茶碗蒸しの話

弱っているとき、茶碗蒸しが食べたくなる。

実家ではよく母が作ってくれた。鶏肉、しいたけ、かまぼこ、三つ葉が入っていたと思う。大きなステンレスの蒸し器でつくってくれた。一人暮らしになって風邪で寝込んだときに持ってきてくれたこともあった。茶碗蒸しは出汁の香りとやわらかな食感で弱った心と身体にぐんぐん染み込んでいく。

手作りの他にファミレスのランチセット、旅館の夕食等おぼろげにいろんな茶碗蒸しの記憶がある。お店のものには銀杏が入っていて、たぶん半分くらいの人はそうじゃないかなと思うけれどもれなく私も子どもの頃は銀杏が苦手だった。それが今では底から見つけ出すと嬉しくなる。きれいなきいろ。
それからスーパーではプリンのようにプラスチックのカップで売られていたりもする。

その中でもここ一年でよく食べていたのはすしざんまいの茶碗蒸しだった。

会社の飲み会は1〜2次会はお好み焼き屋か居酒屋で、終電を過ぎると朝までカラオケになる。みんな疲れ果て、化粧も崩れ去るフリータイム終了の朝5時に店を出る。
駅はすぐそこでも先輩の始発までまだ時間がある。今なら問題ないけれど冬の20分は長い。店をでてどうしようね、というところでいつもニコニコした人形が両手を広げて私たちを迎え入れてくれた。24時間年中無休に感謝しきれない。

すしざんまいの奥のテーブルに着くと、それぞれ好きなお寿司を注文する。みんな好きなトロたくは2皿頼む。味噌汁と茶碗蒸しも頼む。
楽しい飲み会も朝までつづくと眠い。ねむいなぁ楽しかったなぁ疲れたなぁというところに、温かな茶碗蒸しを摂取すると身体が回復していくような心地になる。

正直なところ、明け方に食べる茶碗蒸しのことは具に何が入っていたのか、細かいところは全然思い出せないな。

急に茶碗蒸しが食べたくなり、レンジでつくる適当レシピで挑戦した。たまご、だし、ザルでこして、チン。
すの入った茶碗蒸しもどきが出来上がった。不完全だが白だしの香るあったかい〝もどき〟を口に運びながら、早くみんなですしざんまいに行けるといいな、2軒目くらいまでの頭のはっきりした時間帯に入って、それで具をちゃんと見たいなぁと思う。

自粛が明けたら実家に帰って母の茶碗蒸しを食べたい。

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