見出し画像

私的推薦盤~Sting『Brand New Day』

 いくつになっても元気な人は元気だ。ちょっとくたびれたサラリーマンである私としては、そういう元気な人ってすごくまぶしく見えるのである。一方で近ごろ自分の頭が薄くなってきて、別な意味で周囲をまぶしく思わせ始めているわけだが、こっちの方はあんまりまぶしくなりたくないものだ。

 さて、そんなわけで(どういうわけだ?)、今回はイギリスのスターであるStingを採り上げる。「お?メジャーじゃん!」と思われるだろうが、私は結構ミーハーなところもあるから、それなりにメジャーだってカバーしているのだ。しかしそれでも私だって最初はStingに対して食わず嫌いなところがあった。思い返せば、CDが世の中に登場した時には私は中学生だったのだが、その後急速に普及し始めたのが私が高校生の頃である。他で書いたのだが、私がCDプレーヤーを手に入れるにあたっていろいろなカタログやら雑誌やらを見ているときに、Stingの『The Dream Of The Blue Turtle』(1985)がやたらと目についた。

当時そのアルバムがどういう評価を受けていたかはよくわからない。ただ新しいオーディオが登場すると、世の中で音響的に評価の高いものが引き合いに出されることがある。そういえばDonald Fagenの『The Nightfly』(1982)も録音状態が良いと言われていていろいろなオーディオのテストに使われるんだそうな。

だからStingの『The Dream Of The Blue Turtle』もひょっとしたらそうなのかもしれない。まぁただそのアルバムでStingはThe Police解散後ソロとしてスタートしたわけだから、注目されるのは当然のことだったのだろう。

 とはいえ、まだ洋楽のことはよく知らない(今もあんまり知らないが……)私としては、どうも手が出ない。なんかジャケットが気に入らんのだ。理由はない。ただ、赤貧の学生の身としてはCDのジャケ買いはリスクがあった。だからかもしれない。結局私がStingに触れるには、1993年まで待たなければならなかった。

 どうして1993と覚えているかというと、その時から妻と付き合い始めたからだ。妻が「これ、すごくいいから聴いてみて」といって借りたのが『Ten Summoner's Tales』(1993)なのだ。

 「スティングかぁ、なんか縁が無かったなぁ」と思って、これを機に聴いてみようと思ったらこれがいい。ホントいい。特に「Fields Of Gold」がいい。これは後にいろんな人がカバーしていることがわかり、プロにもウケが良い曲なのだということがわかるわけだけれども、そもそもStingに対して食わず嫌いを決めていた私がどうして聴こうという気になったのかというと、当時彼女だった妻に勧められたというのもあるのだが、Stingの額のあたりにすごくシンパシーを感じてしまったからだ。「これは、ひょっとすると……」というあたりで私のStingに対する壁が一気に下がったのである。「なんだかなぁ、音楽と関係ねぇじゃねぇか」と思われた方。その通り。ある日突然障害が無くなるなんてそんなもんじゃねぇかな。あれ? それじゃぁ『The Dream Of The Blue Turtle』に手が伸びていかなかったのは、ジャケットのStingの頭がフサフサしてたから? ……知らん。あ、Stingはベーシストだったっけ。それもまたベースをちょっとだけかじった私からすると親近感がわいたし、「弾くことと弾かないことは同義だ」という名言を残されているのもStingなので、その辺りもリスペクトの対象となったわけである。

 『Ten Summoner's Tales』で一気に障害が無くなった私は、その後Stingのアルバムを妻に借りて聴くことになったのだけれど、Stingってアルバムによってコンセプトがすごくはっきりしているというか、その時にやりたいことを思いっきりやってくるから、合う時と合わない時の差が結構激しかったりする。『The Dream Of The Blue Turtle』はなんかよくわからんかったし、『Soul Cage』(1991)もちょっと合わない感じがしたけど、『Mercury Falling』(1996)は結構よかったのだ。そんな感じ。妻も同じようなことを言っていたし、後からジワジワくるのもStingなんだとか。うん、確かにそうかもしれん。

 そんな中で聴いた瞬間に身震いしたのが『Brand New Day』(1999)なのである。

 これはすごかった。ホント、一曲も無駄がない。無駄なんてものはアーティスト側からすればそもそもないのだろうけど、聴く側からすると同じテンションで聴き続けるっていうのはなかなか骨が折れることもあるもんで、たいていは数曲くらいちょっとお休みできる曲があるようなもんだと思っているが、このアルバムは違う。寸分も隙がないのだ。特に2曲目の「Desert Rose」には腰を抜かした。ともに歌うシェブ・マミの声は最初女性と信じて疑わなかったのだが、男性と知ってこれまた驚いた。しかも中東の歌手とのコラボなんて、欧米系の歌手、それもスター級の人がやるなんて考えもしないではないか。このあたりのいきさつは、『All This Time』(2001)のDVDでSting自身が詳しく述べている。

 いやぁ、Stingの額もすっかり熟成が進み、私としてはもはや勇者の域に達しつつあった。それでいてかっこいい。うん、実にかっこいい。これぞスーパースターなんだな。関西人が人をののしる時に「ハゲ!」っていうけど、あれって差別なんじゃねぇの? 失礼極まりないし、そういうのがまかり通る関西ってどうしても好きになれない(それだけで判断するのって心が狭いと言われそうだが、別にかまやしねぇ。だったらそういう言い方をやめろっての)。そんななか、臆することなくStingはカッコよさ全開で素晴らしいアルバムを発表してくれたわけなんで、私の中でStingはこのアルバムをもって間違いなくスーパースターになったのであった。

 その後のStingは、これまたいろいろな方面に手を出して、クラシックの域にまでいっちゃったこともあるけど、『57th & 9th』(2016)で再びロックの方へ帰還してくれて、夫婦して喜んでいる。

 ただ、私としてはある時期からStingの額の後退が止まっているように思えるのだが、これってSting、何かやってるわけじゃないよね。やってないよね。お願い、何もしてないって言ってくれ!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?