。ということで、今回はプログレの雄の一つであるPink Floydである。プログレって何か、と言うことについてはやめておこう。炎上必至だから。まぁ「私的推薦盤」の第1回はKing Crimsonだったわけだから、プログレでは2回目ってことになるかな。とはいえ、私はPink Floydに対しては長いこと不誠実な態度をとってきた。不誠実な態度とは、「名前は知っているけど手を出さない」というヤツである。簡単に言えば食わず嫌いだ。それにPink Floydがプログレだと知るのはかなり後になってのことで、名前の響きからパンクだと勘違いしていた時期すらあったのだ。

 ではなぜ聴くことになったのか。話は簡単。妻が『The Division Bell』(1994)を持っていたからだ(邦題は『対』)。

 いやぁ、びっくりしましたよ。とにかくギターの音がすごい。David Gilmour(デヴィッド・ギルモア)のギターが、宇宙の彼方まで響いていきそうな感じなのだ。「Cluster One」はホント、インストだし、すごくガツンとやられた気分だったのだ。

 まぁ主観でいろいろと語りたいことはあるけれど、やっぱり聴いてもらわないことには何ともねぇ。

 ただ、『The Division Bell』はAOR路線とも言われていて、プログレファンからすると邪道になるのかもしれないし、Roger Waters(ロジャー・ウォータース)は脱退した後に『The Division Bell』を酷評してたし、そういう意味ではまぁ、プログレと思って聴かない方が賢明なのかもしれない。私はプログレという先入観を持たずに聴いて、純粋にこのアルバムがすごい好きになったし、一時期結構ヘビー・ローテーションしていたわけだ。コテコテのPink Floydならば、以下の三つあたりがメジャーになるのかな。

どれもこれもすごいんだけど、アルバム一つ一つのクオリティーに関していえば、どれがよくてどれがよくないとは言えないし、欲張りな言い方をすれば、「どれも好き」である。だがPink Floydへの入り口を作ってくれたのは紛れもなく『The Division Bell』なわけであり、Pink Floydが大好きな人たちでそのクオリティーをこき下ろす人がいるならば、それまでの経緯だとかなんだとかを抜きにして一枚の音楽のアルバムとして聴いてほしいなぁと思うのである(まぁそれはKing Crimsonの『The Power to Believe』にも言えることだけど……)。

 Roger Waters脱退以後はオリジナルアルバムは3枚だったPink Floydだけど、最後の『The Endless River』(2014 )でバンドとしての活動は終りであることを宣言している。キーボードのRichard Wrightが亡くなったことがその理由らしい。そのドキュメンタリー映像を偶然テレビで見ることがあって、すぐにCDを買いに走った記憶がある。

 これもまた全体的に壮大な感じがする内容で、「プログレ」なんてくくりはどうでもよくなってしまいそうな感じだ。大作映画のサントラを聴いているような錯覚すら覚える。

 こういうのを聴くと、「ジャンルってそもそも何なのだろう」と思えてくる。そのジャンルの枠の中であれこれ言うのは勝手だが、ミュージシャン自身がその枠を意外と窮屈に感じていたりはしないのだろうかと疑問に思うことがある。だから、聴く側がどう感じるかは自由なんだけど、それまでの作品を持ち出してきて「これはPink Floydじゃねぇ」なんて言うのは私は嫌いなのだ。いろいろやってきたら、どんどんいろいろな方向へと発展していくのがクリエーターというものじゃないかなぁって思うわけで、聴く側が勝手に枠にハメてしまったらそれはそれで気の毒な気がするし、世界を狭めやしないかって思うわけだ。そもそもジャンルといった枠なんて所詮矮小なものでしかないわけだし、ましてやそれが偏見やら先入観やら思い込みのレベルになってしまったら傾聴に値するんだろうかとすら思えてしまう。

 もうPink Floydは活動をしないわけだから新作にお目にかかることはないわけだし、再結成も多分ないだろうな。だから過去の作品を聴きこんで理解していくしか私たちにはできないわけだけれど、何度聴いてもその奥深さに恐れおののくばかりで(もちろんすごくいいのだけれど)、それを理解できない自分にちょっと失望するのである。

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