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JET

机を合わせ飯食う。昼休み。
俺はいちご牛乳を吸い、ストローを下唇につけた。ゆっくりとストローの中の圧を抜く。
「パックジュースって屁ぇこくじゃん。これ、どーにかなんねーか」
「え? どゆこと?」
「あーあー、吸ったあとバフって音がでるやつだろ」
「そーそー」
「人間の行為は全て下品だ」
「名言かよ」
Eは「オレはメロンパンのカスボロボロ事変をどうにかしてほしいわ」と制服に落ちたパン屑をつぶつぶつまむ。
「それ、だからこうやって両手でプレスして潰して食うんだよ」Jが箸を持ったまま両手を重ねる。
「人間の行為は全て下品だ」俺は反撃する。
Eが笑いながら袋からメロンパンを取り出して潰すと、中からクリームが噴き出し床に飛んだ。その先にいたクラスメイトの女子が反応してEを睨む。Eは慌てて「ごめん、あの、ティッシュ、ある?」と頭を下げる。
男子高校生がティッシュ持ってるわけねーわな、と思いながら、ふと、
「男子高校生ってDKだっけ?」
「そうじゃん。でも需要ねーからわざわざ言わねー」
教室の床にクリームが伸びるのを見ながら、「需要ねーか」俺は卵焼きを食う。
Jがググッったらしく、「ダイニングキッチン。ドンキーコング」とスマホをこちらに見せる。
「おい、お前のせいで女子に睨まれたじゃねーかよ」
「お、うらやましい」
「どういたしまして」
「あ・り・が・と・じゃねーよ」Eはメロンパンに齧りつき、またパン屑が散る。
「ってか、俺またいちご牛乳飲むからよ、バフっに合わせてなんか音出して誤魔化してくれよ」
タバコをいい感じに咥えるように、ストローを口に。
吸う。そして目で合図する。
Baaang!!
銃声が鳴る。俺のストローから漏れる音は上書きされ消される。
「おい、ピストル打つなよ。そこ、直美に当たってるじゃねーか」
直美が腹部を押さえている。手が真っ赤に染まり、血が垂れる。床に赤、赤、赤。
「でも、ちゃんと音誤魔化したっしょ」
Jは得意気に指先で銃を回してる。銃口は煙を吐きながら円を描く。
Eはその様子を見て、「オレもやりてー」と声を上げた。
俺はまたストローを咥える。
Eに目配せする。
Hewwwww…Dawn!!
頭上で花火が炸裂する。遅れて衝撃音が胸を叩いた。光が天井を覆う。
「おいっ、なんで俺が花火に合わせてストロー離さねえといけねぇんだよ!ヒューの溜めが長ぇー」
Eは満足顔で笑ってる。
「楽しいな、コレ」
「次行こうぜ、次次」
火花が降ってくる。火の檻に閉じ込められたみたいだ。
向こうで地面にうずくまる直美も火の粉に囲まれてる。
テーブルの上に地雷みたいなメロンパン。弁当。
野営中みてーだ。箸はアイスピックに見える。
俺はいちご牛乳を手に取る。吸う。
Jの手には赤い大きなボタンのついたリモコン。
こいつは水爆をかますつもりだ。
なんだ、その顔。まさしく下品だ。
Eは何やら呪文を唱える。
隕石でも落とそうとしてるのだろうか。
目を閉じて集中してる。そんなんでタイミング合うのか?
「まずは俺からな」Jが言う。
俺はストローから口を離す。
Kaaaaaaaaa BooooooooooN!!!!!
全てが真っ白な閃光に包まれる。
真空になったかのように無音が一瞬。
そして地鳴りが怒涛のように。
足元が揺れる。すべてが消滅してる。
一瞬にして不毛の地。
人間の行為ってのは本当に下品だ。
俺はもう一度イチゴ牛乳を吸い、ストローを口から離す。
trikiti,trikiti,trikiti,trikiti…
タンバリンの鈴の音と共に呪文を唱える旅団が現れた。そして彼らは円になると互いの肩を組み、見上げて叫ぶ。手を取って一緒に、と歌うと空が輝く。
雲の切れ間から光が地上に降り注ぐ。
と、次の瞬間、
巨大なビキニの女が降って来た。
「直美だー」俺は興奮してつい口に出してしまう。
Eがドヤ顔で「直美復活召喚」と目くばせ。
「女神降臨の呪文ね」とJは冷静に言うが、奴は直美のビキニを凝視してる。
「やっぱオンナだな。世界は」
みんなで手を止めて画面の中の直美に浸ってると、誰かが横に立ってた。
「ちょっと、ゲームばっかのガキ3人、もう掃除の時間だよ。早く机動かして!」
突然の呼びかけに俺たちは揃ってビクついた。
現実世界での女子との会話。
学級委員のハイスペック女子に急かされて慌てる。
「は、はい。すみません」
俺たちはスマホを直して弁当箱を片付け、ゴミを集めて、
その途中でJが「やっぱ女子怖ぇー」と、
Eは「ヤバイヤバイ」と、
俺はただ、「急げ急げ」と女子の視線に怯えながら。
慌てて掴んだイチゴ牛乳のパック。
まだ残ってた中身が吹き出して空中に、
教室という四角い空間、
焦る俺ら3人とご立腹の女子、
呆れるクラスメイト、
時計は13時10分で、掃除時間の音楽が。
多分大きく開いている俺の目に映ってるピンクの飛沫。
あー、これがゲームなら時間止めるのに。
どうしよ。
ティッシュ持ってねーんだよなー。

#2000字のドラマ #sekaieiwa   #小説


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