見出し画像

世界で導入のすすむ、接触確認アプリ


日本でも新型コロナウイルス感染者と接触した可能性がある場合に、通知を受けられるアプリ「新型コロナウイルス接触確認アプリ(COCOA)」が、2020年6月19日(金)から利用可能となった。「接触確認アプリ」はこれまで、オーストラリアやアイスランド、シンガポール、タイなど世界各国で導入され、注目を集めている。

外務省勤務時代に、100カ国以上もの国を訪れ、仕事をしてきた経験を持つ、ORIGINAL Inc.のシニアコンサルタント 高橋政司が、今話題のインバウンド用語をピックアップし、世界目線で詳しく、やさしく解説する本連載。

第4回のキーワードは『接触確認アプリ(contact tracing app
』を取り上げる。世界目線チームの若手筆頭、ヒナタが素朴な疑問をぶつけてみた。

ーー日本でも接触確認アプリがリリースされ話題となっています。陽性者と接触したかどうかを知ることができるということですが、実際はどのようなアプリなのでしょうか。

「接触確認アプリは、新型コロナウィルスの感染拡大を防ぐためのツールとして、世界各国で導入されています。仕組みは概ね共通していますが、日本のアプリでは、スマートフォンにこのアプリをダウンロードしている人同士が、おおよそ1メートル以内に15分以上いた場合、Bluetooth経由で検知が行われ、『接触』として記録されます。

検査で陽性反応が出た人と接触した場合には、そのことが通知されると共に、検査の受診などについて、適切な対応方法が提示されます。厚生労働省によると、このアプリでは個人情報は一切登録する必要がなく、GPSも使用しないため位置情報を特定されることもありません

また、陽性反応が出た場合も、アプリ内で申告すべきかどうかは完全に任意となっています。利用はいつでも中止可能で、記録データを消すこともできるようです。」

ーー任意のダウンロードでは、普及しないのではないかなど、すでにその有効性を疑問視する声もあるようですが。

「そうですね。日本は制度上、個人の自由を尊重せざるを得ないので、ある程度は致し方ないのかとは思います。海外だと、国によってはダウンロードが義務だったりしますからね。突き詰めると、『個人の自由を尊重するのか、国としての統率力をとるのか』という究極の命題にぶち当たります。」

ーー世界各国の活用状況はどうでしょう?

「どの国も他国の様子をみながら、慎重に検討から導入へと至っているように思います。ドイツやイタリア、スイスなどEU諸国は日本と同様に、アップルとグーグルが共同で開発したシステムのAPIを活用しており、個人情報保護への配慮がなされた仕組みとなっています。

逆にフランスはこのAPIの採用を拒み、当局がデータを管理する中央集権的な方針をとっており、EU内で足並みを揃えようとしない姿勢が懸念されているようです。 当初はイギリスもフランスに倣うつもりだったのが、撤回し、ドイツ等と同じシステムを採用する方向に舵を切りました。

ダウンロード率はどこもあまり芳しくはないようです。オックスフォード大学の発表によると、接触確認アプリが効果を発揮するためには全人口の約60%が利用していないといけないようですが、先月末の時点で、シンガポールが27%、オーストラリアが23.5%です。

アイスランドでは、全国民のうち38%がダウンロードしているようですが、これでも世界一のダウンロード率です。COCOAは6月20日の時点でダウンロード数が179万件だったようですが、今後どこまで伸びていくのかが重要です。

各国の使用目的もそもそも異なっていますね。5月8日に配布された、新型コロナウイルス感染症対策テックチーム事務局による資料を見ると、以下のようなセグメントに分かれます。日本は3に該当します。」

1. 接触度に応じた施設や地域への立ち入り制限・感染者隔離のためのツール (感染者等、個人動向が把握できる形での個人情報の取得)
●中国(立入制限) 
●韓国、台湾(感染者隔離)

2. 公衆衛生当局による濃厚接触者の把握のための補完ツール 
(プライバシーに配慮しつつも必要な個人情報は取得)
●インド、アイスランド、ガーナ 等 (位置情報型) 
●シンガポール、オーストラリア、英国、フランス(Bluetooth型)

3. 通知を受けた接触者の行動変容による感染拡大防止の、個人向けのツール (プライバシーに配慮し、当局は濃厚接触者を特定しない)
●ドイツ、スイス、エストニア(完全匿名型)
●イスラエル(位置情報のみ把握)

参照元: 
https://cio.go.jp/sites/default/files/uploads/documents/techteam_20200509_05.pdf


ーー政府がある程度、個人のプライバシーに踏み込む形でアプリを導入している国はありますか。

「カタールやインドなどが挙げられます。特にカタールはアプリのダウンロードが義務となっていて、ダウンロードせずに外出した場合、日本円にして約600万円の罰金、もしくは禁固三年の刑に処される場合もあります。

かなり厳しいですよね。人権団体の『アムネスティインターナショナル』は、このアプリについて個人情報が抜き取られる可能性がある、との懸念を表明しているようです。 対して、日本のスタンスとしては、ドイツやスイスのそれに近く、プライバシーの侵害には慎重です。」

ーーなぜ日本は慎重なのでしょうか。

「日本は、こういったことをリーガリー・バインディング(法的拘束力のある)にしたくない国なんですね。個人の自由を侵害するような、全体主義的な制度は世界大戦時の軍国主義に繋がりかねない、という意識があるからです。ドイツ政府が導入した接触確認アプリも同じような傾向が見られます。世界各国の政府によって実施されたロックダウンも、日本はやらずに(できずに)今日に至るわけですが、それも同様の背景があるからでしょう。」

ーー今後、どうすればより意義のあるアプリになるのでしょうか。

クラスターが発生した場所は風評被害を被ります。例えば、ここ連日新宿で多くの感染者が出ていますが、だからといって新宿にいく事自体を忌避するのはトゥーマッチですよね。このような風評被害エリアで、積極的にアプリのダウンロードを推奨すれば、イメージアップに繋がるのではないでしょうか。

具体的にいうと、病院や劇場、大学、映画館など、三密が想定される場所で、来訪者に対して、アプリのダウンロードを要請していくような取り組みですね。もっと拡大して考えると、特定の地域をあげて、アプリの実証実験をすると捉えてもいいのかもしれません。

例えば、タイでは先月からThai Chanaという接触確認ウェブサイトが導入されました。商業施設などの事業主はここでキャパの最大値や所有するエリアについての情報を申請する必要があります。

また、訪問者も施設へのチェックイン時、チェックアウト時にそれぞれQRコードを読み取り、電話番号も提供しなければならないんですね。接触確認の仕組みを生活の中でどう使ってもらうかの一つの有効な例だと思います。

モデル地域を設定して、住民や来訪者が生活の中で自然とこのアプリを使う仕掛けを施すことができれば、ダウンロード率も上がり、アプリの有効性に関するデータも取れます。問題点も可視化されやすくなりますね。

まずは小さなバブルの中でアプリのダウンロードを促進し、そのバブルをだんだんと大きくしていく、というのも一つのアプローチではないでしょうか。」


高橋政司
ORIGINAL Inc. 執行役員 シニアコンサルタント1989年 外務省入省。外交官として、パプアニューギニア、ドイツ連邦共和国などの日本大使館、総領事館において、主に日本を海外に紹介する文化・広報、日系企業支援などを担当。2005年、アジア大洋州局にて経済連携や安全保障関連の二国間業務に従事。2009年、領事局にて定住外国人との協働政策や訪日観光客を含むインバウンド政策を担当し、訪日ビザの要件緩和、医療ツーリズムなど外国人観光客誘致に関する制度設計に携わる。2012年、自治体国際課協会(CLAIR)に出向し、多文化共生部長、JET事業部長を歴任。2014年以降、外務省国際文化協力室長としてUNESCO業務全般を担当。「世界文化遺産」「世界自然遺産」「世界無形文化遺産」など様々な遺産の登録に携わる。2018年10月より現職。2019年、観光庁最先端観光コンテンツ インキュベーター事業専属有識者。


サポートしたいなと思っていただいた皆様、ありがとうございます。 スキを頂けたり、SNSでシェアして頂けたらとても嬉しいです。 是非、リアクションお願いします!