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♯6 「星まわり」にまつわる大いなる誤解

「幽霊っているの?」「運の正体とは?」などと思ったことは誰しもあるはず。そんな“目に見えないもの”にまつわる素朴な疑問や、仏教に関する知識を、SNS等で人気の僧侶、仁部(にべ)兄弟がゆるく解説。ふたりの掛け合いが楽しいインターネットラジオ「お寺ジオ」の配信内容をベースに、加筆・再構成してお届けします。

見える星と、見えない星

●兄・前誠 埼玉県にある上原寺(じょうげんじ)の副住職兄弟ふたりで、お坊さんならではのディープな話題をお届けしていきます。私が兄の仁部前誠(ぜんじょう)です。

○弟・前叶 弟の前叶(ぜんきょう)です。よろしくお願いします。今日は「星まわり」についてお伝えします。

●前誠 星というと、仏教では「星まつり」がありますね。

○前叶 星まつりとは、その名の通り“お星さま”を敬うお祀りであって。

●前誠 うんうん。では、「そもそもお星さまとは」というところから。

○前叶 星には、いわゆる学校で習う「水金地火木土…」などの惑星や、「何々座」という星座のような、“見える”星があって。加えて、我々が使う暦の世界では、皆さんに身近なところでいうと、例えば「七曜」があります。月曜日、火曜日などの曜日で表される星まわりですね。
他にも、大安や友引などの「六曜」、運勢を見るときに使われる「九星(気学)」や「二十八宿(月の満ち欠けを28種類に分類した見方)」などがあります。

●前誠 なるほど。

○前叶 厳密にいうと、種類はもっといろいろあって。そのたくさんある星はジャンル分けされ、それぞれに名前があてがわれている。
その星の動きから、今後地球がどうなっていくか、季節がどう移り変わっていくかなどを見ていくことを、我々は「星」とか「星まわり」と言っているんですね。

●前誠 総合的な話というか、大きな枠組みとしてそれがある。

○前叶 そうそう。空を見上げたときに光っている星も、運勢を見るときの星も、星のひとつ。

●前誠 運勢というと「六星占術」とかご存じの方は多いかも?

○前叶 「星」という漢字を分解すると、「生」まれた「日」になるでしょう。すごく人気のある人を「スター」と言いますが、そこには「輝かしい」という意味とともに、人の注目を浴びるべく日に生まれた人、という意味もあって。

●前誠 「あの人はそういう星のもとに生まれた」みたいに言うしね。

○前叶 そうそう。そんな風に、我々は自分の人生を、星を基準に考えていく必要がありますよというのが、暦(こよみ)という学問になるわけです。

●前誠 星の概念が変わってくるかも。

○前叶 その星たちをお祀りして、「普段からありがとう」とか「これからこうなっていくので、お守りください」などと祈願するのが、星まつりです。
あれだけ大きな海も、月の満ち引きで水の干満が変わるし、太陽が出ているかどうかで気温が大きく変わったりする。私たちはそういう天体の影響を大きく受けているから、天体を敬いながら供養して、良い方向に導いてくださいと願うわけですね。

「星まわり」について押さえておきたい大前提

○前叶 暦の中には当然、良いときも悪いもあるのだけど、そういった星まわりについて、「自分個人の運勢の良い・悪い」という風に、主観的にイメージする人が多いんです。ありがちな勘違いなんだけどね。

●前誠 え、違うの? だって血液型とか星座とかと同じようなものだよね、星まわりって。

○前叶 って思うでしょ。結果的にはそれでもいいんだけどね、自分の話をしているのだから。ただ、そもそも私たちは地球という星の中に生まれて住んでいるから、星の影響を「受ける」側なんだよね。

●前誠 大きな存在の上に生かされている。

○前叶 うん。我々は自分ではどうにもできないことがある。この前提が大切で、よくポップコーンに喩(たと)えて話すのだけど、簡易なフライパン型のアルミホイルに詰まったものがあるじゃない? 火にかけるだけでポップコーンになる。あのタネって、自分の意思でポップコーンになることはできないし、逆に、ならないようにすることもできないよね。

●前誠 「まな板の鯉」みたいな。

○前叶 そうそう。他者からの影響、フライパンの熱を以て、ポップコーンになっていく。ならざるを得ない。

●前誠 我々はポップコーンの粒、一つひとつということ? ポップコーンなんだ(笑)。

○前叶 そんな風に私たちは何かの影響を受けて、変わらざるを得ない瞬間というのがある。例えば厄年は、なりたくなくても巡ってくるし、反対に、普段どれだけサボっていたとしても良い時期は来る。
つまり我々はそもそも、自分でどうこうするというより、天体から影響を受けて変化せざるを得ない対象なんだよね。まずは、そこを理解する必要があります。

●前誠 なるほど。ちょっと力が抜ける感じがするね。「どうしようもない状況」はある、ということを前提としておくのは大事かもしれない。

○前叶 星まわりの良し悪しについて、悲観的に捉える人もいるけど、あくまでも他所から受ける影響があるとわかっていれば、「どうしようもない」と思える瞬間があると思うんです。ただ実際には、自分の求める結果を聞けたらいいなと思って、星まわりを見る人も多い気がします。

●前誠 肯定してほしいとか、背中を押してほしいとか。そうなると、もう星がどうこうは関係なくなってくるね。

○前叶 そうそう。本来、星まわりを見るということは、良いときや悪いときがあって、どうしようもないときはどうしようもない、そのタイミングを知るための術。こういう考え方が、星まわりに関する前提としてあります。

星まわりが悪いとき、どう過ごせばいい?

○前叶 もうちょっと踏み込んだ話をすると、星まわりが悪いときにはこうしたほうがいい、ということがあって。
これ、笑わないでね。大真面目に言うけど、星まわりが良いときも悪いときも「早寝早起きをする」ことが原則になります。

●前誠 ちょっと待って(笑)。早寝早起きして、3食きちんと食べましょうって、人間の基本みたいなこと、小学校で習うよ(笑)。

○前叶 そうなんだよ。でもね、よく考えてみて。じゃあそれ、常にできますか、っていう。

●前誠 まあね(笑)。当たり前のことのようで、なかなかできない。

○前叶 例えば運が良いときは、早く寝て早く起きて、しっかりご飯を食べて、なるべく多く活動するべきで。運が悪いときは、しっかり食べて早く寝て、なるべく多く休むべきなの。これが原理原則なんですね。
なぜかというと、我々は太陽と月が交互に回ってくる世界観、星まわりのもとで生きているから。早く太陽に会って、早く月と別れる。その繰り返しなんだよね。

●前誠 その話、めちゃくちゃ大事だね。

○前叶 基礎にそれがあって、我々は自分で決められないことがある、他所から影響を受けるということを前提にしておく。そして、人間には生活リズムがあって、体と心が整った上ではじめて、良いこと悪いことの正しい判断ができる。

●前誠 物事をしっかりと見きわめて、諦めるべきときは諦める。諦めるということは、明らかにする、正しく物事を見るという意味があるわけだしね。

○前叶 そうそう。だから星まわりに支配されるのではなく、星まわりが良いときも悪いときも、自分が判断を正しくできるかどうかが肝心で。そのために早寝早起きが大事ということ。

●前誠 基本に立ち戻るなあ…。

○前叶 根本的に私たちは、地球という星に住んでいる生きものだから、星は思った以上に身近だし、尊いものであって。一方で、よその星から見たら、我々は地球という名前の真ん丸の星、天体の中に生きている存在にすぎないんだよね。

●前誠 つい「地球が中心」みたいな考えに陥りがちだけど、実は地球も星の中の一つにすぎないということか。コペルニクスがそれまでの天動説を覆したように、そういう捉え方、ものの見方ってとても大事。我々も地球という星の上に生かされているということを自覚できる。

○前叶 そうだね。

●前誠 皆さまの明日が明るい日となりますように。早く寝てくださいね。

○前叶 合掌。

仁部 前誠(にべ・ぜんじょう)
1988年埼玉県生まれ。立正大学仏教学部宗学科卒業。妙見山上原寺副住職。2012年より日蓮宗宗務院に奉職。2016年、日蓮宗加行所初行成満。2020年よりRadiotalkにて、弟の前叶氏とともに「midnight temple radio お寺ジオ」を配信。僧侶としてのモットーは、「法華経の話はほとんどしませんが、すべては法華経の話です」。 最近では、『あなたは尊い 残念な世界を肯定する8つの物語』(漫画・やじまけんじ/監修・佐渡島庸平×日蓮宗/徳間書店)制作プロジェクトに参加した。
https://twitter.com/nibe_zenjo

仁部 前叶(にべ・ぜんきょう)
1991年埼玉県生まれ。立正大学仏教学部宗学科卒業。妙見山上原寺副住職。さいたま浦和地区保護司。2015年、日蓮宗加行所初行成満。2020年、仏教死生観研究会「死の体験旅行」講師を務める。同年、上原寺別院「祈誓結社」を設立。”ほとけ様との架け橋“であることを目指し、命の強さと有り難さについて伝えるべく活動している。
https://twitter.com/6SYAKU_HOUSHI