時代劇レヴュー⑭:宮本武蔵(1990年)

タイトル:宮本武蔵

放送時期:1990年1月2日

放送局など:テレビ東京

主演(役名):北大路欣也(宮本武蔵)

原作:吉川英治

脚本:塙五郎


かつて正月の二日に一挙放送されていたテレビ東京の名物番組「12時間超ワイドドラマ」の十二作目(オリジナル作品としては十作目)の作品である。

吉川英治の代表作と言うべき『宮本武蔵』を原作に、六部構成で剣豪・宮本武蔵の半生を描く長編である。

他の映像化作品もそうであるように、原作の前半部が物語の中心で、一乗寺下り松の決闘までが物語の八割ほどを占め、江戸編はかなり駆け足で描かれて、その後は一気に巌流島の決闘まで進む。

この作品の特徴を一言で言えば、「原作に忠実」と言う点ではないだろうか。

吉川英治の『宮本武蔵』は日本の歴史小説の中でも屈指の著名作品で、何度も映像化されているが、その割に原作に忠実な作品と言うのは意外と少なく、監督や脚本家の色が露骨に出てしまって原作の雰囲気を損なっている作品も少なくない。

そうした諸作品の中で、この北大路欣也版「宮本武蔵」は色々な面で原作のイメージに近い。

もっとも、細かい部分で言えば、原作のエピソードと時系列が違う展開があったり、佐々木小次郎に関するドラマオリジナルのエピソードが多かったり(燕返しを会得するエピソードがあったり、原作には登場しない小次郎の恋人が出てきたり)、あるいは北条新蔵が小次郎に殺されてしまったりと、原作と違う所も結構ある。

とは言え、全体的なイメージは原作とうまいこと合致していたように思うし、原作と時系列を変えてはいるが、第三部の終盤に厨子野耕介の店先で武蔵と小次郎が初めて顔を合わせるシーンは出色である(後、原作通り武蔵が柳生石舟斎とついに会わない展開なのも良い)。

個人的には、原作の完成度が高いゆえに原作の雰囲気を映像でも味わいたいと思ってしまうので、監督や脚本家の余計な色が出ている作品よりも、この作品のようなケレン味のない作品の方が好きである(そう言う意味では、巌流島の決闘の後で武蔵が虚しさを感じる展開になっている中村錦之助版の東映映画「宮本武蔵」は好きになれない)。

もう一つ、キャストが絶妙なのもこの作品を高評価したい点である。

主演の北大路欣也演じる武蔵は、風貌的には物語の設定よりもだいぶ年を取っているが(物語開始時点で武蔵は十七歳)、後半になるにつれて求道者的な雰囲気がよく出ていたし、武蔵の旧友である本位田又八役の田中健は、歴代又八を演じた俳優の中でも最もはまり役であったように思う。

「天と地と・黎明編」(「時代劇レヴュー④」参照)の長尾晴景の時もそうであったが、彼は普段のイメージは二枚目であるが、どちらかと言えばこう言う道を踏み外してしまう情けない役を演じさせるとはまるし非常にうまい。

又八を溺愛するお杉婆演じる左幸子の怪演も見事であるし、吉岡清十郎役の萩原流行もはまり役であった(いづれも故人であるが)。

また、吉岡伝七郎を演じるのは、今では名脇役としてドラマでは欠かせない存在になっている内藤剛志であるが、彼がまだ悪役ばかり演じた頃の作品なので、このドラマでの粗暴な役は今となっては貴重かも知れない。

他にも北大路欣也の実父・市川右太衛門が、「たけぞう」に「宮本武蔵」の名を与える池田輝政役で特別出演しているのは、正月の出し物に相応しい豪華さである。

こうした配役陣の中でも特にはまり役だと思うのが、佐々木小次郎役の村上弘明である。

彼はこう言う冷徹な二枚目を演じさせると右に出る者がいないように思うし、独特の癖のある芝居が、クールな小次郎とよくマッチしていて、これまた歴代小次郎を演じた俳優の中では個人的ナンバーワンである。

ただ、細かい点で言うと中にはちょっとちぐはぐなキャストもあって、例えば、本編と結構関わるキャラクタにはあまりテレビでは著名でない俳優を当てている割に、あっさりと退場してしまったりほとんど登場シーンのない役、例えば北条新蔵役に石原良純(ただし、原作では新蔵はそれなりに重要な登場人物である)、細川家仕官後の小次郎の恋人役にかたせ梨乃を当てているあたりは何となくもったいない(役の見せ場・重要度で言えば、むしろ小次郎の最初の恋人役がかたせ梨乃であった方が良いと思うのであるが)。

こんな感じで細部には不満もあるものの、個人的には数ある吉川『宮本武蔵』の映像化作品の中でも最も完成度の高いものとして一押しなのであるが、どう言うわけか2019年現在全くソフト化されていないため、視聴の機会があまりないのが残念である。

諸般の事情があるのだろうが、テレビ東京(もしくは制作を担当している東映)には是非ともDVD・BD化をお願いしたい作品である。


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