時代劇レヴュー⑥:古田求脚本の「忠臣蔵」あれこれ(1991年、1996年、2003年、2004年)

以下の作品、いづれも原作はなし、脚本は古田求なので、そこは省略(役名も皆大石内蔵助なので今回は略)。

タイトル:①忠臣蔵 ②忠臣蔵 ③忠臣蔵~決断の時 ④忠臣蔵

放送時期:①1991年12月13日 ②1996年10月~12月(全10回) 

     ③2003年1月2日 ④2004年10月~12月(全9回)

放送局など:①フジテレビ ②フジテレビ ③テレビ東京 ④テレビ朝日

主演:①仲代達矢 ②北大路欣也 ③中村吉右衛門(二代目) ④松平健


テレビ・映画問わず、何度も繰り返し映像化されている時代劇の一つに赤穂事件を題材にした「忠臣蔵」があるが、1990年以降、テレビドラマの「忠臣蔵」の脚本を多く手がけて来た作家の一人に古田求がいる。

古田の脚本の台詞回しは古風な表現を多く使う独特の雰囲気があり、オールドファンでも安心して見ていられるものであるが、反面、ドラマが違ってもほとんど台詞は同じ(これは古田に限ったことではなく、時代劇の脚本家には多かれ少なかれこうした傾向があるが)と言うある種の「マンネリ」もある。

2019年現在まで、古田求が脚本を手がけた「忠臣蔵」の作品は全部で四つあり、最初に手がけた1991年版を除いては、放送時間もほぼ同じである(2003年版は放送枠こそ単発であるが、「新春ワイド時代劇」の枠で十時間に及ぶ大作であり、時間的にはワンクールのドラマに匹敵する)。

そのため、脚本の内容としては大筋では同じものとなり、それぞれの作品の善し悪し、好き嫌いを分けるのは主としてキャスティングと演出と言うことになる。

そこで、今回は一つ一つの作品に焦点を絞るのではなく、四作品を比較して、古田版「忠臣蔵」の個人的ナンバーワン作品を決めてみたい(以下、煩瑣を避けるためにそれぞれの作品は上記の番号で表現する)。

最初に、内容はほとんど同じであると言っても、各作品において微妙に異なる部分もあるため、まずはそれを書き出してみたい。

内容の違いで分けるとすれば、①とそれ以外、そして③とそれ以外と言う区別が出来るであろう。

①は放送時間はおよそ四時間で、他の三作品に比べて極端に短く、そのためか途中で脱落した浪士のエピソードが全く登場しない(大野九郎兵衛や高田郡兵衛など)点で異質である。

浪士の脱落と言う要素は、討入りに至るまでの苦難を端的に示すものであるため、これを省略している作品は古田版以外の忠臣蔵の諸作品にまで比較範囲を広げても極めて珍しいケースで、他に見られない①の大きな特徴であると言えよう。

③とそれ以外とを分ける要素は、歌舞伎の「仮名手本忠臣蔵」の要素であり、③は歌舞伎オリジナルのエピソードが全面的に盛り込まれている(例えば、お軽と早野勘平のエピソード、「松浦の太鼓」に合わせて土屋主税が松浦鎮信になっている、主演の中村吉右衛門の意向で垣見五郎兵衛のエピソードが登場しないなど)が、それ以外の作品は特にそれは意識されていない(ただし、古田は加古川本蔵のエピソードが気に入ったのか、④においては本蔵と妻の戸無瀬、娘の小浪だけは③と同じ形で登場する)。

他に、細かい指摘であるが、作中で大石内蔵助のライヴァルとも言うべき上杉家江戸家老は、キャラクタや台詞はほとんど同じであるものの役名が作品によって異なり、①・③では色部又四郎、②・④では千坂兵部になっている(史実的には色部又四郎の方が正しい)。


さて、結論を先に言ってしまうと、四作品の中で私が一番好きなのは②の北大路欣也版である。

(これは②に限らないが)時間をかけてじっくり一つ一つのエピソードを丁寧に描いているし、配役も概ね合っていて、かつ「忠臣蔵」に相応しい贅沢なものになっている。

討入り後に脱落した寺坂吉右衛門を語り手にしている点も、他の作品にはない面白い設定であったと思う。

逆に四つの中で最も個人的評価が低いのが④であるが、これは③と放送時期の間隔が短かったのにもかかわらず、内容がほとんど同じのために二番煎じのような印象があり、それが評価の低さにつながっていると言うある種の「不幸な」側面もあるが、それを差し引いてもキャストがあまり良くなく、特に松平健はどうも内蔵助が似合わない(あくまで個人的な印象であるが、マツケンは「暴れん坊将軍」などのキャラクタの印象のせいか、年は重ねても万年青年と言う感じがして、どうも内蔵助に必要な重みに欠けている観があった)。

①は、内容的にはうまいことコンパクトにまとまっていて、「忠臣蔵」を初めて見る人にはおすすめの作品であり(ちなみに私も通しで見た初めての「忠臣蔵」がこの作品であった)、独立した作品として見た場合はクオリティが高いと思うが、やはり②がじっくりと描いているだけに、同じ脚本・物語展開な分、比較するとどこか物足りなく感じてしまう。

③は、内容的に可もなく不可もないと言う感じで、忠臣蔵の一通りの「お約束」は踏まえているが、演出や俳優の演技のせいでどうも全体的に雑で軽い感じに仕上がっていて、その点が不満である。

後、②に比べると全体的にキャストがあまり良くない。

唯一、内蔵助役の吉右衛門は流石の貫禄であるが、演出が彼の本来の演技の良さを少なからず壊しているような気がした。

もう一つは、自分の中のイメージとの合う・合わないはともかく、配役の「物足りなさ」が多い印象であった。

「忠臣蔵」の魅力の一つは、オールスターキャストにあり、ワンシーンにしか出てこないようなキャラクタにも豪華な配役を当てるような所に醍醐味があると個人的には思うのであるが、そうしたある種の「ワクワク感」のようなものが③には全くと言って良いほどないのである。

個人的には、「忠臣蔵」に登場するキャラクタの中で、脇坂淡路守・垣見五郎兵衛・土屋主税の三人には「トメ」の常連のような大御所的俳優を当てて欲しいと思っているのであるが、③では登場しない垣見五郎兵衛は別にして、敢えて失礼を承知で書けば、脇坂・土屋役には迫力が足りなかったように思う(演技が悪いと言うわけではないので、具体的な俳優名を挙げるのは控えるが)。

ちなみに、この大御所の俳優をワンシーンだけの役に使うと言う「忠臣蔵」特有の「お約束」は、①・②・④では満たされており(上記の三役に加えて、古田脚本では天野屋利兵衛に大御所をキャスティングする傾向がある)、テレ東が変な所で配役をケチった(?)のが惜しまれる。

これ以外の配役について、②を軸にして比較などを書いていきたい。

②の俳優陣の中で個人的に好きなのが、瑤泉院役の麻乃佳世と、堀部安兵衛役の世良公則である。

麻乃佳世は大名の令室と言う雰囲気が良く出ており、私が見た歴代の瑤泉院役の中でも上位のはまり役であった(ちなみに、私はこの作品で初めて麻乃佳世と言う女優を知ったのであるが、これ以来彼女のファンである)。

③の瑤泉院役は牧瀬里穂、④では櫻井淳子であるが、牧瀬里穂は全然柄じゃなく(ファンの方、ごめんなさい)、櫻井淳子は確かに端正な美人であるが、どこか大名の令室と言うか高貴な役と言うのが今ひとつはまらない(小町娘みたいな役を演じさせればかなりはまると思うのだが)。

世良公則の堀部安兵衛は、独特の雰囲気があって四十七士中、大石内蔵助に次いで知名度がある安兵衛には相応しいキャラクタであったし、これまた歴代安兵衛の中でも、勝野洋(1985年放送の日テレ「忠臣蔵」)、阿部寛(1999年の大河ドラマ「元禄繚乱」)と並んでベストスリーの配役である。

ちなみに、この古田版「忠臣蔵」の安兵衛は、世良公則を除くとどう言うわけか皆ミスキャストであり、その点でも世良の良さが際立つ(①で安兵衛を演じた地井武男はどうも「うるささ」が目立ってしまって、例えば武林唯七あたりだったら良かったと思うのだが。②の伊原剛志、③の宇梶剛士はそもそも全然イメージが違う)。

後、古田版は吉良上野介がどれもあまり良くない。

吉良役と言うのは、単に悪役に徹すれば良いと言うわけではなく、憎々しい中にも高家肝煎の品格と言うのがないと説得力がないように思うが、①の大滝秀治、②の平幹二朗、③の橋爪功と、個々の役者の力量は確かなのであるが、いづれも「高家」としての雰囲気が足りないように感じた。

例外的に、④の伊東四朗は憎々しさと威厳のバランスがうまいこと取れていたように思う。


と、だいぶ個人の印象で好き勝手に書いてきたが、古田作品の中で一番おすすめしたい「忠臣蔵」は②の1996年放送北大路欣也版なのであるのだけれど、こちらはVHSのリリースのみ(かつ現在は廃盤)で現在は気軽に視聴出来ないのが残念である(なお、個人的には出来が悪いと思う③と④はDVD化されている)。

①の1991年版も現在はVHSが廃盤であるため、合わせてDVDないしはBD化が待たれる作品である。


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