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マイ・フェイバリット・ソングス 第32回~佐野元春

(2022年6月改訂版)

佐野元春さんは大学生の頃よく聴いていました。洋楽の要素を積極的に取り入れて、日本のロックを牽引した人ですよね。また、日本語詞をロックに当てはめる術を進化させたのも佐野元春さんの功績じゃないかと思います。佐野さんの詞が僕はとても好きです。行末に動詞の終止形を多用するところとか独特ですよね。あと日本一カッコいい「~ぜ」を使う人だと思います。


『BACK TO THE STREET』(1980年)

デビューアルバム。編曲は伊藤銀次さんと大村雅朗さん。デビュー曲にして代表曲「アンジェリーナ」が収録されています。一曲目の「夜のスウィンガー」はさっそくブルース・スプリングスティーンの影響が全開で出てますね。僕はこのアルバムだと「情けない週末」が好きです。この曲は佐野さんが14歳だか16歳だかで作ったそう。すごいですよね。中高生でこんな詞を書けるとは。(本作に収録されてはいませんが、後の「グッドバイからはじめよう」「君がいなくちゃ」も同時期に作られたとのことです。)最後を飾る「ドゥー・ホワット・ユー・ライク(勝手にしなよ)」は「第15回ポピュラーソングコンテストつま恋本選会」で披露され優秀曲賞を受賞した曲です。


『Heart Beat』(1981年)

僕は、このアルバムの帯に「J.D.サリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』と同一のテーマを取り上げた『ガラスのジェネレーション』~」と書いてあるのを見て佐野元春さんを聴き始めました。(「It’s All Right」にも「ライ麦畑で~」という詞が出てきますね) このティーンエイジャーに向けたアルバムを十代後半から二十代前半の頃に聴けたのはラッキーだったなあと思います。ブルース・スプリングスティーンの影響を強く受けた作品群ですね。(特に「NIGHT LIFE」「悲しきRADIO」「君をさがしている(朝が来るまで)」「Heart Beat(小さなカサノバと街のナイチンゲールのバラッド)」には顕著)。また「悲しきRADIO」の歌詞に登場するジーン・ビンセント、チャック・ベリー、リトル・リチャード、バディ・ホリーはおそらく佐野さんのルーツとなるアーティストと思われます。編曲は伊藤銀次さんとの共同作業。若い頃よく聴いていたので、どの曲も体に染み込んでいるけど、中でも特に好きなのは「ガラスのジェネレーション」「NIGHT LIFE」「It’s All Right」と初期の名バラード「彼女」。


『SOMEDAY』(1982年)

初期の名盤。これもブルース・スプリングスティーンの影響が色濃く、「SOMEDAY」は「Hungry Heart」を、「Rock and Roll Night」は「Jungleland」を下地にしていることは間違いないし、「DOWN TOWN BOY」にもその影響は表れていますね。歌い方もブルースそっくり。このアルバムから全曲「作詞・作曲・編曲:佐野元春」となっています。表題曲の「SOMEDAY」は永遠の名曲ですね。今回改めて聴いてつくづく素晴らしい曲だなあとうっとりしました。歌詞も最高ですね。ロック調の曲が中心だけど「二人のバースデイ」みたいなシティ・ポップ調の曲も入ってたり、8分半の壮大な「Rock and Roll Night」でクライマックスを迎えつつ、1分ちょっとの「サンチャイルドは僕の友達」で締めたりする構成もいいですね。「Vanity Factory」ではコーラスで沢田研二さんが参加しています。他に「Sugar time」「Happy Man」も好きだけど、僕のイチオシは「I’m in blue」。この曲大好きなんですよね。ここまでが初期三部作。


『No Damage(14のありふれたチャイム達)』(1983年)

ベスト盤は外そうと思ったんだけど、これは学生の頃かなり愛聴していたのと、オリジナルアルバム未収録曲がけっこう入っているので。未収録曲がシングルの「スターダスト・キッズ」「モリスンは朝、空港で」「グッドバイからはじめよう」「So Young」「彼女はデリケート」「こんな素敵な日には(On The Special Day)」「Bye Bye Handy Love」。いずれも佐野元春さんの初期作品を抑える上では欠かせない名曲群ですよね。ビートルズ風の「モリスンは朝、空港で」やジャジーな「こんな素敵な日には」は佐野さんの音楽性の幅広さを味わえます。僕はストレートなロックナンバー「スターダスト・キッズ」が大好きですね。


『VISITORS』(1984年)

これまでと打って変わって革新的な試みに挑んだアルバム。N.Y滞在期間中に影響を受けたサウンドが盛り込まれ、メジャー系日本人アーティストとしては初めてラップやヒップホップの要素を取り入れたアルバムと言われています。あまりに新しすぎて当時は賛否両論だったそうだけど、このアルバムが日本の音楽シーンに与えた影響は計り知れないですよね。スポークン・ワーズを取り入れるなど、その後の佐野さん自身の音楽にも強く影響しています。このアルバムだと僕は「TONIGHT」と「VISITORS」と「NEW AGE」が特に好きです。ジョン・レノン殺害をテーマとした「SUNDAY MORNING BLUE」という曲も収録。ちなみにほぼ同時期にスティングのバックでドラムを叩いていたオマー・ハキムが何曲かドラムとパーカッションで参加していますね。また85年のライブエイドで象徴的な映像と共に「SHAME-君を汚したのは誰」を歌っていた姿は記憶に焼き付いています。


『Café Bohemia』(1986年)

ブルース・スプリングスティーン的ロックの初期三部作、ヒップホップを取り入れた『VISITORS』を経て、今回はジャズ・ソウル・レゲエなどの要素を取り入れたカラフルな作品群。前年にリリースされたスタイル・カウンシルの『Our Favorite Shop』の影響が強く、例えば「WILD HEARTS―冒険者たち」は「Luck」から、「ヤングブラッズ」は「Shout to the Top!」から、「Individualists」は「Internationalists」からインスパイアを受けていると思われます。僕は上記に挙げた曲の他「シーズン・イン・ザ・サンー夏草の誘い」と「99ブルース」も好きですね。ちなみにこのアルバムではHEARTLANDというバンドを結成していて、名義は「佐野元春 WITH HEARTLAND」となっています。尾崎豊さんのアレンジャーでもある西本明さんもメンバーですね。


『ナポレオンフィッシュと泳ぐ日』(1989年)

これは学生の頃かなりヘビロテしていました。アルバム構成というか、全体の流れが素晴らしいんですよね。一曲も飛ばさずに頭から最後まで通して聴きたくなる。様々な洋楽の影響を受けてきた佐野さんが、このあたりから「佐野元春」としか言いようのない音楽性を確立している気がします。このアルバムで特徴的なのはスポークン・ワーズを取り入れた「ブルーの見解」「ふたりの理由」という曲が入っていること。ヒットシングル「約束の橋」も入っています。僕は「ナポレオンフィッシュと泳ぐ日」「ジュジュ」「雪―あぁ世界は美しい」「シティチャイルド」が特に好きです。『ナポレオンフィッシュと泳ぐ日』というタイトルはおそらくサリンジャーの「バナナフィッシュにうってつけの日」を意識してつけてますよね。歌詞カードに「エズミに捧ぐ」の一節が書いてあるのもサリンジャーへのリスペクトからではないでしょうか。


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『Time Out!』(1990年)

再びHEARTLANDを率いてのアルバム。前作に比べてかなり内省的で混沌としたアルバムですね。佐野さんのキャリアの中では名盤『ナポレオン~』と『Sweet16』に挟まれて、わりと地味な扱いになっていますが、僕にとっては学生の頃繰り返し聴いていた青春の一枚です。本作は回帰というのがひとつのテーマで、<つまらない大人にはなりたくない>と歌った「ガラスのジェネレーション」へのアンサーソング「ぼくは大人になった」(曲調はまったく違いますが)なども収録されています。僕は「クエスチョンズ」と「恋する男」が大好きですね。ピアノとストリングスをバックに歌う「君を待っている」も美しい。先行シングルの「ジャスミンガール」はキャッチーな一曲。このあたりからHERTLANDには長田進さんが加入していますね。


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『Sweet16』(1992年)

僕が佐野元春さんを聴き始めたのは1991年なので、これが初めてリアルタイムで手に取ったニューアルバムでした。新譜が出たことが嬉しくて当時聴きまくっていたので、僕が最も繰り返し聴いたのはこのアルバムかもしれません。免許をとったばかりの頃、車に乗るたびにかけていました。若々しくストレートなロックに回帰しているところがあり、当時二十歳だった僕の胸も随分揺さぶられました。冒頭「ミスター・アウトサイド」「Sweet16」「レインボー・イン・マイ・ソウル」という流れがすごくカッコいいんですよね。「エイジアン・フラワーズ」はジョン・レノンを彷彿とさせるような楽曲で、コーラスはオノ・ヨーコさんとショーン・レノンさんが歌っています。ラストの「また明日…」のコーラスは矢野顕子さんですね。僕は「ミスター・アウトサイド」「Sweet16」「また明日…」が大好きです。演奏はこれもTHE HEARTLAND(なぜかここからTHEがつく)です。


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『The Circle』(1993年)

これも前作と並んで大学生の頃に聴きまくっていました。『Sweet16』をロックンロール・アルバムとするなら、こちらはR&Bアルバムといった雰囲気。僕はこのアルバムの冒頭に収録された「欲望」が佐野元春さんの楽曲で最も好きです。ジョン・レノンの「Mother」を彷彿とさせるイントロ、ミディアムテンポの美しいメロディ、センテンスごとに投げつけるような歌い方、そしてなんといっても素晴らしいのは歌詞。僕は当時この曲にかなり心酔していました。他に「レイン・ガール」と「彼女の隣人」も好きですね。これがTHE HEARTLANDとセッションした最後のアルバムとなります。僕はこのアルバムのツアーを観に行きました。相模大野公演だったかな。カッコいい佐野さんの姿が今でも目に焼き付いています。


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『FRUITS』(1996年)

2、3分くらいの比較的短い曲が17曲収録されたポップ色強めのアルバム。THE HEARTLANDを解散して、新たにINTERNATIONAL HOBO KING BANDを従えています。(元レベッカの小田原豊さんや、現在小田和正さんのギターを担当している佐橋佳幸さんなどがメンバー)このアルバムでは「インターナショナル・ホーボー・キング」「楽しい時」「経験の唄」が好きです。「楽しい時」の究極にシンプルな歌詞いいですね。この曲は後にSuperflyがカバーしています。あと後半、曲と曲のつなぎ目のように差し込まれる「霧の中のダライラマ」という1分の曲があるんだけど、これがすごくカッコいいんですよね。出だしのドラムとベースラインが最高です。ラストの「フルーツ―夏が来るまでには」は久々のスポークン・ワーズですね。


『THE BARN』(1997年)

共同プロデューサーにジョン・サイモンを迎え、ロックの聖地ウッドストックでレコーディングしたアルバム。ジョン・サイモンがかつてプロデュースしたTHE BANDの名盤『Music From Big Pink』の魂が宿ったような楽曲群ですね。(THE BANDのガース・ハドソンも参加)土臭い感じのサウンド。打ち込みが幅を利かせてる時代なので、余計にあたたかみが感じられます。ストレートなロック「ヤング・フォーエバー」、ビートルズの「Eight Days a Week」を意識したような詞の「7日じゃ足りない」などもいいですが、僕はハイトーンボイスで歌う「ドクター」とジョン・レノンを彷彿とさせる「どこにでもいる娘」とアコースティックな雰囲気の「誰も気にしちゃいない」が特に好きです。ここからバンド名は「THE HOBO KING BAND」になってますね。


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『Stones and Eggs』(1999年)

前作が海外のスタジオで海外ミュージシャンを参加させてのレコーディングだったのに対し、本作はTHE HOBO KING BANDとプライベートスタジオで作ったとのこと。またコンピューターを取り入れた曲も多く、「GO4」「驚くに値しない」「石と卵」は佐野さんが一人で製作しています。「GO4 Impact」ではDragon Ashの降谷建志さんがリミックスで参加。Dragon Ashに触発されたのか、「GO4」「GO4 Impact」では久しぶりにヒップ・ホップ調の曲に挑んでいます。また「驚くに値しない」はポエトリー・リーディング調の曲。そういう点ではやや『VISITORS』の頃を思わせますね。でも、やはり僕はキャッチーでストレートなロック「メッセージ」が好きですね。ひとつ前の「君を失いそうさ」から曲間を空けずに始まるところもすごくカッコいい。あとは猿岩石に提供した曲の歌詞を変えてセルフカバーしたという「シーズンズ」もいいですね。


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『THE SUN』(2004年)

前作から4年半ぶりとなるアルバム。コピーコントロールCDに疑問を抱いて古巣EPICを飛び出し、自主レーベルを立ち上げての第一弾。比較的若い人たちのことを歌ってきた佐野さんですが、このアルバムでは詞の中の人物がかなり大人に感じられますね。働きづめの日々を描いた「恵みの雨」、父親になる決意を歌う「希望」、シングルマザーを想起させる「レイナ」など、30代以上と思われる人々のことを歌っています。全体的にバンドサウンドが素晴らしく、THE HOBO KING BANDの到達点という感じがします。「観覧車の夜」のJazzyな演奏が聴きどころ。僕は初期の雰囲気をもった「月を往け」と壮大なイメージを呼び起こす「君の魂 大事な魂」が特に好きですね。「太陽」の<夢を見る力をもっと>というフレーズも耳に残ります。


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『COYOTE』(2007年)

「コヨーテ」と呼ばれる一人の男の視点から切り取った12編のロードムービー、その架空のサウンドトラックという想定で作られたというコンセプト・アルバム。バンドメンバーをガラッと替え、一回り若いメンバーばかりを率いています。(後の「THE COYOTE BAND」の中核となるメンバー)この若々しさが例えば先行シングル「星の下 路の上」やダンサブルな「君が気高い孤独なら」といった曲に大きく影響している気がします。歌詞も前作『THE SUN』は大人の憂いを帯びていましたが、今作は再び若返った感じがあり、前向きで力強いメッセージが込められていますね。数曲を除いて基本的にはドラム・ギター・ベース・ピアノといったシンプルな構成。このアルバムではなんといっても7分半に及ぶ大作「コヨーテ、海へ」が好きですね。<勝利ある>と<Show Real>で韻を踏むフレーズが印象的なジョン・レノンを彷彿とさせる名曲。アコギとピアノが美しい「呼吸」も好きです。


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『ZOOEY』(2013年)

『ZOOEY』(ゾーイ)というタイトルは佐野さんの愛犬の名前からとったものであり、ギリシャ語の「ZOE(ゾーエー)」=「いのち」を語源としているとのことですが、J.D.サリンジャー好きの佐野さんのことですから、当然グラス兄弟の五男ZOOEYのことでもあるでしょう。さて、このアルバムは前作の若手メンバーを元に「THE COYOTE BAND」という新しいバンドを結成して、主に「愛」や「いのち」にまつわる12曲が収録されています。どれも歌詞はすごくシンプルで、励まされるようなメッセージがこめられていますね。バンド構成もシンプルで、珍しくサックスも使われていません。「君と一緒でなけりゃ」の演奏なんか惚れ惚れとしてしまいますね。比較的キャッチーな曲が多く「世界は慈悲を待っている」「虹をつかむ人」「La Vita e Bella」「食事とベッド」などストレートに胸に響いてきます。僕は特に「La Vita e Bella」が好きですね。


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『BLOOD MOON』(2015年)

引き続きTHE COYOTE BANDを率いてのアルバム。印象的なジャケットはヒプノシスの流れを汲む英国のデザインチーム「Storm Studios」が手がけたもの。シンプルなバンドサウンドは健在ですが、キーボードも駆使されていますね。前作が「愛」についての比較的穏やかな詞が多かったのに対して、こちらは「新世界の夜」「誰かの神」「キャビアとキャピタリズム」といったやや過激で攻撃的な詞も。世の中への怒りや憂いが滲み出ています。とはいえ、クールな女性への想いを歌った「本当の彼女」や嘆きの中にも恋心が歌われる「優しい闇」といったピュアなラブソングも絶品。「バイ・ザ・シー」は初期のファンがニヤリとしてしまうような佐野元春節が満載です。僕は「本当の彼女」と「バイ・ザ・シー」が特に好きですね。


『MANIJU』(2017年)

『MANIJYU』とは「摩尼珠」という仏教用語からで、望みをかなえる珠玉のことだそう。引き続きTHE COYOTE BANDで、ジャケットも再び「Storm Studios」が手がけています。比較的大人向けロックという感じだった前作に比べると、こちらはかなり若々しくポップな感じですね。全体的に明るい曲が多いです。2000年以降だと僕はこのアルバムが一番好きかなあ。まずユニークな試みとして1曲目の「白夜飛行」と10曲目の「夜間飛行」が違う曲なのに、同じ歌詞で歌っているという。こんなことをやったアーティストって他にいるんでしょうか。斬新ですよね。また「現実は見た目とは違う」は前作収録「誰かの神」のアンサーソングのような歌詞。さらにインチキ扇動者への批判は「朽ちたスズラン」にも繋がっていきます。「蒼い鳥」はどことなくポール・マッカートニーを彷彿とさせますね。このアルバムは全体的に好きですが、「朽ちたスズラン」と新たな代表曲とも呼ぶべき「純恋(すみれ)」が特にお気に入り。


『或る秋の日』(2019年)

8曲30分というコンパクトなアルバムで、「人生の秋を生きる男女」というちょっとほろ苦いテーマが貫かれています。これは久々に「佐野元春」単独名義となっていますが、演奏はTHE COYOTE BANDです。先行配信曲4曲(「私の人生」「君がいなくちゃ」「或る秋の日」「みんなの願いかなう日まで」)と新曲4曲(というか実際はTHE COYOTE BANDになってからのアウトテイクだそう)が収録。シンガーソングライター色の強いアルバムで、歌われていることもごく身近で日常的なことですね。ミディアムテンポでアコースティック色が強めなラブソング集といった感じ。ただ「人生の秋」がテーマとは言うものの、「君がいなくちゃ」を書いたのは佐野さんが16歳くらい頃。またラストの「みんなの願いかなう日まで」はクリスマスソングです。僕はこのアルバムだと「いつもの空」が特に好きです。


『ENTERTAINMENT!』(2022年)

2022年新作アルバム2作連続リリースの第一弾。こちらはひとまず配信のみとしてリリースされました。改めてTHE COYOTE BAND名義。前半に先行配信シングル「愛が分母」「この道」「エンタテイメント!」「合言葉ーSave It for a Sunny Day」「街空ハ高ク晴レテーCity Boy Blue」がすべて収録されています。表題曲「エンタテイメント!」はまさにエンタメの本質を突いたようなロックナンバー。「愛が分母」は珍しくスカっぽい雰囲気の曲ですね。「この道」はレゲエっぽいテイスト。「街空ハ高ク晴レテ」は80年代頃を思い出させるような歌い方で、編曲は『FRUITS』収録の「僕にできることは」を彷彿とさせます。後半は新曲。「悲しい話」はブルージーな雰囲気ですね。「少年は知っている」は少年たちへのメッセージが込められた若々しい一曲。また「合言葉」「東京に雨が降っている」「悲しい話」の詞にはコロナ禍の影響も見られます。10曲34分というコンパクトな内容ですが、充実した楽曲群です。


『今、何処(Where Are You Now)』(2022年)

2作連続リリースの第二弾。こちらはフィジカルでも配信でもリリース。(初回限定CDのデラックスエディションでは、第一弾の『ENTERTAINMENT!』が同梱されているので、2枚組としての楽しみ方もできそうです)前作が先行配信曲5曲を含んでいたのに対して、こちらは先行配信の「銀の月」以外の13曲は新曲。『ENTERTAINMENT!』に比べるとこちらの方がアルバムとしてコンセプチュアルな要素が強いですね。生楽器のバンドサウンドで、曲によってはキーボードが効果的に使われています。初期からのファンとしては「さよならメランコリア」「銀の月」「水のように」といったキャッチーなロック曲や「冬の雑踏」のようなシティポップ調の曲を今でもやってくれているのが嬉しいですね。「水のように」の歌詞はコロナ禍で苦しむ人々へのメッセージになっている気がします。僕は上記の4曲と感動的な歌詞の「君の宙」が特に好きです。聴きこむたびに「クロエ」と「永遠のコメディ」の味わい深さも沁みてきます。佐野さんは「これが最後のアルバムと言ってもいい最高の一枚」と公言していますが、まさに新時代の名盤ですね。印象的なジャケットは三度目の「Storm Studios」。


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