【歩行者を守りたい】若手開発者が語る実証実験を経て完成した車両衝突に耐えうる車止め
こんにちは!積水樹脂グループ公式note編集部の土井です。
今日は当社でもとてもお問い合わせの多い製品、車両衝突に耐えうる車止め「プロテクトボラード」についてご紹介します。
今回はお話し伺いながら「プロジェクトX」かな?と思うくらいの開発秘話なのですが、ビックリしたのは開発の中心にいたのは当時の新入社員だったことです。
そもそも車止めって?
一言で「車止め」と言っても様々なタイプがあります。積水樹脂が主に生産販売しているものは
・建物や公園に車が侵入しないようにする車止め
・歩道に車を視覚的効果で侵入しないようにする車止め
・生活道路内で歩行者の歩道を確保し、車を視覚的効果で侵入しないようにする車止め
など、車両の防止効果はありませんが、視覚的に車両の進入を抑制する車止めと
・交差点付近など、車の横行が多い中歩行者を守る車止め
があります。
今回ご紹介するのは最後の交差点付近など、車の横行が多い中歩行者を守る車止め、その中でも車両衝突に耐えうる車止めです。
車両衝突に耐えうる車止め(プロテクトボラード)開発の背景
車両が多い道では歩行者を守るように柵などを設置していますが、横断歩道は歩行者や自転車が通るため、人が通る空間をあけています。
2019年春、歩道への車両進入や暴走による歩行者を巻き込んだ交通事故が連続し、同じ年の7月、国土交通省から全国の自治体に対策を指示しました。
当社もすぐ9月にはその通達に対応した製品を、実験を経て発売しましたが、
より強度があり、どんな道路でも設置しやすい製品を開発しなければ、とメンバーは考えていました。
車止めは道路の上に取り付けるのではなく、下にまで埋め込む形で設置します。衝撃に強い車止めにするにはこの土中をしっかりさせると衝撃に強くなりますが、それは道路への負荷と工事の負担がかかります。
また、都市部では道路の下には水道管やガス管などがあるため、あまり深くまで埋めこむことができないのです。
目標は「車両重量1.1t、時速40kmの車両の侵入を防止」としました。
試行錯誤も失敗が続く2019年秋~冬
検討の上、試験体(試作品)を製作し、
2019年11月 振り子式衝撃試験を実施しました。そこで、強度面において、単管より二重管の方が強度があることを確認しました。
続いて、振り子式では振り子が車ほど衝撃を吸収しないため、やはり実際の車をつかって性能をたしかめようと2020年3月には一回目の実車衝突試験を二重管の試験体で実施しました。実際の試験動画をご覧ください。
結果は残念ながら乗り越え停止(失敗)になりました。原因は、車両衝突時、芯材が地面より下300mmの位置で、進行方向に変形し、断面性能が低下したことでその部分が曲がったと考えられます。
これにより車両を乗り越えさせない車止めの開発を追求する為、途中で曲がったりしない構造体の検討が必要であると考えました。
コロナ禍に入ってきた新入社員、吉村
どう改善しようか、、、と悩んでいる2020年4月、世界では新型コロナウイルス感染症が広がり、密を避けるためにイベントなどがほぼすべて中止となりました。当社も4月に新入社員が入社しましたが、集合の新入社員研修ができないまま、配属となりました。そんな時にこのプロジェクトに配属されたのが吉村さんです。
吉村さん)で、配属してすぐ、この高強度車止め(プロテクトボラード)のプロジェクトメンバーに入りました。
土井)すぐですか?
吉村さん)当社にはブラザー(orシスター)という、同じ部署内の先輩についてOJTをするという新入社員の教育制度がありまして、プロジェクトメンバーである井上課長(現)がブラザーだったんです。
土井)なるほど。でも吉村さんは理系ではありますが、生物系が専攻だったと伺いました。すぐ業務に参加できましたか?
吉村さん)いや、僕、もともと物理は好きで、採用面接のときもそのことは聞かれたので、それはよかったのですが、プロジェクトの打ち合わせで先輩たちが話されている内容が全然わからなくて。ついていけない。
これはヤバいと思い、話についていくために材料力学をめっちゃ勉強しました!
ただ、コロナ禍のおかげで、遊びに行くことができなかったので勉強は集中してできました。ある意味、いい時期に入社したと思います。
土井)(物理勉強するなんて)ほんとに?そうですか、、、
(私は超文系なので材料力学とか言われてもちんぷんかんぷん)
そしてコロナ禍でよかった、なんて初めて聞きました。
上原室長)吉村くんは入社いきなりで本当大変だったと思います。すごく頑張っていました。CADも初めてだったようですし。でも勉強して粘り強く頑張ってくれました。
改善策を全員で検討し、2020年7月実車実験へ
この下の図が最初の車止めの断面です。
最初の断面係数的にはこの形は強度が高いのですが、ぶつかるエネルギーを吸収する力が少なく力を受け止めてしまったことが理由ではないかと考え、プロジェクトメンバー以外、本部長も加わりどの断面なら車を止めることができるか考えました。ただ、強度だけでなくその製品を生産しやすいか、価格面で高くならないかも含めて議論し、数値上でこれなら大丈夫ではないか、という性能アップした断面が確認でき、7月、ついに実車衝突試験を実施しました。
この動画には入っていませんが、止まった後は
やったー!!!と大歓声が起きたそうです。
そして目標を上回る「車両重量1.7t、時速40kmの車両の侵入を防止」
する車止めが完成、製品化されました。
成功&売上好調! しかし次のハードルが、、、
吉村さん)この製品はとても好評で売り上げもぐんと上がったんです。
土井)よかったですね!
吉村さん)しかし、国が2021年3月 防護柵の設置基準・同解説の改訂にあわせて「ボラードの設置便覧」を発行したんです。
土井)それは何を意味するんですか?
吉村さん)この「ボラードの設置便覧」に合致した製品を制作することが必要になった、ということです。そのためにまたいろいろと実験を繰り返しました。
土井)条件をクリアする以外にどういう点が難しかったですか?
吉村さん)強度面と価格面と製造面のバランスですね。強度ばかりにこだわると価格が上がってしまい、お客様に受け入れられにくい価格になってしまいます。また、強さと値段を両立しても、製造に時間がかかる製品は受注してもお待たせすることになります。また、デザイン面でも街の景色に溶け込むことが必要なので、そのバランスの検討で進捗が止まることもありました。
土井)その時はどうやって解決していくのですか?
吉村さん)迷っていたら先輩方が相談しやすい雰囲気を作ってくださっているので、相談したらみなさんがアドバイスをくださいました。
上原室長)吉村くんはそりゃいろいろ悩んでいましたね。。。でもちゃんと相談してみんなで考えて一つ一つクリアしていました。
吉村さん)この時もコロナ禍もあって、あまりみんな出張や外出が少なかったのですぐ相談できたこともよかったです。
全国で使用される歩行者を守る車止め(プロテクトボラード)
最終的には「ボラードの設置便覧」にも合致した製品を4種、開発することができました。
そして6月には国土交通省の新技術情報提供システム「NETIS」に登録されました。
国土交通省が運営するデータベースは、新しい技術の情報を共有・提供するためのものです。公共工事の施工者は、NETISに登録された新技術の活用を提案し、実際に活用された場合は、活用効果に応じて工事成績評定の加点の対象となります。
土井)売れ行きはどうですか?
吉村さん)非常にいいです。問い合わせも多く全国にて採用されています。
先日取引先の方が仕事で外出していたら交通事故の現場に居合わせたそうなのですが、そこが高強度車止め(プロテクトボラード)を設置している交差点で、高強度車止め(プロテクトボラード)のおかげで車が歩道まで行かず、けが人も0だったそうです。写真を東京の上長に送ってくださいました。
今後
土井)吉村さん、今もまだ高強度車止め(プロテクトボラード)の開発に取り組まれているのですか?
吉村さん)高強度車止め(プロテクトボラード)のお問い合わせもまだまだ多いので対応しています。でも今は上原室長とともにまた別の新たな交通安全製品に取り組んでいます。今年からは部署に新入社員が入り、今度は僕が後輩の「ブラザー」(先輩後輩の関係でOJTをする当社の新入社員の教育制度)になっています。
次の製品の現状の状況も見せていただきました。
今後も楽しみです!ありがとうございました。
この日も滋賀工場でトンボを見ました! 広報担当土井