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マイ・フェイバリット・ソングス 第3回~フリートウッド・マック

(2023年9月改訂版)

フリートウッド・マックは僕が世界一好きなバンドです。主にリンジー・バッキンガムとスティーヴィー・ニックスが加入した1975年以降の作品を中学生の頃からずっと聴き続けています。ここではその二人が加入してからのアルバムについてご紹介します。


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『Fleetwood Mac』(1975年)

初期のフリートウッド・マックはブルースを基調としたバンドだったけれど、ここからリンジー・バッキンガムとスティーヴィー・ニックスが加入し、ポップな音楽性へと変わっていきます。新生マックの幕開けとなったアルバムで、初のビルボード1位を獲得。大名盤と呼ばれる次作に引けを取らない完成度で、むしろ僕はこちらの方が好きですね。全曲素晴らしい。まずシングルでクリスティンの「Over My Head」「Say You Love Me」とスティーヴィーの「Rhiannon」がトップ20ヒットとなっています。マックに火を付けた立役者はクリスティンという感じでしょうか。アルバムはリンジーの「Monday Morning」で幕を開けます。オープニングにふさわしいカッコいい曲ですね。クリスティンの包み込むような歌声「Warm Ways」、カバー曲「Blue Letter」と続き、A面ラストはスティーヴィーが作ってリンジーが歌う美しい「Crystal」。B面はクリスティンとリンジーが共作してともに歌う「World Tuning」も聴きどころです。ラストを飾るリンジーの「I’m Afraid」はエレキギターが印象的な一曲。この曲はライブなどでは力強い声で歌われることが多いですが、僕はこのアルバムのファルセットぎみの歌い方がけっこう好きですね。そしてなんと言っても僕が大好きなのは「Landslide」。これはスティーヴィー・ニックスの最高傑作じゃないかと思います。スティーヴィーの歌声もリンジーのギターも素晴らしい。聴くたびになんて美しい曲だろうとため息が出ます。僕の中ではフリートウッド・マックのベストソング。ちなみに写真にも写っているようにこのアルバムのオリジナルはホワイト盤なんですよね。先日リマスター盤も手に入れたのですが、それも白い盤で復刻されていました。


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『Rumours』(1977年)

ミック・フリートウッドが離婚。メンバー同士で夫婦のジョン・マクヴィーとクリスティン・マクヴィーが離婚。メンバー同士で恋人のリンジー・バッキンガムとスティーヴィー・ニックスが破局という最悪な環境の中で作られた最高傑作。ビルボード31週1位、グラミー賞最優秀アルバム賞を受賞し、これまでに全世界で4000万枚以上を売り上げたというロック史に輝く金字塔です。何故そんな地獄のような環境でこれほど完成度が高く美しい作品が作れたのか不思議でしかたありません。みんな破局相手のことをあてこすった歌詞を書いたりもしていて・・・。まあ、この複雑な人間関係込みで曲を聴くのがフリートウッド・マックの醍醐味でもあるわけだけど。まずリンジーの軽快な(でも詞は破局を歌う)「Second Hands News」で幕を開けます。続いてビルボード1位を獲得したスティーヴィーの大ヒット曲「Dreams」。マックで一番有名なのはこの曲かもしれないですね。リンジーのアコースティックギターが美しい「Never Going Back Again」を挟み、これまたシングルで大ヒットとなった「Don’t Stop」「Go Your Own Way」。この二曲はライブでも盛り上がる定番曲ですね。A面ラストはクリスティンの美しいバラード「Songbird」。僕はクリスティンの曲ではこれが一番好きです。B面一曲目はこれだけこじれた関係でありながら5人全員で作曲した「The Chain」。クリスティンのこれまた名曲「You Make Loving Fun」、スティーヴィーとリンジーの掛け合いが楽しい「I Don’t Want to Know」、バンドの支柱であるミックをテーマにしたという「Oh,Daddy」と続き、ラストはスティーヴィーが「Gold Dust Woman」で気怠く締めています。これ以上動かしようのない完璧な構成ですが、実は当時スティーヴィーはどうしても「Silver Springs」という曲を入れたがったそうです。でも、メンバーの意向でこの曲は却下された。(結局「Go Your Own Way」のB面に回され、代わりにアルバム収録されたのが「I Don’t Want to Know」)そのことをスティーヴィーは激怒したそうです。却下されたのは、おそらくバラードが多くなりすぎるからという理由だと思うけど。そんな曰くつきの「Silver Springs」は、現在リイシュー盤などの『Rumours』には収録されています。



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『TUSK』(1979年)

2枚組。これはリンジーが実験に走りまくってますね。リンジーファンの僕からすると「行け行けー」ってところもあるんだけど、バンドとしてのバランスがいまいちになってしまってるのは否めません。「The Ledge」も「Not That Funny」も「That's Enough For Me」も「I Know I'm Not Wrong」も大好きだけど、普通はソロアルバムでやるような曲ですよね。その点クリスティンは安定の曲作りで非常にマックらしい「Think About Me」や美しい「Never Make Me Cry」などを収めています。この攻めたアルバムの冒頭が「Over and Over」でゆったりと幕を開ける構成もしびれますね。スティーヴィーも「Sara」「Beautiful Child」という名曲をしっかり収めてくれています。「Sara」大好きな一曲です。美しいアレンジに乗ってスティーヴィーが気だるげに歌い出すんだけど、盛り上がりそうな雰囲気を保ちつつ、なかなか上がりきらない。いきそうになるとまた最初に戻る。じらしてじらして最後の最後に大団円を迎える構成が素晴らしいです。ですが、初期のCDは「Sara」がショートバージョン(4’37’’)になってしまっているんですよね。(無理やり20曲を1枚に収めていることと、当時のCDの時間的限界のため) これは残念でなりません。じらしの長いフルバージョン(6’26’’)はアナログ盤か2004年のリマスターCDで聴くことができます。また表題曲であるリンジーの「Tusk」は南カリフォルニア大学のマーチングバンドを起用した壮大な曲で、ライブのクライマックスを飾る定番曲ともなっています。ミックのドラムも炸裂していますね。このアルバムは2枚組で実験的だったため『Rumours』の売り上げには遠く及ばなかったけれど、それでも200万枚を売り上げ全英1位、全米4位となりました。



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『Fleetwood Mac Live』(1980年)

2枚組ライヴ盤。1977年~1980年のツアーからピックアップされてるんだけど、新曲の「Fireflies」「One More Night」とビーチボーイズのカバー「The Farmer’s Daughter」はスタジオテイクですね。ライブ盤にスタジオテイクが混ざっているので、全体的にちぐはぐな感じがしますが・・・。あと「Don’t’ Let Me Down Again」はバッキンガム・ニックス時代の曲。ピーター・グリーン時代の「Oh Well」をリンジーなりの解釈で演じているのも聴きどころ。ちなみに一曲目の「Monday Morning」は日本武道館公演のテイクが採用されています。


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『Mirage』(1982年)

このアルバムの前年にあたる1981年にスティーヴィーとリンジーはそれぞれファーストソロアルバムを成功させていているんだけど、そこで一回個の才能を発散させたおかげでこのアルバムは再びバンドのバランスを取り戻したんじゃないかって気がするんですよね。地に足が着いてるというか。前作のように取っ散らかった感じはなく、落ち着きや余裕のある一枚。シングルとしてスティーヴィーの「Gypsy」、クリスティンの「Love in Store」「Hold Me」、リンジーの「Oh Diane」がヒットしています。僕は「Gypsy」と「Oh Diane」が好きですね。当時恋仲だったデニス・ウィルソン(ビーチボーイズ)にあてて作ったという「Hold Me」は、「Songbird」や「You Make Loving Fun」と並んでクリスティンの大人気曲のひとつですね。そしてこのアルバム最大の聴きどころは「Eyes of The World」ではないでしょうか。何度聴いてもカッコよすぎて鳥肌が立ちます。美しいギターの旋律・独特のハーモニー・クライマックスで垣間見える狂気。前作で実験に走ったリンジーのひとつ目の昇華がこの曲と言える気がします。リンジーの才能が凝縮されたような名曲です。多くのヒットシングルに押されながらアルバムも大ヒットし、チャートは全米1位、全英5位を獲得しています。


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『Tango in The Night』(1987年)

個人的にはこのアルバムが一番好きですね。中学の頃リアルタイムで聴いていて、これがフリートウッド・マックを好きになるきっかけだったから。全盛期5人の最後のスタジオアルバムになるわけだけど、これがマックの完成形という気がします。全体的にリズムに特徴のある曲が多く、タイトルやジャケットに表れているようにエキゾチックな要素が取り入れられています。トータルバランスが素晴らしいですね。この時期スティーヴィーはコカイン中毒の治療中だったこともあり、二週間ほどしかレコーディングに参加できなかったといいます。そういった事情もあってか珍しくリンジーとクリスティンの共作が3曲も入っているんですよね。透明感のあるクリスティンの美声に癒される「Mystified」。ハードロック調の「Midnight Love」。そしてラストを華やかに飾る「You and I,PartⅡ」。この二人の相性もまた抜群です。一曲目はリンジーの代表曲と言ってもいい「Big Love」。独特のリズムと吐息のような掛け合いのコーラスが最高にカッコいいです。ライブではたいていリンジーが弾き語りで演りますが、アルバムver.のアレンジもいいですよね。リンジーは他にエスニックなリズムの「Caroline」、エキゾチックな雰囲気の「Tango in The Night」、これまた掛け合いコーラスが見事な「Family Man」を作っています。クリスティンはなんといっても大ヒットシングル「Little Lies」が素晴らしいですね。軽妙な「Everywhere」もいいですね。そしてスティーヴィーはまず「Seven Wonders」を大ヒットさせています。(僕が初めて聴いたフリートウッド・マックの曲はこれだったかもしれません)これと「When I See You Again」のスティヴィーのボーカルは最高ですよね。なんて素晴らしい歌声だろうとうっとり聴き入ってしまいます。透明感のあるクリスティンとは対照的なハスキーで母性的な歌声。名曲「Sara」の続編的な「Welcome to the Room…Sara」という曲も入っています。このアルバムは中学生の頃に出会ってからこれまでに何回聴いたか分からないけど、一回も飽きたと感じたことはありません。聴きかえすたびに感動するばかり。もし僕が一生孤島のようなところで暮らすことになり、一枚だけアルバムを持っていくことが許されるとするならこのアルバムを選ぶと思います。全英1位、全米7位。


『Behind The Mask』(1990年)

リンジー・バッキンガムが脱退。(「Behind The Mask」のみアコースティックギターで参加)リック・ビトーとビリー・バーネットという新メンバー2名が加入。当時僕は「ふん、リンジーのいないマックなんて!」「ふん、リックとビリーって誰だよ!」とスネていたので、フェアな気持ちでは聴けなかったんですよね。でも、リンジーの不在を一旦脇に置いて聴くとなかなかいいアルバムなんですよね。全体的にカントリー色が強いんだけど、クリスティンの曲もスティーヴィーの曲もいいし、リックとビリーもすごく貢献してくれている。最近ではけっこうお気に入りになっています。スティーヴィーとリックの共作「Second Time」なんて名曲ですよね。僕はこの曲大好きです。クリスティンとビリーの共作「Do You Know」もいいですね。フロントマンの一人であるリンジーが脱退したにも関わらず、アルバムチャートは全英で1位を獲得しています。


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『TIME』(1997年)

今度はスティーヴィー・ニックスが脱退。デイヴ・メイソンとベッカ・ブラムレットが新加入。こうなるともう別のバンドみたいで、このアルバムはあまり熱心に聴いてないですね。クリスティンは頑張ってて「Hollywood」なんかはいい曲だと思うけど。ベッカ・ブラムレットは歌は文句なしに上手いし、「Dreamin' the Dream」も曲としては素晴らしいと思うけど、若すぎて「フリートウッド・マック」と呼ぶには違和感があるんですよね…。結局このメンバーはこの一枚で崩壊してしまいます。チャートは全英47位、全米は圏外です。


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『The Dance』(1997年)

『Tango In the Night』以来十年ぶりに黄金期メンバーの5人が集結して行ったライブ(MTVの企画)を収録したアルバム。このライブは最高です。演奏も歌声も素晴らしい。(特にミックのドラムとリンジーのギタープレイがすごい。スティーヴィーの声も脂がのっている)久々にフリートウッド・マックの凄さを世界中に知らしめたライブと言えるでしょう。セットリストもほぼベスト選曲。新曲として「Temporary One」「Bleed to Love Her」「My Little Demon」「Sweet Girl」を披露してますが、この新曲がまたどれも素晴らしい。「Go Your Own Way」のB面曲「Silver Springs」(『Rumours』に収録されずスティーヴィーが激怒したという曰く付きの曲)も。そしてなんといっても僕のイチオシは中盤リンジーが弾き語りで歌う「Big Love」。この速弾きアルペジオのギターは最高です。リンジーはソロのライブでもこの弾き語りを何度も演っていますが、このライブの「Big Love」が一番カッコいい。何度聴いても惚れ惚れする。その流れで「Landslide」に入るところも感涙ものだし、後半にかけての盛り上がりも文句なしです。アルバムチャート全米1位を獲得。ちなみにこのライブはDVDもリリースされているので、映像で観るとさらに素晴らしいですよ。ちなみにDVDはCD未収録の「Gold Dust Woman」「Gypsy」「Go Insane」「Over My Head」「Songbird」も収録されています。


『Say You Will』(2003年)

オリジナルとしては『Tango In The Night』以来16年ぶりにリンジーとスティ―ヴィーが顔を揃えたアルバム。しかし残念ながらクリスティンは不参加。(但し『The Dance』以前にレコーディングしてあった「Murrow Turning Over in His Grave」「Steal Your Heart Away」「Bleed to Love Her」の3曲ではボーカルやキーボードでゲスト参加しています) そもそものきっかけは、リンジーのソロアルバムが所属会社の都合でお蔵入りの危機に陥り「これらの曲でフリートウッド・マックとしてのアルバムを作らないか?」とミックに相談したことからだそう。スティーヴィーに投げかけると彼女はツアー中にも関わらず15曲もの曲を送ってきたといいます。そういうこともあってかこのアルバムは18曲というボリュームの大作となりました。上記のような経緯だったため、リンジーのソロっぽい曲が多いのは否めないけど、表題曲「Say You Will」や「Everybody Finds Out」なんかを聴くと「ああ、二人がマックに帰ってきたんだ!」と感慨深くなりますね。(「Say You Will」のラストで可愛らしいコーラスを聴かせてくれるのは、ジョンの娘とスティーヴィーの姪とそのお友達) このアルバムで僕が好きなのは、まずなんといっても「Red Rover」と「Say Goodbye」。いずれもリンジーの速弾きアルペジオが鳥肌立つほど美しい。明らかにリンジーからスティーヴィーへの思いを歌っていると思われる「Say Goodbye」を二人で一緒に歌っているのは泣けてきますね。アルバムはこの曲の後にスティーヴィーの「Goodbye Baby」で終わるんですが、二人で別れの曲を並べて終わるのはどこか象徴的です。他にもリンジーの「Miranda」「Come」「Bleed to Love Her」もカッコよくて僕は大好きです。屋台骨であるミックとジョンの演奏も相変わらず素晴らしいし、やはり偉大なバンドだなあと改めて思います。クリスティンの歌を聴けないことが唯一残念ですが。チャートは全米3位、全英6位。尚、このアルバムの制作過程は『Destiny Rules』というDVDで観ることができます。スティーヴィーとリンジーの妥協を許さぬ姿勢を垣間見ることができる貴重映像です。


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『Live in Boston』(2004年)

ライブDVDに付属しているライブ盤。これもクリスティンが参加していないのが残念。特筆すべきは最新アルバム『Say You Will』から「Come」がチョイスされていることと、スティーヴィーがソロ曲「Stand Back」を歌っていることでしょうか。「Eyes of The World」がロック色強めのバージョンになっているのもカッコいい。ただ、CDは10曲しか入ってないんですよね。24曲入りDVDの方が楽曲も充実してるし見どころも多いので、DVDで味わった方がより楽しめると思います。


『The Alternate Collection』(2022年)

1975年から1987年にリリースしたアルバムの別バージョン(初期テイクやデモなど)を収めた6枚組CDボックス。『Fleetwood Mac』『Rumours』『Tusk』『Live』『Mirage』『Tango in The Night』の6枚を別バージョンで再構成したような内容です。当然完成盤に比べるとクオリティは劣りますが、貴重な別テイクを聴くことができます。なんかパラレルワールド感があるというか、「ありえたかもしれない世界」に迷い込んだような感覚になりますね。例えば『Rumours』で言うと「Never Going Back Again」をリンジーとスティーヴィーの二人で歌っていたり、「Songbird」でギターが大きめに鳴っていたり、「The Chain」が全然違う曲だったり、「I Don’t Want to Know」がリンジー一人のバージョンだったり。試行錯誤の一面を垣間見ることができます。また『Tango in The Night』には未発表のアウトテイクも収録。幻の「You & I,Part Ⅰ」が入っているのは感動でした。尚、この『Live』は公式盤の『Live』とは全て違う曲が収録されています。これを聴けるのもこのボックスセットの醍醐味ですね。一曲目の「Second Hands News」なんかめちゃくちゃカッコよくて、なぜ公式盤から外されたのか不思議です。というわけで、オリジナルを聴きこんだうえで、さらに深掘りしたい方におすすめのボックスです。


『Rumours Live』(2023年)

1977年8月29日のロサンゼルス公演をフルパッケージした2枚組ライブ盤。「Rumours」をリリースした翌年のツアーなので、人気絶頂の時期ですね。ピーター・グリーン時代の「Oh Well」を除いてはすべてアルバム『Fleetwood Mac』と『Rumours』から選曲されています。まず当時のライブをこんないい音で再現できていることに驚きますね。特にリズム隊の音が迫力を持って響いてくるのが素晴らしい。臨場感もあり、まるで会場に紛れ込んだような気分になります。このライブの「Go Your Own Way」と「World Turning」カッコいいですね。内ジャケットには「Songbird」の歌詞の一部が大きく綴られていて、クリスティンへの追悼の意味も込められている気がしました。


リンジー・バッキンガムのソロについてはこちらをどうぞ。

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