続・時代劇レヴュー㊸:戦国乱世の暴れん坊・斎藤道三怒濤の天下取り(1991年)

タイトル:戦国乱世の暴れん坊・斎藤道三怒濤の天下取り

放送時期:1991年1月3日

放送局など:テレビ朝日

主演(役名):松平健(斎藤道三)

原作:中山義秀・桑田忠親

脚本:志村正浩


本作は、かつてテレビ朝日が1月3日に放送していた「新春大型5時間時代劇スペシャル」の第一弾である。

タイトルの通り、美濃の戦国大名・斎藤道三を主人公とし、若き日の道三が妙覚寺を出て還俗する所から始まって、正徳寺で織田信長と会見するまでを描いている。

後行する同シリーズの作品に比べると、チャンバラ時代劇のテイストが強く、特に還俗後間もない道三が、盗賊の首領と一騎打ちをするなど、序盤においてその傾向が顕著である(タイトルの「暴れん坊」も、主演の松平健の代表作で、同局で放送されている「暴れん坊将軍」を意識したものであろう)。

一方で、正月の出し物らしくかなりの予算をかけており、合戦シーンなどは見応えがあるものになっている。

かなり以前に書かれた文学作品を原作としていることもあって、道三の出自については、江戸時代の記録をベースにしており、妙覚寺の僧侶から油問屋・奈良屋の婿養子となって、さらに美濃の土岐家に仕え、ついには主君の土岐頼芸を追放して一国を乗っ取ったと言う従来説(道三一代国盗り説)に基づいている。

原作の中山義秀『戦国史記』は(なお、本作では歴史学者の桑田忠親も原作者としてクレジットされているが、桑田の著作『斎藤道三』は、もとより小説ではなく評伝なので、どちらかと言えば「参考文献」的な扱いなのであろうか)、道三が美濃に赴く所から物語が始まっているため、それ以前の部分は本作オリジナルのストーリーであるが(特に実父の松波基宗の死については、かなり大胆な創作がなされていた)、道三の家臣(と言うか子分的存在)の描き方などは、司馬遼太郎『国盗り物語』の影響を受けているのではないかと思われる箇所がある。

また、近年の研究によれば、道三の異名として広く知られている「蝮」は、同時代のものではなく、坂口安吾が自身の著作『信長』の中で初めて用いたものであり、ほぼ同時期(安吾の『信長』よりも数年後)に執筆された中山義秀の原作ではこの異名は用いられていないが、その後この異名が広く定着したためか、本作では登場人物が道三を「蝮」と呼ぶ描写もある。

細かい部分では史実と異なる所もあるが(例えば、織田信長が濃姫を娶るのが、父である信秀の死後になっているなど)、そもそも道三の生涯自体が不明な部分が多いため、全体的には大きな破綻もなく、道三の国盗りの過程もテンポ良く描かれていて、エンターテインメントとしては大変出来が良く、長時間飽きさせない作りになっている。

個人的には、登場シーンこそわずかであるものの、映像作品では滅多に取り上げられることのない伊勢宗瑞(演・藤田まこと、作中では「北条早雲」)を、道三のロールモデルとして登場させている点が面白かった(もちろん、伊勢宗瑞についての研究が進展する以前の作品なので、一介の素浪人から身を起こして大名になった人物として描かれているが)。


キャストについて言及すれば、まず主演の松平健は、従来の道三のイメージとはちょっと違うが、なかなかの熱演ぶりでこれはこれでありかも知れないと思える道三像であった(なお、松平は役作りのために髪を剃って撮影に臨んでおり、同時期に行われた松平と大地真央の結婚会見の際に、坊主頭で登場していたことが記憶に残っている)。

後半で道三と大きく絡むことになる織田信長は、当時トレンディドラマで人気を博していた仲村トオルが演じているが、仲村が長身のせいもあって結構はまっていた(ちなみに、仲村はこの翌年にNHK大河ドラマ「信長」で秀吉役も演じている)。

作中で、信長が道三を狙撃しようとして失敗し(もちろんこの描写自体は創作であるが)、その際に追ってきた明智光秀と一騎打ちするシーンがあるが、これは後年の本能寺の変を意識したいわば「サービスシーン」であろうか。

松平健との関係で言うと、道三と度々戦うライヴァルと言うべき存在の織田信秀は中尾彬が演じているが、これは中尾が「暴れん坊将軍」で松平健演じる吉宗と敵対する徳川宗春を演じていたことを意識したキャスティングであろうし、若き日の道三を見いだした長井利隆(近年の研究では、斎藤妙全と同一人物とされている)を、好評を博した1973年の大河ドラマ「国盗り物語」で、道三役を演じた平幹二朗が演じているが、これも「狙った」キャスティングであろう。

道三に国を奪われることになる土岐頼芸は田中健が演じているが、二枚目の役が多い田中が、ここでは情けない国主を好演している(余談であるが、この前年に放送されたテレビ東京の「宮本武蔵」の本位田又八役、日本テレビの「天と地と・黎明編」での長尾晴景役など、この時期不思議と彼は「情けない」役を立て続けに演じている)。

他には、道三を追い落とそうとする長井長弘役の神山繁や、頼芸の兄で道三の最初のターゲットにされる土岐政頼(頼武)役の西田健などはよくはまっている。

最後に、本作に限らずテレビ朝日のこのシリーズは全体的に出来が良い、と言うか、同時期に各局が制作していた年末年始の大型時代劇の中では「塩梅」が大変良い。

日本テレビの「年末時代劇スペシャル」はどちらかと言えばドキュメンタリタッチで、TBSの「新春大型時代劇」は作風がエンターテインメントに大きく振り切っていて、史実と大きく異なる描写も多く、それらと比べると、このシリーズは原作となる作品があるせいもあるだろうが、史実とドラマ性のバランスがうまく取れている印象がある。

三シリーズしか制作されないと言う短命だったせいもあって、認知度も低くソフト化も全くされていないが、個人的にはもっと注目されて良いシリーズだと思う。


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