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世界目線は「自国への誇り」から始まる (5/5)

世界遺産(文化遺産)に登録されるためには「顕著な普遍的価値を有すること」(Outstanding Universal Value=OUV)を証明する必要がある。私がここまで述べてきたことは、いわばグローバルな価値基準であるOUVを効果的に伝える方法であるといえる。

 OUVを伝える上で重要なポイントを整理すると、次のようになるだろう。まず「日本の文化やサービスは世界の人々にとっても素晴らしいものだ」という思い込みを捨てることだ。逆説的だが、盲目的にアピールしたいと思うものであればあるほど、一度疑って見ることで「足りない何か」が見えることがある。もちろん、自国の文化やサービスに誇りを持つこと自体を否定しているわけではない。そのような自負は、むしろ世界目線のOUV戦略の第一歩と言える。ただし、それだけでは単なる「身内自慢」に陥りがちだ。自国への誇りを基盤に、「足りない何か」を補うアピールポイントを何層にも重ねていく戦略が重要なのだ。

 もう一つは、誰に価値を認めてもらうのかを明確にした上で、相手を徹底的にリサーチして理解することだ。その範囲は相手の文化、言葉、歴史、宗教、地理的な影響など多岐にわたる。例えばヨーロッパでは、絶え間なく国境が変化してきた歴史があるため、島国である日本のように古代から国境がほとんど変わらない国とは「自国固有の文化」に対する感覚は異なっている。キリスト教やイスラム教、仏教など宗教に対する価値観も、私たち日本人とは大きく違っている場合が多い。この点を理解することは、先に述べた「置き換え」の際に非常に重要になってくる。

 また、リサーチする上で忘れてはならないことがある。文献や書物を調べるだけでなく、必ず「一次情報」に当たることだ。つまり、その国の人々の声を直接、聞くのである。それらの声をできるだけ多く集め、多面的に分析していくことで浮かび上がる視点、それこそが「世界目線」なのだと私は思う。

日本には、まだまだ世界に発見されていない素晴らしいものごとにあふれている。世界目線で見たとき、それらはどんな輝きを帯びて世界の人々を魅了するのだろうか。そのような「地域の宝」が「世界の宝」になれるかどうかは、私たちの手に委ねられている。

高橋政司
ORIGINAL Inc. 執行役員 シニアコンサルタント
1989年 外務省入省。パプアニューギニア、ドイツ連邦共和国などの日本大使館、総領事館において、主に日本を海外に紹介する文化・広報、日系企業支援などを担当。2009年以降、定住外国人との協働政策や訪日観光客を含むインバウンド政策を担当し、訪日ビザの要件緩和、医療ツーリズムなど外国人観光客誘致に関する制度設計に携わる。2014年以降、UNESCO業務を担当。「世界文化遺産」「世界自然遺産」「世界無形文化遺産」など様々な遺産の登録に携わる。
テキスト:庄司里紗

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