続・時代劇レヴュー⑪:蒼き狼(1980年)

タイトル:蒼き狼・成吉思汗の生涯

放送時期:1980年10月6日、7日

放送局など:テレビ朝日

主演(役名):加藤剛(チンギス=カン、作中での表記は「成吉思汗」)

原作:井上靖

脚本:大野靖子


モンゴル帝国の建国者であるチンギス=カンは、日本でも古くから著名な人物であり、彼を主人公にした文学作品も多い。

そうした作品の代表作と言えるのが井上靖の『蒼き狼』で、タイトルの語感の良さ(『元朝秘史』の那珂通世の訳文にヒントを得て井上靖がつけたタイトルであろうが)もあって、いまやチンギスの代名詞として「蒼き狼」が日本では定着している感がある。

この小説を原作にして全編ほぼ忠実に映像化した作品としては、テレビ朝日が1980年に二夜連続で放送した「蒼き狼・成吉思汗の生涯」があり、これはテレビ朝日の開局二十周年を記念して作られた作品である。

これを「時代劇」のカテゴリに入れて良いのかどうかわからないが、中国の協力を得て全編内モンゴル自治区で撮影されており、歴史ドラマとしてはかなり力の入った作品であり、また井上靖の小説の映像化としては精度も高い。

本作はVHS、DVDともにリリースされていて、現在でも容易に視聴が出来るが、私自身はリアルタイムで見ておらず、またVHSとDVDで編集が異なるため、実際の放送がどのような形式だったのかよくわからないものの、最も新しい媒体のDVD版は四部構成である。

放送時は二夜連続であり、一夜が二部構成だったのか、それともソフト化の際に四部構成にしたのかどうかわからないが、VHSは三本組四部構成で、三部と四部が三本目にまとめて入っているため、四部のオープニングがカットされており、DVD版では四部ともオープニングが収録されている。

VHS版とDVD版ともに全部のオープニングが、放送時のものをうかがわせる内容なので(例えば、配役クレジットなどはどれも内容に準じたものになっている)、あるいは放送時も一夜に二部づつ放送する四部構成だったのかも知れない。

主演の加藤剛は存在感のあるチンギス=カンを演じており(余談ではあるが、私個人はTBSの「大岡越前」をよく見ていたせいか、加藤剛は知的な文官肌の役が似合うイメージがあるのだが、若い頃の彼は本作や大河ドラマ「風と雲と虹と」の平将門など、勇猛な武人の役も多く演じている)、田中邦衛演じるチンギスの盟友・ボオルチュも良い味を出している。

また、加藤が主演を務めている関係か、俳優座の俳優が多数出演している。

大野靖子の脚本らしく概ね原作に忠実であるが(大野の作品は、設定から台詞に至るまで極力原作に寄せて作っているものが多い。ちなみに本作では、やはり井上靖の原作に依拠してチンギス=カンと、その初名のテムジン、チンギスの愛妃・クランだけは人名表記が漢字になっている)、チンギスの功臣であるムカリがまったく登場しない点は何か事情があるのだろうか(もっとも、ムカリは原作でもあまり目立った扱いはされていないが)。


なお、井上靖の『蒼き狼』を原作とした作品としては、2007年に上映された角川映画「蒼き狼・地果て海尽きるまで」もある。

こちらは角川が指揮を取って日蒙合作で作られ、全編モンゴルロケを敢行し、巨額の予算を投じて制作した作品であるが、内容としては井上靖と森村誠一の小説『地果て海尽きるまで』の折衷であり、史実と異なる所も多く、また内容としても1980年のテレビ朝日版に遠く及ばない。


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