続・時代劇レヴュー㉑:徳川武芸帳・柳生三代の剣(1993年)ほか

タイトル:徳川武芸帳・柳生三代の剣

放送時期:1993年1月2日

放送局など:テレビ東京

主演(役名):九代目松本幸四郎=現・二代目松本白鸚(柳生宗矩)

原作:吉田剛

脚本:吉田剛、渡辺善則、鈴木生朗、中村勝行


テレビ東京が毎年正月に放送していた「12時間超ワイドドラマ」(後に新春ワイド時代劇)の第十五弾(オリジナル作品としては十三作目)で、柳生宗矩を中心に、柳生石舟斎、柳生十兵衛の柳生三代それぞれの生き方を、江戸初期の政治事件とからめて描いた作品である。

剣豪よりも政治家としての側面が強調されることの多い宗矩を主人公にしているだけに、関ヶ原の戦いから始まって大坂の役、宇都宮の釣天井事件、鍵屋の辻の決闘、島原の乱、寛永御前試合などの有名事件がそれぞれの部(全部で六部構成)のメイントピックになっている。

本作での宗矩は、政治家肌の人物であるが、一方で武芸者としても一流で懐の深い人物に描かれている。

そうした宗矩とは対照的に、純粋に剣のみに生きようとする父の石舟斎や長子の十兵衛は彼の生き方に反発するが、内心では一目置いているという、この手の「柳生物」にはありがちの設定であるものの、幸四郎演じる宗矩、平幹二朗演じる融通の利かない石舟斎、村上弘明演じるストイックな十兵衛がそれぞれはまっている。

他にも宗矩の庇護者である徳川家康に津川雅彦、宗矩の母・春桃御前に有馬稲子など正月の長編ドラマに相応しい豪華な顔ぶれで、ちょっとしか登場しない加藤清正役に芦田伸介を当てるなど、これまた正月の出し物に相応しい贅沢なキャストの使い方も見られた。

基本的には娯楽時代劇要素を重視した作品であるため、史実をベースにしつつも各事件には随分と脚色が加わっており、特に後半は十兵衛が実質的な主人公的役回りとなり、ストーリーの大半が単発のチャンバラ時代劇と変わらない作りになってしまっている。

このあたりは好みの分かれる所であろうか。

同シリーズは、この手の史実をベースにし、同時期の有名事件と主人公を絡ませながら進む娯楽職の強い作風の時代劇が本作以外にも多く存在する。

話ついでに過去に見たものを一挙紹介しておく。

まず、本作と時代的にも取り上げているテーマ的にも近いのが、1987年放送の「風雲江戸城・怒涛の将軍徳川家光」と、2006年放送の「天下騒乱・徳川三代の陰謀」である。

前者は三代将軍家光(演・北大路欣也)を主人公にし、南原幹男の『寛永風雲録』を大幅にふくらませた作品で、幕府転覆を図る由比正雪(演・高橋悦史)と家光の対決が物語の軸になっている。

何故か由比正雪が大谷吉継の子と言うおかしな設定になっていたり、史実と異なる点も多く(例えば、水野十郎左衛門が幡随院長兵衛を殺害する事件が、寛永年間の出来事になっていたり、家光が元服後まで家康が存命していたり)、正雪が家光のライヴァルとして描かれているために、慶安の変が家光の存命中に起こるといった大幅な脚色もなされている。

かなり娯楽作品に寄せているために人物設定におかしな所も多いが、一方で家光の弟・忠長(演・荻島真一)が善良で英明な人物に描かれていたり、松平信綱(演・清水綋治)が主人公側の人物であるにもかかわらず陰謀をめぐらす比較的悪辣な人物として描かれているなど、家光を主人公にした作品としては珍しい設定も見られた。

後者は土井利勝(演・西田敏行)、柳生十兵衛(演・二代目中村獅童)、荒木又右衛門(演・村上弘明)の三人を中心に、江戸幕府草創期の政治模様を「鍵屋の辻の決闘」のエピソードを軸にして描いた作品である。

原作は池宮彰一郎で、鍵屋の辻の決闘を幕府を揺るがす重大事件と解釈し、ここに大名統制を行う老中の土井利勝や、父の宗矩に反発して荒木又右衛門を慕う柳生十兵衛の思惑などが絡んで進んでいくのであるが、これまた「徳川武芸帳」同様半分史劇、半分チャンバラ時代劇といった娯楽色の強いものになっている。

そのため史実と異なる箇所も多く、本多正純は釣天井の下敷きになって死に、崇源院は秀忠よりも長生きをし、駿河大納言忠長切腹の年月も、鍵屋の辻の決闘と合わせるために無理にずらしている。

同シリーズでは江戸中期を舞台にした作品も多く、1986年の「徳川風雲録・御三家の陰謀」と、そのリメイク版である2008年放送の「徳川風雲録・八代将軍吉宗」は、柴田錬三郎の『徳川太平記』を原作に、徳川吉宗のサクセスストーリーに江戸時代中期の有名事件を絡め、天一坊事件をクライマックスとする、やはり娯楽性の高い作品である(前者の主演は北大路欣也、後者は中村雅俊)。

同時期を扱ったものとしては、1997年放送の「炎の奉行・大岡越前守」があり、こちらは十二代目市川團十郎が大岡忠相役を務め、忠相の生涯を、元禄赤穂事件、絵島・生島事件、天一坊事件などの、半分講談めいたエピソードとからめて描いたもので、やはり作風は上記の諸作品と共通する。

同じ十二代目市川團十郎主演で1992年に放送された「天下の副将軍水戸光圀・徳川御三家の激闘」も、主役は「水戸黄門」でお馴染みの徳川光圀であるが、光圀の伝記的ドラマというよりも、由比正雪の乱、水野十郎左衛門と幡随院長兵衛の抗争、伊達騒動、八百屋お七事件、佐野次郎左衛門などの、同時代の著名な事件と光圀を絡めて描いているが、團十郎が主演であるゆえか、歌舞伎の演目を元ネタにしたエピソードが多いのも特徴である。

今回メインで取り上げた「徳川武芸帳」を含め上記の諸作品は、いづれも史実と違う箇所やおかしな人物設定は多いが、案外正月のだらけた空気の中で見る出し物としてはこれくらいで良いのかも知れず、長時間飽きずに気楽に見られるという点ではよく出来た作品である。


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