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防疫対策としても注目、キャッシャーレスってなに?


日本でもコロナ禍で非接触対応の意識が高まり「キャッシュレス」が定着してきた。世界では、Amazon Goなどがレジ自体を必要としない「キャッシャーレス」を牽引している。

外務省勤務時代に、100カ国以上もの国を訪れ、仕事をしてきた経験を持つ、ORIGINAL Inc.のシニアコンサルタント 高橋政司が、今話題のインバウンド用語をピックアップし、世界目線で詳しく、やさしく解説する本連載。

第8回では、アメリカを中心に新たなトレンドとして浮上しつつある『キャッシャーレス(Cashierless)』について取りあげる。世界目線チームの若手筆頭、ヒナタが素朴な疑問をぶつけてみた。


ーー世界では「キャッシャーレス」に注目が集まっているようです

「キャッシャーレスとは、Cashier(レジ)がなくても決済が可能なしくみのことです。Amazon Goがいい例ですね。『無人コンビニ』も同様です。

仕組みとしては、まずアプリをダウンロードして、クレジットカードなどの決済情報を登録します。入店の際には、専用のアプリに表示されたQRコードを利用してゲートを通過。

店内で自分の好きな商品を手に取り、そのままゲートをを出れば、買い物終了です。購入したものは全て自動的に検知され、後日請求がきます。」


ーー日本でもコロナ禍でキャッシュレス決済が定着してきました。

「そうですね。コロナ禍では非接触対応が重要になり、キャッシュレス決済が広がりました。しかし、キャッシュレスには他にも利点があります。お金の流れを可視化できるということです。

キャッシュレスであれば、誰がいくら稼いで、どこでいくら使っているのか、全て記録に残りますよね。現金にはそういった紐付きがないので、その動きが見えません。

お金の流れの可視化は、日本のような超高齢化社会において、お年寄りがお金を管理する上での安全性確保という意味でも有効です。65歳以上の高齢者の5分の1が認知症を発症すると言われている時代では、現金をどこかで無くしたりする危険性も高まります。

こういった高齢者を狙った『オレオレ詐欺』などの特殊詐欺は依然として数多く発生しています。キャッシュレスでお金の動きが可視化されれば、そういった問題を解決する糸口にもなります。

また、東京五輪を見据えたインバウンド対策にもなりますね。欧米ではデビットカードが広く普及していますが、経済産業省の『世界各国のキャッシュレス比率比較(2016年)』によると、キャッシュレス比率は、順に韓国が96.4%、イギリスが68.6%、中国が65.8%と続きます。日本はこの時点で19.9%でした。

今年に入り、約27%にまで増えたようです(ニッセイ基礎研究所資料)が、それでも世界のキャッシュレス先進国には遠く及びません。キャッシュレスはもはや世界の当たり前なので、日本はそういった国々から訪れる観光客の金銭を扱う感覚に早急に対応する必要があるのです。」

ーーなぜ日本では普及に時間がかかっているのでしょうか

「まず、日本におけるATMの多さが関係しているかも知れません。在日フランス商工会議所によると日本のATM数は約20万台で世界第4位です。人口の国別ランキングが世界11位(2019年)であることを踏まえても、一人当たりのATMの台数は多い方でしょう。

現金への信用の高さもあります。日本は、世界的にみても、通貨の偽造・変造が非常に少ないのです。日本の造幣技術は非常に緻密で、偽造・変造が困難なことと、刑法上、非常に厳しい措置がとられている(無期又は3年以上の懲役)ことも関係しています。

また、日本は世界的にみても犯罪率が低く、治安も安定しているため、現金を所持していても盗難などの心配が少ないということも挙げられます。冠婚葬祭の場におけるマナーとしての現金という、文化的背景も大きいのではないでしょうか。」

ーードイツのキャッシュレス比率は日本より低いみたいですね

「欧米全体の普及率を踏まえると、一見ショッキングかもしれませんね。ベルリンの壁が崩壊したのが1989年なわけですが、30年近く経った今でもドイツにはその傷跡が見て取れます。

第二次世界大戦時のナチスドイツ、そして戦後の東ドイツ政府によって行われた中央集権的な監視社会の影響で、ドイツ国民は個人の情報や財産を守る習慣が根付いているのです。

私がヨーロッパで生活していた際に体験したことを紹介します。当時、銀行の預金を含めた私の資産はマルクというドイツ固有の通貨で管理されていたわけですが、ある日を境にユーロという新しい通貨で、2分の1の額で表示されることとなりました。この時、私は『資産が半分になってしまったな』と感じました。

その後、便乗値上げが起こりました。例えば、それまで10マルクで食べられていたレストランなどのランチが、ユーロという新しい通貨では、5ユーロで食べられるはずなのに、7〜8ユーロで提供され始めました。しかも特にこれといった付加価値もないんです。

私を含め多くのサラリーマンは、給与明細の表示がこれまでの半分になった以上、ランチの価格も半分にならないと、納得がいかないし、生活や家計にダイレクトに影響がでたはずです。こういった経験も現金志向の一因ではないかと私は考えています。

このように、キャッシュレスの普及には行動経済学も大いに関係してくるのではないかと思います。」

ーーキャッシャーレスの普及状況はどうでしょうか

「キャッシャーレスの先駆けともいえるAmazon Goの1号店がアメリカのシアトルにオープンしたのが2018年の1月なので、まだ歴史も浅く、世界的に普及しているという状態ではないのですが、今後、発祥国であるアメリカを中心に増えていくことが考えられます。

Amazon Goは去年の年末の時点で既に全米に20店舗近くあり、当初は2021年を目処に3,000店舗にまで拡大させる予定だったようで、その力の入れようが伝わってきますよね。Amazon Goのスーパーマーケット版ともいえるAmazon Go Groceryも今年の2月にオープンしました。

日本では、JR東日本が高輪ゲートウェイ駅に無人AI決済店舗『TOUCH TO GO』をオープンして話題となってますね。無人化に取り組んだ店舗で、ウォークスルーの買い物体験ができます。」


ーー日本にとって、「キャッシャーレス」は必要なことでしょうか

ポストコロナ時代の防疫対策という観点においては、『キャッシュレス』というだけではまだ不十分です。自分で端末を操作するところも増えてはいますが、クレジットカードやデビットカードなどはまだまだ接触を伴う場合が多いですよね。いまだにレジにはスタッフの方がいます。

ポストコロナにおいて目指すべきは接触ゼロの、『キャッシャーレス』ではないでしょうか。

Amazon Goのキャッチフレーズに『Just Walk Out』 という言葉がありますが、キャッシャーレス時代のショッピングスタイルを非常に端的に伝えていますね。

顧客にとっては利便性の面で、事業者にとっては費用面でメリットがあります。また、お金の安全かつ正確な管理やセキュリティ、感染防止という意味では双方にとって非常に有意義な仕組みです。今後は日本でも加速度的に広がっていくのではないでしょうか。」


高橋政司
ORIGINAL Inc. 執行役員 シニアコンサルタント1989年 外務省入省。外交官として、パプアニューギニア、ドイツ連邦共和国などの日本大使館、総領事館において、主に日本を海外に紹介する文化・広報、日系企業支援などを担当。2005年、アジア大洋州局にて経済連携や安全保障関連の二国間業務に従事。2009年、領事局にて定住外国人との協働政策や訪日観光客を含むインバウンド政策を担当し、訪日ビザの要件緩和、医療ツーリズムなど外国人観光客誘致に関する制度設計に携わる。2012年、自治体国際課協会(CLAIR)に出向し、多文化共生部長、JET事業部長を歴任。2014年以降、外務省国際文化協力室長としてUNESCO業務全般を担当。「世界文化遺産」「世界自然遺産」「世界無形文化遺産」など様々な遺産の登録に携わる。2018年10月より現職。2019年、観光庁最先端観光コンテンツ インキュベーター事業専属有識者。


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