SDGsとCSRの違いってなに?
いまや世界的ホットトピックともいえる「SDGs」。日本でも急速に浸透しつつあり、最新の調査では3割近くの日本人が認知していたという。20歳前後の若者に至っては、6割近くが認知していた。しかし、ここで「CSRとの違いは何か」と聞かれた場合、言葉に詰まる人も多いのではないだろうか。いずれにおいても「社会にとっていいことをしている」という漠然とした認識だと、違いが見えてこない。
外務省勤務時代に、100カ国以上もの国を訪れ、仕事をしてきた経験を持つ、ORIGINAL Inc.のシニアコンサルタント 高橋政司が、今話題のインバウンド用語をピックアップし、世界目線で詳しく、やさしく解説する本連載。
第17回では『SDGsとCSRの違い(The difference between SDGs and CSR)』について取りあげる。世界目線チームの若手筆頭、ヒナタが素朴な疑問をぶつけてみた。
ーーSDGsとCSRの違いを理解するためには、あらためてそれぞれの定義を知る必要があると感じました
「そうですね。まず、SDGsの成り立ちから振り返ってみましょう。SDGsにはその前身となるMDGs(Millennium Development Goals)という2001年に採択された目標があったのですが、その結果は芳しくないものでした。ここにSDGsを成功させるためのカギがあると私は考えています。
MDGsは先進国がドナー(提供者)として途上国を支援するという構造で、ODA(注1)に近いものでした。SDGsは、地球上の『誰一人取り残さない(leave no one behind)』という誓いを立てています。つまり、ドナーであるないに関わらず、地球上の全ての人間が取り組むべき課題なのです」
(注1)
開発途上地域の開発を主たる目的とする政府及び政府関係機関による国際協力活動
「開発協力,ODAって何だろう」外務省
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/about/oda/oda.html
ーーSDGsはここ最近、日本でも大きく取り沙汰されるようになった気がします。これはなぜでしょうか
「SDGsは17のゴール・169のターゲットから構成されています。これだけあれば、どんな人でも自分に当てはめて考えることができますし、そういう作りになっているんです。
経済波及効果も大きいでしょうね。2017年のダボス会議(注2)では、『SDGsの達成によって、12兆ドルの経済価値、最大3億8000万人の雇用が創出される可能性がある』というレポートが発表されました。そこで企業もSDGsを成長の機会と捉えるようになりました。
例えば、軽井沢の星野や(星野リゾート)は、施設の70%の電力を化石燃料に頼らず供給しています。食事に関しても、フードマイレージ(食べ物の輸送によって生じたCO2排出量を測る指標)やフードロスの軽減に積極的に取り組んでいます。商品自体がSDGsの考え方に即していますよね。つまり、企業が収益を生み出すメカニズムの中に取り入れることができるものなんです」
(注2)
ダボス会議とは、スイス・ジュネーブに本拠を置く非営利財団、世界経済フォーラムが毎年1月に、スイス東部の保養地ダボスで開催する年次総会
「初めてでもわかりやすい用語集」SMBC日興証券
https://www.smbcnikko.co.jp/terms/japan/ta/J0655.html
ーーCSRは違うのでしょうか
「はい、CSRとは『Corporate Social Responsibility(企業の社会的責任)』を意味します。日本においては『企業が従業員や株主、顧客からの信用を得るためにやっている社会貢献』という解釈が主流となっています。
しかし、グローバルな視点ではより慈善事業に近いんです。『慈善』と『社会貢献』ではニュアンスが異なります。『慈善』で辞書を引くと、
①あわれみ、たすけること
②貧しい人や不幸な人をいたわり救済すること
という定義がなされています。つまり、誰かに指図されてやるのではなく、自発的に行うべきものなんです。『信頼を得る』という名目で経営者から指示され、従業員たちがしぶしぶとやっているようでは本来のCSRではありません。各人が会社の利益とは関係なく、社会を良くするために行うボランティア活動なんです。そこに企業理念が入ってきてはいけないんです」
ーー今後はCSRが減り、SDGsを謳う企業が増えていくのでしょうか
「むしろ、海外での流れとしては『社会的責任』から『Corporate Social Justice(企業の社会的正義)』へと進化しつつあります。アメリカではジョージ・フロイドさんの死亡事件によって再燃したBlack Lives Matter(BLM)の拡大を受け、CSRの一環として人種差別への反対を訴えてきた企業に対してこれまで以上に本気度が問われています。
アメリカではLGBTQへの理解と支持を表明していたはずの企業が、裏でアンチゲイの政治家に献金をしていたことが明かになり、大きな失望を買いました。Harvard Business Reviewの記事によると、消費者やその他のステークホルダーは企業に対し、ソーシャルグッド(注3)をマーケティングの戦略ではなく、必然性として捉えることを求めています。
(注3)
地球環境や地域コミュニティなどの「社会」に対して良いインパクトを与える活動や製品、サービスの総称
「ソーシャルグッド(Social Good)とは・意味」IDEAS FOR GOOD
https://ideasforgood.jp/glossary/social-good/
例えば、エクササイズバイクメーカーのPelotonはNAACP(全米黒人地位向上協会)に50万ドル(約5,200万円)を寄付しました。さらに、顧客に対しても人種差別に対して声を上げ、行動に移すよう呼びかけています。これからは社会的課題について、このような思い切った行動と意思表明ができる企業が『従業員や株主、顧客からの信用を得る』のではないでしょうか」
ーー日本の企業がSDGsを今後さらに推進していくためには何が必要なのでしょうか
「会社の利益の有無に関わらず、社員が自主的にSDGsに取り組める企業は素晴らしいと思います。それを後押しするような環境、インセンティブを社員に与えることが重要であると思います」
高橋政司
ORIGINAL Inc. 執行役員 シニアコンサルタント1989年 外務省入省。日本大使館、総領事館において、主に日本を海外に紹介する文化・広報、日系企業支援などを担当。2009年以降、UNESCO業務を担当。「世界文化遺産」「世界自然遺産」「世界無形文化遺産」など様々な遺産の登録に携わる。2018年10月より現職。2019年、観光庁最先端観光コンテンツ インキュベーター事業専属有識者。2020年、宗像環境国際会議 実行委員会アドバイザー、伊勢TOKOWAKA協議会委員。
参照元:
「【SDGs認知度調査 第6回報告】SDGs「聞いたことある」32.9% 過去最高」2030SDGSで変える Powered by 朝日新聞
https://miraimedia.asahi.com/sdgs_survey06/
「社会課題・SDGsに関する調査」SHIBUYA109 LAB.
https://shibuya109lab.jp/article/200818.html#nav
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