TRN ST7は寒色系と暖色系ノリを併せ持つ独特な個性で30ドルの価格破壊2DD+5BAイヤホン
TRN ST7とは?
TRN ST7は30ドルで同軸2DD+5BAのハイブリッド型イヤホンです。
筐体は全樹脂製(プラスチック)で、内部に10mmのLCP振動板のDDに6mmのコンポジット振動板のDDを同軸上に配置する構造で、さらに複数のBAを搭載しています。型番は中高音域用に50060が2基、高音域用に30095が2機、30019が1基。
これだけ多くのドライバ(スピーカー)の数を搭載しつつ、30ドル (2024年5月2日現在、日本円で4650円)という強烈に攻めた低価格を実現しているところがエポックメイキングなイヤホンです。
カラーリングは黒と白があります。
私は黒を購入したのですが、このイヤホンは白がオシャレだったかもしれません。
ケーブルは脱着式で断線対策や音質変化を狙っての交換が可能です。型はKZ Cタイプです。QDC端子とも呼ばれています。
6-7ドライバのイヤホンは低価格でも9000円〜14000円以上するだろうことを考えれば、本当に安く仕上げてきたな、と思うところです。人によってはこれだけ多くのドライバ数で構成したイヤホンがこの価格ならば、もうそれだけで『買い』となるだけの安さです。さすがコストパフォーマンスモンスター TRN の面目躍如、といったところです
付属物・装着感など
付属品はTRN T-Ear Tipsの Mサイズと、半透明白のイヤーピースS,M,Lの3サイズ、銀メッキ銅線のケーブルと本体、とシンプルです。
コストに制約がある中でも、ワンサイズだけといえどTRN T-Ear Tipsが付属するところからも、TRNはこのイヤーピースに自信があると伺えます。
実際試してみると、このTRN T-Ear Tipsで聴いたときが最もバランス的に好感触と感じました。
さらにヌケ感を強めたい場合はKBEAR 07のような固めの素材のイヤーピースがよいと思いました。
標準でついてくる半透明のイヤーピースはペラペラで、響きは広く、悪くないのですが、もうちょっと良いイヤーピースに変えたほうが良い印象を受けます。
私が入手したロットの個体では、開封時本体が漏れた接着剤でとてもべたべたしていました。SNSを見るとどうやらこのロットはみんなこうなってしまっているようです。製造時の品質管理の甘さが心配されます。
べたべたしている接着剤は、アルコールウェットティッシュでよくふき取った後、普通のティッシュで乾拭き…ということを繰り返すと、問題ない状態まで持っていけます。
こういった点は印象の低下につながるため、改善したほうが良い点ですが、大甘に見れば、この価格を実現するためにかなり無理をしたのかもしれません。
TRN君の「やらかし」キター!と言ったところです。
装着感は特に非常によく、ここは樹脂を使ったメリットでより耳にフィットします。これは後述の音の響きにも影響を与えており、耳に合う場合により意図した音になっていると思います。本体の耳側にある突部が耳に合わない方もいると思いますので耳が標準よりかなり大きいか、小さすぎる人は、注意が必要です。
サウンドインプレッション
エージングしないうちは音が固まって聴こえる感じで、響きもあまりよくなかったです。3~5時間ピンクノイズでバーンイン(エージング)を行ったところ、全体的に音の滑らかさや分離感がよくなりましたが、標準ケーブルでは空間的にも音域的にもやや詰まった感じがあります。
そのため、能力を引き出そうと思ったらリケーブルは推奨です。
樹脂筐体由来なので、プラスチッキーなビビりのような響きがあるのでは、と心配しましたが、そこはあまり感じません。
一聴したときはTRNのイヤホンにしては過去にあまりない、『暖色系』バランスのイヤホンのように感じ、これはTRNのハイブリッド型イヤホンとしてはかなり珍しいチューニングだと思いました。ただハイブリッド型以外ではこの感じは聴いたことがある感じで、MT1 MAXなど、もっと低価格のイヤホンの暖色感に近い感じがします。
聴覚上は中音域にはややモヤっとした部分がある点と低音の弾み方、うなり方、ここが特に暖色に感じさせる部分でしょう。
チューニングも暖色系らしく、バランス系のチューニングかと思いましたが、やはり基本的には「ドンシャリ」(V字カーブ)のバランスのイヤホンのように思えます。
このST7は、製品全体としての音バランスは取れているけれども、だからといってバランスを感を重視した音づくり、いわゆるリファレンスとかモニターより、とよばれるような音ではありません。低音はきちんとアタックしてくるし、むしろ量も結構あります。高音域に関しても同様です。
個人的な感覚では「出ている音は寒色だが、樹脂筐体の反射と放射で、最終的に聞こえる音が暖色のノリになっているかも」という印象です。
標準ケーブルでは、音像の定位はボケっとしていてやや閉塞的で、ヌケ感もあまりよくありません。分離も標準的な1DDのイヤホンのように聴こえる程度の分離感です。
ただ、音場の中で音がやってくる方向性のようなものは掴みやすいと思いました。特に、低音域はちょっと耳の外の遠い所からもアタックがやってくるように感じられます。
自分の言い方でいうと、音場の中でもサウンドステージは狭いもののサウンドフィールドは広い、という感じです。たとえるなら広大な野外のフィールドが会場で、でも演奏をしている場、ステージは狭い。そういう感じです。
TRN Azure Dragonなどは体育館程度に広いのに、でもそこはモニタールームで、しかもその部屋全体がステージで、そしてステージのまっただ中で聴いている印象で、いろいろな場所に演奏家が離れているという感じ、という感じなのに対して、ST7は詰まった音です。
…と、そう言えばかなり誇張した表現ながら適切なのではないかと思います。
もうちょっと別の言い方をすると音は全般に近く、低音だけは外からやってくる感じがあります。
総評
ここまでの言葉を見ただけでは、ST7は低評価なのでは? と思われるかもしれませんが、そんなことはありません。
樹脂筐体の響き方を生かし、暖色系の空気感を醸しながら、各音域ごとの音色の分離を高めつつ、突き抜けるドライ感のある高音域を、ウェットでウォームな空間に同居させ丸め込んだような音色の、独特な個性を持つ新しい戦略のイヤホン
…だというように感じます。これはこれでアリだし、独特で、好きな人にはめちゃめちゃ好ましいだろうという音色とバランスだ、と思われます。
私としてはせっかくの高解像度のポテンシャルが筐体設計によってつぶされているように感じる面もあるものの、聞き疲れにくさも感じます。
TRNの音作りとしては近いのは「MT4 Pro」に近いと思いました。MT4 Proを密閉させて、低中音域はOrca的味を足した上で、やや分離と高解像度感、高音域のキラメキを足したような雰囲気、それがST7です。
個人的には価格を考慮すればおすすめ、と思います。
リケーブルできるケーブルがあるなら、かなりおすすめ。
刺さる人には非常に刺さるイヤホンだと思いますよ!
エージング、リケーブル後の印象
エージング(バーンイン)後:
最初は一つの塊だった音が、丸一日のエージングで、各音域の分離が向上し、音が整理されてきた。
ステムは金属製で、おそらくBrassだと思われる。そのため、ステムに入っているBAはドライに聴こえるかもしれない。
ステムにはおそらく30019が入っている。30095ではないことが金属的に過剰にならず、暖色感とうまく調和している可能性がある。
ピンクノイズでのバーンインの後、通常音量よりちょっと上くらいのゲインで通常楽曲を再生したところ「とろけるような滑らかさ」の印象が出てきた。これは樹脂筐体でしか実現できないかもしれない。温かく柔らかい感じでありながら、高音域の一部は突出感がある印象がより強まった。耳に刺さるくらいの高音の感じがちょっとある。
超高音域への高音伸びはリケーブルしても限定的。
低域のアタックの定位感:
普通の定位ではない気がするが、目と鼻の間から耳の付近まで立体的にアタックが突き抜ける。
低音と中音域の定位感と連続性:
中音域のほうが狭く、高音域はもっと狭い(近い)。
低音のほうが遠く、中高音のほうが近い。
弾力性とスピーディーな低音:
弾力性があり、スピーディーな低音が面白い感じで、本機の特徴かもしれない。
リケーブル後の印象:
JSHIFI Warrior 4.4mm バランスケーブルにリケーブルした。
イヤピはT-Earのまま。
一番の変化は、音のつまりと天井感がなくなったこと。
低音も無理していない感じが強まり、深い印象になった。
空気感も向上し、響きの奇妙さが気にならない程度になった。
余韻の印象も好印象に変化し、分離感もアップした。
丸一日のエージングとリケーブル後は相当良い印象に変わったといえるだろう。
リケーブルは推奨ではなく必須に近いと感じた。2000円程度の安価なケーブルでかまわないので、変えたほうが良いと思われる。
お買い求め
Aliexpress
TRN Official Store にて、2024年5月2日現在、3,876円で購入できます。
Amazon.co.jp
Amazon.co.jpでは、2024年5月2日現在、4,650円で購入できます。
海外通販は不良品対応などで英語でやりとりしなければならないリスクもあります。通常はアマゾンをおすすめします。
本製品はリケーブルしたほうが良いというかしないと真価を発揮しません。
よっておすすめの組み合わせのケーブルもご紹介です。
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