見出し画像

新科目「歴史総合」をよむ 3-2-7. グローバル化と地域統合


■グローバル化と情報通信技術

サブ・クエスチョン
情報通信技術は、グローバル化にどのような影響を与えているのだろうか?

 世界恐慌期から戦後の高度成長期にかけて、先進諸国の多くは政府が主導する形で産業活動を統制し、経済発展と国力増強によって高福祉を実現しようとした。

 しかし1970年代頃から、そのような福祉国家政策には翳りが見られるようになった。

 福祉国家政策に変わって台頭したのは、規制緩和、公営企業の民営化、税制改革など、市場主義に基づく自由競争によって社会を活性化しようとする政策である。
 1970年代以降には欧米諸国のみならず、中国やベトナムといった社会主義諸国も、徐々に国境を越える市場経済を部分的に導入する動きも広まった。

 このように、市場経済が世界規模に拡大し、人、モノ、資本、技術、情報が国境をこえて自由に移動し、多国籍企業のシェアが高まった。
 この世界経済の一体化をグローバル化(グローバリゼーション)という。

 この政策には、技術革新を促進し、企業間競争が促進され商品の価格をおし下げる効果があった。
 その反面、競争に勝ち残った大企業による独占や、賃金の低下にともなう経済格差の拡大が世界規模で広まる結果ももたらした。
 また、モノのみならず情報・サービス、労働力も含めた国際的ルールをつくる必要性も生まれたため、冷戦後の1995年には関税と貿易に関する一般協定を引き継ぎ、世界貿易機関(WTO)が設立された。
 また、国境を越える資金の投機的な流れが活発化した結果、1990年代にはアジア通貨危機(1997年)のように、世界各地で通貨危機も起きている。
 2008年には、アメリカの大手証券会社リーマン・ブラザーズの倒産をきっかけにおきたリーマン・ショックは、短期間のうちに世界経済に甚大な影響をもたらした。


資料 世界のGDP(国内総生産)成長率



 その背景には交通革命と、情報技術革命がある。
 交通革命は、産業革命期の19世紀以降に始まり、20世紀後半にはジェット機の発明と、航空機の大衆化にともない、商用または観光目的の海外渡航が激増していった。
 情報技術革命については、20世紀後半にアメリカ合衆国が主導した。とくにコンピュータなどの情報機器を相互に接続するネットワークとするインターネットは、アメリカ合衆国の軍事研究から誕生し、大学間の学術研究ネットワークで使用されて発展した。1990年代以降に一般利用者向けに開放され、1991年に開発されたワールド・ワイド・ウェブによって、文字や写真などのマルチメディアなWebページの閲覧が可能になった。


 アメリカ合衆国ではクリントン政権のときにインターネット産業が推進され、大容量の情報の高速通信技術も普及した。この流れは携帯情報端末にも波及し、携帯電話から2000年代後半にスマートフォンが発達し、インターネットの常時接続が可能となった。
 スマートフォンは、固定電話回線と異なり、初期投資が少なく済むため、途上国にも爆発的に普及していった。
 IoTやフィンテック、ブロックチェーン技術などは、中国やインドにおける新興国における研究開発が、20世紀後半の旧来の先進諸国に追随しており、アメリカ合衆国は警戒を強めている。

(出典:https://www8.cao.go.jp/cstp/tyousakai/kihon6/6kai/sanko3-6.pdfより重引)



 なお、2010年代に世界的に普及したアメリカのFacebookのようなソーシャルネットワーキングサービス(SNS)は、「アラブの春」のような政治運動にも活用されるようになり、ミニブログや動画メディアを通したフェイクニュースの拡散などが問題視されている。また、アメリカのGoogleやAmazon、Facebook、Apple、中国のアリババ、テンセント、バイドゥのような巨大プラットフォーム企業が、ユーザーの個人情報を独占的に収集していることに対しては、懸念の声も挙がっている。


 また、政策的には、アメリカ合衆国が経済に対する自由化を各国に求めたことも関係している。


■地域統合の進展

サブ・クエスチョン
地域統合は、どのように進展しているのだろうか?


 北アメリカでは1994年にNAFTA、2020年に米国・メキシコ・カナダ協定(USMA)が発効した。

 ヨーロッパ共同体は、1993年にEUに発展し、1999年には域内共通通貨のユーロが導入され、2002年から流通した。

 また、東南アジア諸国連合(ASEAN)は、日韓と結びつき、1989年には太平洋をこえアジア太平洋経済協力会議(APEC)が発足した。太平洋をこえる経済の自由化は、「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定」(CPTPP)(2016年に調印されたTPPはアメリカの離脱により発効しなかった)が、2018年に日本など11か国で調印され、同年に発効した。

 さらに中国の日・韓・ASEAN諸国との結びつきも密接となっているが、中国は2010年代以降、「21世紀のシルクロード」を掲げ一帯一路政策をすすめ、ユーラシア大陸からアフリカ大陸を見据えた経済圏の構築を進めている。


資料 サプライチェーンの特性から見た新型コロナウイルス感染拡大前の状況と新型コロナウイルス感染拡大が与えた影響

(出典:『 通商白書2020』、https://www.meti.go.jp/report/tsuhaku2020/2020honbun/i2110000.html)

 地域統合のみならず、2国間の経済連携協定(EPA)締結の動きも活発化している。


資料 日本のEPA・FTA等の現状 (2021年1月現在)


  • 発効済・署名済▶21
    シンガポール、メキシコ、マレーシア、チリ、タイ、インドネシア、ブルネイ、ASEAN全体、フィリピン、スイス、ベトナム、インド、ペルー、オーストラリア、モンゴル、TPP12(署名済)、TPP11、日EU・EPA、米国、英国、RCEP(署名済)

  • 交渉中▶3
    トルコ、コロンビア、日中韓

  • ◯その他(交渉中断中)
    GCC、韓国、カナダ



■地域統合の課題

サブ・クエスチョン
地域統合の進展により、どのような問題が生じるようになっているだろうか?

 地域統合が進展する一方で、統合された地域内には不均衡が発生したり、世界各地で移民に対する排外主義が台頭したり、地域統合そのものを否定する動きも生じるようになっている。

 たとえば、2006〜2010年におけるタイの政治的混乱の背景には、貧富の格差がある。

(出典:村山宏編集委員「アジアTrend タイの政治混乱、中国の未来映す 富の偏在根深く」『日本経済新聞』ウェブ版、2013年12月31日 7:00,
https://www.nikkei.com/article/DGXNASGM2703F_X21C13A2I00000/)


 ヨーロッパでは、2008年の世界的な金融危機や、ギリシアの財政危機をきっかけに、ユーロに対する信用が低下。
 「アラブの春」後、シリアなどの中東地域からの難民の流入を受けて、移民排斥の動きも強まった。
 そんな中、イギリスでは2016年にEU離脱を問う国民投票で離脱賛成派が勝利。2020年にEUから離脱するに至った。


資料 クーデンホーヴェ=カレルギのヨーロッパ統合論『パン・オイローパ』
「時は切迫している。明日になると、おそらくヨーロッパ問題の解決には手遅れになる。したがって、今日それに着手するほうがよい。
   自信をほぼ失ってしまったヨーロッパは、外からの支援を期待している。一つはロシアからの、今一つはアメリカからの支援である。
    しかしその期待はいずれもヨーロッパにとっては致命的となる危険をはらんでいる。西の国にも東の国にもヨーロッパを救おうとする意志はない。ロシアヨーロッパの征服を欲し、アメリカはヨーロッパを買い取ろうとしているのだ。   ただ、ロシアの軍事的独裁というスキュラとアメリカの金融的独裁というカリュブディスの間には、よりよい未来につながる一つの狭い道が存在している。」

 

資料 マーストリヒトに対するフランスの一議員の否定的見解
 「議員諸君、騙されてはならない! マーストリヒトで発動された歯車装置が経済的・政治的に行き着く先は、連邦制度の安売りであります。それは根本的に反民主主義的であり、偽りの自由主義であり、テクノクラートによる有無を言わせぬ支配を許すことです。ここで提示されているヨーロッパには、自由も正義もいかなる有効性もありません。国家主権の概念を闇に葬り、フランス革命で勝ち得た偉大な諸原則さえ捨て去るつもりなのです。ついこの間フランス革命200周年を祝い、その成果をほめそやしていたと思ったら、今度はその裏切り行為によって共和国の200年を御破産にするつもりでいる。マーストリヒトとは、そのような偽善者どもが、フランス国民に贈る素敵な誕生日プレゼントなのです!」(フィリップ・セガン『フランスを擁護する言葉』グラッセ社、1992年)(フレデリック・ドルーシュ『ヨーロッパの歴史ー欧州共通教科書』東京書籍、401頁)

 

資料 英国・BREXIT をもたらした国民投票における投票行動 

(出典:富崎隆「英国・BREXITをもたらした国民投票における投票行動―離脱投票者・3つの底流」『選挙研究』34巻1号、2018年、https://www.jstage.jst.go.jp/article/jaes/34/1/34_5/_pdf/-char/en)




このたびはお読みくださり、どうもありがとうございます😊