続・時代劇レヴュー③:宮本武蔵五部作(1961年~1965年)

タイトル:宮本武蔵五部作

上映時期:第一作・1961年5月 第二作・1962年11月 第三作・1963年8月

     第四作・1964年1月 第五作・1965年9月

制作・配給:東映

主演(役名):中村錦之助=萬屋錦之介(宮本武蔵)

原作:吉川英治

脚本:鈴木尚之、内田吐夢


吉川英治の代表作とも言うべき『宮本武蔵』の映像化は枚挙に暇がなく、このレヴューシリーズでも何度か取り上げてきたが、その中でも一、二を争うくらい知名度の高い作品が、東映の宮本武蔵五部作であろう。

一年に一本づつのペースで製作され、中村錦之助(後の萬屋錦之介)が武蔵役、監督は内田吐夢のコンビで、原作を最初から最後まで描ききった名作である。

第一作以外にはすべてサヴタイトルがついており、第二作は「般若坂の決斗」、第三作は「二刀流開眼」、第四作は「一乗寺の決斗」、第五作は「巌流島の決斗」である。

本作は数ある『宮本武蔵』の映像化作品の中でも、原作に忠実なものであり、特に前半部は原作にかなり忠実である。

ただ、第三作あたりから徐々に省略が目立つようになり、一乗寺下り松の決闘以降は駆け足となり、原作の後半のエピソードをほぼ第五作の二時間ほどの中に詰め込んでいる(もっとも、これは他の映像化作品でも多かれ少なかれ見られる傾向であるが)。

そのため、例えば前半には武蔵と密接に絡む存在であった又八や朱実は、終盤までほとんど登場しないなど、割りを食っているキャラクタもいるが、物語としては比較的綺麗にまとまっているため、エピソードの省略自体はさほど違和感はない。

主演の中村錦之助は野性と求道者が共存した武蔵を見事に演じており、流石の存在感であるし、木村功の又八もよくはまっている。

佐々木小次郎を、当時時代劇初出演だった高倉健が演じているが、後年の寡黙で渋い演技の高倉健が念頭にあるせいか、個人的にはどうにもイメージに合わなかった(そもそも、高倉健は確かに「格好良い」かも知れないが、美青年役はヴィジュアル的にどうもしっくりこない)。

他にも、沢庵役の三國連太郎、長岡佐渡役の片岡千恵蔵などの大御所はもとより、江原真二郎(吉岡清十郎役)、平幹二朗(吉岡伝七郎役)、里見浩太郎(後の里見浩太朗、細川忠利役)など、当時の若手で後にテレビ時代劇で活躍する俳優達も多く登場していて贅沢なキャストになっている。

比較的原作に忠実で、それなりに見応えがあるのであるが、随所で内田吐夢の余計な「味つけ」が鼻について、吉川『武蔵』の映像化として見た場合、個人的にはどうも今ひとつである。

特に、第五作のラストシーンで、武蔵が小次郎を倒した後で、「所詮刀は武器か」とつぶやいて木刀を海中に捨てる描写は本作のオリジナルであるが、この勝利しながら戦いに虚しさを感じると言う武蔵像は、何となく安っぽくて好きではない(後、クライマックスである巌流島の決闘のシーンがあっさりしているのも、個人的には不満である)。


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