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【中年の危機を生き延びる】(17)心療内科でもらったアドバイス

「できれば行きたくないなあ……」

これが、精神科や心療内科に対する私の率直な気持ちでした。

けれども追い詰められて行ってみれば、それは溺れている人に投げられた救命浮輪のように、私を危機から救ってくれたのでした。

今回のうつ症状の原因のひとつは離婚でしたが、実は結婚した直後にも、同じ心療内科に通っていたのです。

結婚してはうつになり、離婚してもうつになる……。

「何がしたいねん」と自分でもあきれてしまいますが、その経緯を書くと話がややこしくなるので、ひとまず今回はご容赦を。「何がしたいねん」は、自分の人生にとって、けっこう切実な課題である気がしています。

というわけで、人生で二度目の心療内科通院となりました。

精神科・心療内科には、「5分診療・薬だけ」というところもけっこうあるそうですが、ラッキーなことに、たまたま友人からよいクリニックを教えてもらうことができました。

診察を受けたタイミングは、心の変調をきたしてからおよそ三週間後。

過去の後悔に打ちひしがれ、苦しみの沼に沈んでいる最中、絶望的な気分で診察室のドアを開けたのですが、そこで先生からもらった言葉が、どん底にいた私を支えてくれました。

ここからは、先生からもらったアドバイスの一部をご紹介したいと思います。といっても正確に記憶しているわけではなく、あくまで「私はこう受け取りました」ということですので、その点ご了承くださいませ。

●現状を整理して、過去は捨てる

「後悔しても、その時はその時でベストの選択をしたんですから。反対に行ったらもっと地獄だったかもしれませんよ。過去を振り返って、現状を整理できたら、過去は捨てる。過去には戻れないのだから、ここで何をするか。今できることをしましょう。現実への対応が大事です」

過去の後悔に囚われて、身動きがとれなくなっていた私へのアドバイスでした。そう、心が苦しいときは、だいたい意識が過去に飛んでしまっていて、「今ここ」にいないのです。変えられない過去に執着しても無力感が募るだけ、ということを実感させられました。

●少し先まで粘ること。ずっと先のことは考えない

「ずっと先のことなんてわかりませんから。少し先まで粘る。やれることを地道に粘ってやる。そのうち苦しみがなくなる日が来るかもしれません。楽しみを見つけることです。〝猫のもふもふ画像〟とかいいですよ」

この言葉を聞いてからというもの、苦しい時は「とにかく今日1日を粘って生きよう」と心の中でつぶやくようになりました。「未来に希望は見えなくても、今日1日を生き延びれば、何かが変わるかもしれない」と。ちなみに「猫のもふもふ画像」は見ていません(笑)。

●人生を波乗りする

「人生、どんなに注意していても、失敗したり、遅れてしまったりすることはあります。それを波乗りしながら生きていくんです。ちょっとしたトラブルで大きなダメージを受けるなんて損だから、それに対応できるようにしましょう」

私の悪いクセとして、人生のつまづきを大きく捉えすぎてしまい、結果的に被害を拡大させてしまうところがあるようです。そこをもうちょっと上手にやり過ごせるようにしよう、という話だったと思います。

さて、先生の言葉で記憶に残っているのは、以上のようなことです。

実はどれも、自分が普段から言っていた言葉のような気がしますが(笑)、心が追い詰められて視野狭窄に陥っている時には、改めて他者からその言葉をかけてもらう必要があったと思います。その意味でも、説得力を持つ「専門家」の存在意義は大きいと思います。

帰りに処方された薬は、腸のはたらきを良くする漢方薬と、睡眠薬の2種類。以前の通院時(結婚した時)には抗うつ薬も処方されたので、「その時よりはマシなんかな?」という安心感も得られました。

結局、クリニックへの通院は勝手に2回で終わらせてしまったのですが、本来はそのあたりも主治医としっかり相談するべきだと思います。

私の場合、原因が比較的明確だったことと、その後は回復傾向だったこと、そして主治医との相性が悪かったわけではないのですが、ちょっとこちらが緊張してしまう感じがあったので、ひとまず通院を中断することにしました。

とはいえ、何か変調があればすぐに駆け込むつもりでいましたし、そういう「いざという時に頼れる場所」があること自体、安心感につながります。

精神科や心療内科の存在について「自分には関係ない場所」と思っている人も多いと思います。しかし心の危機はいつ、どんな形でやって来るかわかりません。

元気なうちから、「もし何かあった時は、ここに行こう」という目星をつけておくことは、防災訓練と同じくらい大切なことではないでしょうか。

もちろんそれ以前に、何でも相談できる人や場所を、できるだけ確保しておくことも大事だと思います。私はこの点、かなり恵まれていました。

その恵まれている部分を、何らかの形でシェアしたい。それが、このエッセイを書いた動機にもなっています。

この本が、あなたにとっての救命浮輪のような役割を果たしてくれたら、これ以上にうれしいことはありません。

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