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それは心の不調? それとも身体の不調?

ノースイースタン大学のリサ・フェルドマン・バレット特別教授の著書『情動はこうしてつくられる ~脳の隠れた働きと構成主義的情動理論~』に、私がとても興味をもった話が紹介されていました。その話を要約しつつ引用します。

バレット氏ご自身がひどく疲れている状態で病院へ行ったときに医師から「落ち込んでいますか?」と尋ねられ、「落ち込んではいませんが、つねにひどく疲れています」と答えたところ、医師から「落ち込んでいることに自分では気づいていないのでしょう」と言われたそうです。医師としては「抑うつ」を疑っていたようですが、バレット氏がこの分野のプロフェッショナルであったことより逆に身体と心の関係について科学的に医師へ説明する破目になったそうです。
ただし、バレット氏は「もし医師が抑うつと診断していたら、ただちに抑うつの感情を私に引き起こしただろう」とも記しています。続けて「自分の人生に何か問題を見つけようとすれば、つねに問題は見つかるものだ」とも述べています。

つまり心の不調ではなく身体がひどく疲れている状態でも、医師から「抑うつ」と診断されることで実際に「抑うつ」を発症する可能性があるということになります。

私がなぜこの話に興味をもったかというと、実は過去に私の知り合いの人で同じようなことがあったからです。その人は会社を経営していて、ある時期にいくつかのトラブルを同時に抱えていました。そのような状況のためひどく疲れていたそうで、心配になったその経営者の奥様が心療内科へ行くことを勧めました。そして医師より「抑うつ」と診断されたところ、その経営者は自身が抑うつになったことに大きなショックを受けてさらに症状が悪化したという話です。私はその話を人づてで聞いただけであり、その経営者の様子を実際には見ていないため心療内科へ行く前にどのような様子だったかは知りません。もちろん複数のトラブルを抱えていたことで心労もあったと思いますが、経営者としてそのような状況を乗り越えるために身体の疲れもひどかったと思います。心療内科へ行くべきだったか、もう少し様子を見つつ身体の疲れを取ることに力を入れるべきだったか、その経営者にとってどちらが正解だったかは分かりません。ただバレット氏とその経営者の2つ話より言えることは、抑うつと診断されることで実際に抑うつが発症することがある、あるいは症状が重くなることがあるという事実は知っておくと良いでしょう。ちなみに、この経営者は半年近くを要したそうですが職場復帰されました。

さて、先日新型コロナウイルスによる緊急事態宣言の延長が決まりました。すでに緊急事態宣言が発令されてから1か月間が経ち、さらに3週間程度続きます。また政府より新しい生活様式についても発表がありました。医療崩壊を防ぐためにも私たち一人ひとりの意識と行動が大事になります。一方で、私も含め日本に住んでいる全員がこれまでの生活から大きな変化を余儀なくされています。私はパラレルキャリアの形でIT企業の社員としてエンジニアをしつつ個人事業で講師をしていますが、IT業ではテレワークに切り替えてすでに3か月近くとなり、講師業も今はオンラインになってます。緊急事態宣言後は外出をより一層自粛するようにしてゴールデンウィークも買い物で外出する以外はほとんど自宅にいましたが、想像していた以上のストレスを感じています。多くの皆さんが同じようにストレスを感じていると思います。「コロナうつ」という言葉も見かけるようになりましたが、人によっては抑うつのような症状が見られるようになるかもしれません。

ここで先ほどの話を思い出して頂きたいのですが、「自分は抑うつかも」と感じると本当に抑うつになる可能性があることです。もちろん重い症状を感じる場合は医師の診察を受ける必要がありますが、そうなる前にまずは身体を健康にすることやストレスを解消するためにできることを見つけて、新しい生活様式の中でそれを習慣化していくことが大事になります

バレット氏の著書にも書かれていますが、心と身体の健康のためまず行うべきことは、健康な食事をとり、運動を欠かさず、十分な睡眠をとることです。ありきたりなことと思われるでしょうけど、まずこの3つができていることが大事です。いくら心理学に精通しても、いくら瞑想を毎日実践しても、この3つができていなければ心の健康を害することもあるでしょう。逆に言えば、この3つの中でできていないことがある人はまずここから始めればより心を健康にできる可能性があると言えます。

身体の不調は心に影響を与えますし、身体の不調が心の不調と感じられることもあります。これまで仕事の忙しさを理由にこの3つを疎かにしていた人も多いと思いますが、この緊急事態宣言を利用してこの3つを習慣化することにチャレンジしてみてはいかがでしょうか?

この3つについては各々に専門書がたくさんありますし、特に私は37歳の時に脱サラし、無農薬・無化学肥料で作る野菜農家を目指して1年間みっちり農家修行をした経験があるので健康な食事について書き始めると止まらなくなります。従いまして、ここからは今の状況に合わせてちょっとしたアイデアを書きたいと思います。

普段料理をせず外食に頼っていた人は健康な食事をとるのが難しいかもしれませんが、外出自粛によって空いた時間があれば料理にチャレンジしてみると良いでしょう。新しいことにチャレンジすると脳も活性化されます。どうしても料理を億劫に感じられる人は、緊急事態宣言でテイクアウトにチャレンジしている飲食店もありますので、飲食店の応援と散歩も兼ねてテイクアウトを活用しても良いですね。

運動については自宅で身体を動かしている人も多いと思いますが、晴れている日は感染を防止しつつ外に出ることをお勧めします。やっぱり晴れている日に外へ出ると心がリフレッシュされますよね。

睡眠については時間も大事ですが質も大事になります。よく寝られないという方は、適度な運動をする、睡眠前のお酒を控える、入浴するなど基本的なことができているか振り返ってみると良いと思います。またマインドフルネス瞑想を経験されたことがある方は寝る前に取り入れても良いでしょう。睡眠についてはブームだったのかここ数年多くの書籍が出版されていますので、どれか参考に読んで自分に合ったものを取り入れて習慣化するのも良いと思います。

ここからは食事・運動・睡眠の話から離れますが、簡単に取り入れることができる心のケアを2つ紹介します。
テレワークによって人と会う機会が少なくなったという方は、積極的にオンラインで人と会話することにチャレンジしてみると良いでしょう。仕事の同僚や知人たちが外出自粛をどのように過ごしているか聞いてみると会話のネタにもなりますし、ストレス解消や健康維持のアイデアも得られるので一石二鳥です。もし子供がいらっしゃる方であれば休校によって友達と会えなくなった子供のためにオンラインで友達と会話させてあげると良いと思います。私自身3か月近く在宅勤務をしていて、改めて人と会話することの大切さを実感しています。

それから『あなたの気分が現実を歪んで見せる』の記事にも書きましたが、ネガティブな情報に触れ過ぎないように意識的に回避することがとても大事です。SNSに発信されるネガティブなメッセージがここ数週間でより一層多く、そして強くなったと感じています。またワイドショーも相変わらずネガティブなメッセージを多く発信しています。このようなネガティブな感情に触れることによって私たちの感情は大きく揺さぶられます。特にストレスを強く感じている人は意識的に回避した方が良いでしょう。

心を健康にするためには、身体を健康にすることとストレスを回避することの両方が大事になります。自分に合った方法を見つけて、新しい生活様式の中で習慣化してみてはいかがでしょうか。

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