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智恵子以外の人の抄

39
詩。
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記事一覧

詩41

強烈な自転車のブレーキ音とともに
スポーティーな生地のTシャツを着た年配男性が
久我山の坂道を下ってきた
その音は「南国の鳥の鳴き声」だと嘘を言っても
疑う人はいないだろう
そんな嘘をつく必要があるのかないのかは
死ぬ間際にわかるんじゃないかな

詩40

世の中には様々なメンタルが存在するだろうが
そこそこ流行っているラーメン店でくつろげるメンタルを私は持ち合わせていない
立ち食いそば店でくつろげるメンタルも持ち合わせてなく
そんな人を見るともはや尊敬してしまう
席が空くや否や移動するメンタルもないが
これくらいは欲しかった
入る気はないのに自動ドアが開き
いらっしゃいませと声が聞こえても
それくらいでドキドキしててはだめだ
勝つために必要なのは

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詩39

午前中の喫茶店は冷んやりとしていて
窓から光が差し込み
まるで授業中の校舎のようである。
もしかしたら自分はここでこのまま死ぬのではと思うほど穏やかだ
しかし「今日も新聞に俺のことが書かれている!」と言い張るおじさんが来て
静かな時間は終わり休み時間の教室のようになる
おじさんのことは新聞に一切書かれていない
私は逆に「生」を意識する

詩38

コンビニの雑誌売り場の
棚の裏に落ちてしまった
漫画雑誌の表紙は
ガラスと棚の間で
日光を浴び続けて
色褪せている
このコンビニが閉店し
居抜きの調剤薬局か
居抜きのリフォーム会社になるまで
いくつかの虫の死骸とともに
ここにあるのだろう

詩37

曇天
午後3時
古いアパートの窓が開いている
室内はさらに暗い
壁に掛けられた写真と目が合った
その人はもう死んでいる人に決まっている
日めくりカレンダーだけが白い

詩36

買い物を頼まれた
買ってきたものを渡すと
「ごっつあんです」と言われた
かなりおどけてである
さらに手刀付きである
さあ、どうする?
このノリに付き合うか
それとも付き合わないか
これは今後の人生を
左右する可能性があるぞ
少年よ

詩35

あの高校すげえ
早くも
2セット目の千羽鶴に
取りかかったぞ
右手と左手それぞれで
鶴を折っているから
速いのだ

詩34

ほら
フルーツ柄のシャツにして正解だっただろ
あとは髭と髪の毛を伸ばしてごらん
まずは形からだ

詩33

なぜそのことを知っているかって?
冥途の土産に聞かせてやろう
前に聞いたからだ
しかも一回ではない
もう何度も聞いている
その度に私は初めてのふりをして聞き
相槌を打ち
驚くべきところで驚き
笑うべきところで笑い
感心すべきところで感心したのだ
コバンザメはサメではないことはもう知っている

詩32

詩32

綿毛がひとつもない茎だけが立っているが
それがタンポポであることは
確かなことであり

バイトを辞めたから
見ることができるようになった
テレビ番組があるのも
確かなことなのである


泰造

それはネプチューンの番組


泰造

それはネプチューンの番組

詩31

おいあそこに誰かいるぞ
どこだよ
あそこだよ
誰もいないよ
いやいるってフーファイターズのTシャツ着た男が
フーファイターズって何だよ?
フーファイターズ知らないのかフーファイターズというのはな
おじさんは嬉々として知識を語り出す

詩30

忙殺
怒声が飛び交う
殺気立った
中華料理店の厨房に忍び込み
寝転んだり
漫画を読んだりして
よりくつろげた方が勝ち
ってことにしないか?

詩29

「メリーゴーラウンド……?それだ!」
私が何気なく言った一言から
何かを閃いたようである
いったい何を閃いたか訊ねたいところだが
黙祷の時間だ

詩28

蕎麦屋のショーケースの中に飾られた
座布団に座っているデフォルメされた猫の置物は
いつからか倒れたままで
直したくても触れることができず
どうにもできないもどかしさは
店に電話をかけて「なんとかしてください」と伝えるほどのものではなく
これはこれで趣があると自分に言い聞かせるか
自分には関係ないと割り切るしかない
それができないなら
夜に忍び込み直す