【MUBI】ニック・ケイヴ&ウォーレン・エリスのドキュメンタリー『This Much I Know to be True』鑑賞

動画配信サービスのMUBIを利用していて、これが面白い。なんとコーエン兄弟、ソフィア・コッポラも利用しているというシネフィル向けのサービスで、NetflixやAmazon Primeでは見つからないような、古今東西のマニアックな映画が目白押し。といってもマニアックという言い方は不適切かもしれない。話題作『DUNE』の監督ドゥニ・ヴィルヌーヴの2009作『静かなる叫び』(1989年にカナダのモントリオール理工科大学で起きた銃乱射事件がモチーフなっている)、『ノマドランド』のクロエ・ジャオ監督の長編デビュー作『Songs My Brothers Taught Me』もあるなど、偏見に捉われず「自分達がいいと思う映画をキュレーションしよう」という気概が感じられる。MUBIについて、詳しくはこのWIREDの記事を読んでいただければ。

そんなMUBIで最近みて感動したのがニック・ケイヴのドキュメンタリー(ライブ映像作?)『This Much I Know to be True』。ニックと、今やその相棒と言っても差し支えない、ヴァイオリニストのウォーレン・エリス(the Bad Seeds、Dirty Three)の二人に焦点を当てた作品だ。基本はライブ映像なのだが、合間合間にニックが創作プロセスや、ウォーレンとの関係について語っているシーンなども差し込まれているのが面白い。僕はどちらかというとDirty Threeのファンだったので、ニックと談笑したり、お気に入りの本について話している素のウォーレンが観れたのも良かった。もうかれこれ15年近く聴いているのに、「こんな人だったんだ!」という新鮮な驚きがあった。

冒頭からニックが、これ以上ツアーをするミュージシャンとしてやっていくのは無理だから陶芸家になることにした、という旨の発言をして驚かされるのだが、実際に自身の陶芸作品を紹介するニックは弁舌によどみがなく、すでに多作で、その入れ込みようが伺えた。特に悪魔が成長する物語を18の作品で描いたシリーズはニックの世界観が全開で、「この人は表現したいことがまずあって、これまで音楽はその主たる手段だった、というだけのかもしれない」と思わせるほど、表現の形は違えど一貫性のようなものを感じた。ミュージシャンとして知られるニックだが、ドローイングなど視覚表現も行っているようで、それらのグッズまでオンライン通販で販売している(欲しい!)。

面白かったのがニックがファンと交流するために立ち上げたサイト「The Red Hand Files」について触れている場面。ファンからの質問に、ニックが誠心誠意答えるというもので、実際にサイトをググってみると、紹介文に「私に何を聞いてもいい。調停者はいない。これはあなたと私の間で行われる。何が起こるか見てみよう。愛を込めて、ニック」とある。中には深刻な人生相談もあり、ニックは返事を書くのに数日かかることもあるようだ。どの質問に対しても長文でしっかりと考えを述べており、最新号が#202とあるので、結構な数だ。こういった創作やインスピレーションにまつわる背景知識を増やしながら、美しいライブ映像に浸れる本作は将来、貴重なアーカイヴとなるのではないだろうか。

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