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外国人教員ならではのオンライン授業の悩みと工夫:王怡人先生(琉球大学)

 琉球大学の王先生からは、外国人教員の立場から、オンライン授業でのご苦労についてお話していただきました。インフォグラフィックを多用したスライドについての工夫は、母語を問わずどの教員にとってもためになるお話です。

はじめに

 このノートは,デジタル教科書を活用した内容ではなく,オンライン授業に関する外国人教員の悩みとやってきた最小限の工夫に関する雑ぱくな感想文です。大した内容ではないのでどうぞご笑覧ください。

「作業効率」と「学習効果」のジレンマ


 2020年からの2年間,従来の対面授業からオンライン授業に切り替わることでそれに慣れていない自分にとって最初の1年はかなり苦労しました。
 急な方針転換なので,大学と学生の通信環境などの制限により,リアルタイムのリモート授業に参加できない学生を配慮するために,最初の1年間では自分が担当する「マーケティング入門(1~4年生)」,「マーケティング実践研究(2~4年生)」と「広告論(3~4年生)」といった3つの科目の昼夜の2クラスの授業を主にオンデマンド方式で提供しました。
 この3つの講義内容は性質によって次のように使い分けています。「マーケティング入門」は基礎科目なので,マーケティングに関する知識伝達を中心にオンデマンド形式で提供しました。「マーケティング実践研究」はデジタル・マーケティングに特化し,講義内容を事前にオンデマンドで提供し,グループ・ディスカッションはリアルタイムで行うというハイブリッド形式でした。「広告論」は,前半の広告制作に関する内容をオンデマンドで提供し,後半は提示した2つの課題についてリアルタイムでグループワークをさせました。
 しかし,授業内容の準備において思わぬ問題が発生しました。それは,普段何気なくしゃべっている内容をいざレコーディングするとかなり噛むという問題です。特に,対面授業の場合は学生の顔をみながら講義内容を伝えられますが,目の前のマイクに向かって独り言のように原稿の内容を読み上げると,どうしても「気持ち」が入らないのです。そして,声質の悪さ,イントネーションなどのマイナス要素はマイクを通して更に増幅された気がするから,気持ちが更に萎縮してしまいました。とはいっても,3つの講義の内容をできだけ早くサーバーにあげたいので,セリフを噛みながら何回も取り直し,そして録音した内容を編集して繋げていくことにしました。そのため,90分間の講義を準備するために,場合によって一日かかってしまったこともしばしばありました。

電子合成音によるテキストの読み上げ


 動画作成の作業効率を上げるために,そして自分の悪い声を学生に聞かせないために思い付いたのは,電子合成音によるテキストの読み上げという方法でした。このやり方にすれば,書いた原稿を電子合成音で読み上げてそれを録音するだけで作業効率は格段と上がりました。一日がかりの仕事は4,5時間で準備できるようになりました。しかし,このやり方はかなりリスキーなので,3科目の内履修者数が比較的に少ない「マーケティング実践研究」の最後の3回だけ実験的に導入してみました。案の定,学生からのクレームが起こりました。前期の授業アンケートでは複数の学生から「下手でもいいから先生の声で録音してください」との指摘がありました。

 夏休みの間にいろいろ探した結果,声のトーン,抑揚とスピードを調整できる電子合成音を発見しました(かんたんAI Talk3)。この電子合成音なら,声のトーンと抑揚を調整することで無機質な音声よりも人間の声に近づきました。しかし,いきなりこれを講義に使うのもはばかれますので,実験的に講義ガイダンスの部分だけ使ってみました。その後,学生に聞きましたら,あまり違和感がないとの返答でした。それで,オンデマンド授業の「作業効率」と「学習効果」の問題をある程度解決できました。

インフォグラフィックを活用したスライド作成

 これまで「碩学舎note」で紹介されている事例は,デジタル教科書を活用した内容が主でした。しかし冒頭でも述べたように,このエッセイはそのよう内容ではなく単に外国人教員のオンライン授業に関する感想文です。理由は,講義スタイルにあります。自分の場合,日本語は母国語ではないので日本人教員と同じように教科書に沿って内容を解説していくのは,いささかおこがましい気がするからです。したがって,教科書の内容をそのままではなく,碩学舎が提供してくれたティーチングガイドを参考に,自分なりの工夫で活用しています。
 なぜ自分なりの工夫を付け加える必要があるのか。その理由は次の2点です。1つ目は先ほど述べたように,教科書の内容をあたかも自分が書いたように読み上げるのに心理的抵抗があるからです。そして,もう一つの理由は,パワーポイントによる講義内容の提示と関連するからです。
 対面授業の場合は,パワーポイントの提示は学生の反応をみながら調整できます。しかし,オンデマンド講義の場合,教員のペースで内容をすすめざるを得ないから,前述した音声の問題の他に,以下のスライドのように、ビジュアル的に工夫をしないとかなり退屈な講義になるからです。

インフォグラフィックを活用したスライド例1
インフォグラフィックを活用したスライド例2

 特にパワーポイントで作成した講義ノートは,多少の図表や挿絵を使ってもどうしても文字中心になりやすいからです。そして,プレゼンテーション用の資料はどうしても情報を取捨選択しなければならないので,省かれた情報は音声で補う必要があります。しかし,学生の立場からみれば,学生の反応を想定しないオンデマンド講義の進行についていくためにかなりの集中力が要求されます。提示された内容がまた文字中心になると,その授業を受けるのはかなりの負担になります。

 そこで考えたのは,講義内容に沿って2~3個の20分程度の短い動画に分けることでした。その内容は文字情報だけでなく,会社のwebサイトやYouTubeに公開されている公式動画の紹介映像も。それらの内容を見に行かせたりして,強制的に動画の閲覧を中断させるようにしました。そして口頭で,講義ノートを取らせるように指示を出します。さらにできるだけ文字情報をインフォグラフィックにおき変え,ビジュアル的に概念的内容を表現するようにしています。ただ,これらの工夫についての学習効果はまだ検証していないし,すべての内容のインフォグラフィックに置き換える作業もまだ完成していないのが課題です。


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