時代劇レヴュー㉚:新陰流 上泉伊勢守信綱(2017年)

タイトル:新陰流 上泉伊勢守信綱

放送時期:2017年3月3日

放送局など:BS朝日

主演(役名):村上弘明(上泉伊勢守信綱)

脚本:石倉保志


2017年にBS朝日で放送された作品で、新陰流の開祖である戦国時代の剣豪であり、「剣聖」と謳われた上泉伊勢守信綱の半生を描いた作品である。

伊勢守信綱は、柳生新陰流につながる新陰流の祖であり、袋竹刀の考案者と言う伝承もあったりして著名な人物であるが、その割に登場する作品が少なく、彼を主人公に据えたテレビドラマは、1992年に群馬テレビローカルで放送された「雲のごとく水のように」(主演の信綱役は若林豪)くらいで、全国ネットの作品としては本作が初の試みではないだろうか。


ちなみに、本作も信綱の「地元」である群馬県が色々と関わっているようで、撮影も渋川市の雙林寺や高崎市の箕輪城跡など、群馬県内で多く行われている。

物語は、信綱の青年期から箕輪落城後に修行の旅に出るまでの話を描いており、全二時間と言う限られた時間のせいか、変な創作を入れた所もあったものの、全体的には真面目に作っていて好印象であった。

現在定説化している「史実」よりも、軍記に出てくる話などをベースにしている所も多いが、信綱自体が伝説に彩られた部分が多くて今ひとつ事績が明瞭でない人物なので、これは仕方がないことであろう。

むしろ、二時間でエピソードをうまく消化している印象だったので、その点は素直に良かったと思う。

が、それはそれとして、一応上記の定説と違う所や、創作部分をいくつか挙げておけば、例えば、天文末年に長尾景虎自ら上野に出陣してきて、北条氏の手から上泉城を奪い返すシーンがあるが、この時は景虎は名代を派遣しただけで自身は出陣していないとされている(ただし景虎が出陣したとする史料もあるので、あくまで蓋然性の高い説はどちらかと言うレヴェルの話であるが)。

他には、現在では箕輪城の落城は永禄九年説が主流であるが、ドラマはおそらく永禄六年説を採用していると思われる。

後は些細なことであるが、武田晴信が信玄を名乗るタイミングが史実と微妙に違っていたし、本来は上杉の名跡を継承している段階になっても、謙信は「長尾景虎」のままであった。

創作部分で最も大きなものは、小幡政春と言う人物が出てきたが、おそらくこれは史実の小幡信貞と小幡景定(景純とも)を足したような役回りの人物であろう。

政春と言う人物は史実では見当たらないし、たぶん信貞と景定のエピソードを別々に描いている時間がなかったために、こう言う創作をしたのではないかと思われる。

この小幡政春に関連して、高島礼子が演じる長野業政の娘(史実では小幡信貞の正室)の設定は、池波正太郎の『剣の天地』(信綱が主人公の小説)を意識したような所があった。

後は、合戦シーンがどこか安っぽい印象を受けたが、おそらく低予算のドラマであろうから個人的にはあまり気にならなかったし、群馬県内でのロケが主であったために絵面としては却って新鮮であった。

配役について言及すれば、主演の村上弘明はやはりベテランだけに剣豪を演じさせると「説得力」がある。

強いて言えば、序盤はまだ信綱が家督を継ぐ前の若い頃の設定だったので、ちょっと年齢的にきつい印象もあったが(笑)、ドラマの中盤以降は信綱の中年期であり、箕輪落城時では五十六歳の設定なので、それくらいになると俄然はまってくる。

同様に、田中健演じる長野業政、原田龍二演じる武田信玄、勝野洋演じる愛洲移香斎(作中では信綱の剣の師)などは、やはり時代劇ではおなじみの俳優なので安心して見ていられる。

若手俳優で言うと、神後伊豆(名は宗治、後に鈴木意伯と称する信綱の高弟)を演じた菊田大輔は、この作品で初めて見る俳優であったが(舞台を中心に活躍している俳優とのこと)、きりっとした端正な顔立ちで雰囲気が出ていた。

余談であるが、信綱の高弟である疋田景兼と神後宗治はフルネームで登場せず、疋田景兼だったら通称の「文五郎」のみ、宗治だったら「神後」と姓のみでしか作中では語られなかったのであるが、何か意味があるのだろうか。

些細なことであるが、いささか気になった。

他にも気になったと言えば、河越夜戦の際に、上杉憲政の陣中に上杉謙信の旗印である「毘」の旗が立っていたことが気になって仕方がなかった(笑)。

総じて、二時間と言う短い時間の中でうまくまとめた作品だったと思うし、丸目蔵人佐や柳生宗厳(石舟斎)など、箕輪落城後に信綱の高弟となる剣豪達と出会う続編も、可能なら制作して欲しいものである。


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