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日本も他人事ではない、ミャンマーの少数民族系テロ組織

反政府派に見え隠れするテロ組織の存在

 ミャンマー情勢は芳しくありません。クーデター以降、国軍の非人道的な動きは、欧米各国からも非難されています。

*『欧米大使館が共同声明「国軍の卑劣な行為は隠蔽できない」 –』(MJビジネス (ミャンマージャポン),2021 年 3 月 20 日)参照


 しかし、「反政府」を掲げて国軍と敵対する勢力に問題がないかと言われると、そうでもないようです。
 
大塚智彦「ミャンマー、実質的内戦状態へ」(Japan-in-depth,2021/5/23)

という記事には、国軍と戦った少数民族武装勢力であるカチン独立軍(KIA)が登場します。実は、カチン独立軍は、公安調査庁が国際テロ組織としてホームページで紹介しているカチン独立機構の軍事部門です。公安調査庁によると、カチン独立軍は、2011年以降橋梁などのインフラを破壊しているそうです。
*カチン独立機構(KIO) | 国際テロリズム要覧2020 | 公安調査庁
http://www.moj.go.jp/psia/ITH/organizations/ES_E-asia_oce/KIO.html参照

 ちなみに、「カチン」族は、中国でチンポー(景颇、ジンポーとも)族」と呼ばれており、中国の民族識別工作では55の少数民族の一つとしてカウントされています(参考文献参照)。チベット・ビルマ系の民族なので、チベット語ともビルマ語とも近い言葉を使っています。

 アムネスティインターナショナルは、2013年にミャンマー政府のみならずカチン独立軍も非難しています。

カチン独立軍(KIA)もまた同様に、民間人のいる地域に、攻撃の標的になるものを配置してはならない。そして、国際人道法を全面的に尊重すべきだ。

「ミャンマー(ビルマ):カチン州の紛争 民間人を守れ 」(アムネスティ日本 AMNESTY,2013年1月31日)
https://www.amnesty.or.jp/news/2013/0131_3791.htmlより引用

 民間人が、国軍だけでなく、カチン独立軍によっても苦しめられていることが分かります。

 この他にも、公安調査庁が国際テロ組織としてページに掲載しているミャンマーの少数民族系のテロ組織には、以下のような物があります。

カレン民族同盟(KNU) | 国際テロリズム要覧2020 | 公安調査庁
http://www.moj.go.jp/psia/ITH/organizations/ES_E-asia_oce/KNU.html

ワ州連合軍(UWSA) | 国際テロリズム要覧2020 | 公安調査庁
http://www.moj.go.jp/psia/ITH/organizations/ES_E-asia_oce/UWSA.html

シャン州軍(SSA) | 国際テロリズム要覧2020 | 公安調査庁
http://www.moj.go.jp/psia/ITH/organizations/ES_E-asia_oce/SSA.html

など

 なお、「ワ(佤)」族も中国の民族識別工作により、中国の55の少数民族の一つになっています。(参考文献参照)

日本も他人事ではない

 ミャンマーのクーデターに絡んだ問題は、日本も他人事ではありません。交流が多い国ということもありますが、それ以上に在日ミャンマー人が増加して、ミャンマーにおける問題が日本に持ち込まれているという側面もあるからです。

 数ヶ月前のクーデター勃発直後には、多くの在日ミャンマー人がデモを行いました。

 国軍を支援する国の大使館(ここでは在日ロシア大使館)の前でもデモが行われたこともありました。
*藤川大樹「在日ロシア大使館前でミャンマー人らが抗議デモ 国軍への支援中止を訴え」(東京新聞 TOKYO Web,2021年3月31日)参考


 現在もたびたびデモが行われているようです。

*産経新聞『緊急事態宣言でデモ困難…在日ミャンマー人が語る「抵抗」』(2021/5/31) 参照

 3月14日の国連大学前のデモでは、なんとカチン独立軍の旗が目撃されています。(下の記事参照)

*鳥尾祐太『#4「宗教・民族関係なく」ミャンマーの少数民族 国連大学前で抗議』(note,2021/03/20)参照

 ちなみに、朝日新聞の記事内の写真にも、カチン独立軍の写真が写っていました。キャプション画像の中央にも映っています。カチン独立軍(KIA)を支持するプラカードも見えます。

*笠原真『ミャンマーの少数民族「これまでも暴力を…」都内でデモ』(朝日新聞,2021年3月14日)参照。

 国軍に抗議するデモの中には、一部カチン独立軍を支持するような勢力が存在していることが分かります。

まとめ

 ミャンマー国軍の振る舞いは非難に値します。しかし、それは反体制側の中で一部テロ行為を行う組織や団体を擁護する理由にはならないと思います。どんな理由であれ、テロは許されません。

 1994年に、国連の総会は「国際テロリズム廃絶措置宣言」を採択し、1996年に採択された「1994年宣言補足宣言」では、「総会は、どこで誰が行おうと、いかなるテロリズム行為や慣行も犯罪であり、正当化できないとして厳しく非難」(国連広報センター「国際テロリズム」↓より引用)しています。

 したがって、「民主主義のため」では言い訳にならないのです。

 また、反体制側が国軍側と互角に「戦う」(正当化することはできませんが)ことが難しいとはいえ、テロ組織と結託することで平和にデモ活動を行う人々が不利な状況に陥らないか、危惧します。
 そして、重要なことに、外国人と共生する社会である以上はやむを得ないですが、日本にもミャンマーを取り巻く問題が持ち込まれています。利害関係のある第三国との間でも諍いが起きたり、それどころか一部でテロ組織を支持する動きも見られたりしています。

 「民主主義のため」と善意のために動いていたはずが、実はテロに協力していた、なんてことになれば悲劇です。健全な民主主義の構築のためには、手を組むべき団体や人物をきちんと見極めることが大切ではないかと思います。

参考文献

*(本文中のリンクは省略しました)
田畑久夫 他「中国少数民族事典」(東京堂出版, 平成16年)
松岡格 「中国56民族手帖」(マガジンハウス, 2008年)