大掃除

正月休み後の疲労感を解消、あえて年明けに大掃除をする- 養生大意抄14

1.寝正月による正月明けの疲労感

寝正月という言葉があるように、休みの日にひたすら寝たり、家で大人しくしているというのも、悪くない過ごし方だと思う。ただ、安静に過ごしすぎているために、休暇の後に体調を崩す場合もある。今回紹介する『養生大意抄』の一節は、身体を動かさないことの害について。

『養生大意抄』意訳
『呂氏春秋』(りょししゅんじゅう)には「流水腐(くち)ず戸枢蠧(むしばま)ず」とある。

流水や戸枢は動いて止まらないものだ[1]。常に動いている物は腐らず、蝕まれないことをいうのである。

人の身体もまた常に動作しているのがよい。動かないと、脾胃の気が運行せず、気血が滞って病を生じる。常に動いていれば、脾胃の気がめぐり、気血も流れて病を生じない。流水や戸枢が腐らず、蝕まれないように。

しかしながら、動作にもまた節度がある。節度をこえて、無理に体を動かせば、筋骨を損傷して害がある。人にはそれぞれ生まれつきの体力がある。一概にこのくらいの運動量がよいとは、定めることが難しい。

何事においても、自分の感覚で辛くない程度の動作をよしとする。毎日務めて体を動かしていれば、それに慣れて身も健やかになり、辛さも感じなくなっていく。

なまけて久しく動いていない人が、急に体を動かして辛さを感じる場合は別で、慣れるまで頑張って休まず続けるとよい。

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多紀元悳『養生大意抄』(国立公文書館内閣文庫所蔵)より、筆者による意訳。原文は最下部。

[1]「戸枢」は「くるる」のこと。「くるる」は『日本国語大辞典』に「扉の端の上下にある突出部。また、これを穴ににれて扉が回転するようになっているところ。」とある。

2.あえて年明けに大掃除をして、気血をめぐらし気分も一新

「流水は腐らない」という言葉が紹介されているように、人も動かないと気血がめぐらず、病気になってしまう。

正月をはじめとした長期の休暇で、かえって体調を崩してしまう方は、何か身体を動かす用事をあえて入れるようにするとよい。

もしかしたら大掃除なんかも、年末にやるよりも、正月が終わって少ししてからの方がよいかもしれない。

なぜならば、年末の鍼灸院には必ず、疲れている中に大掃除をして腰を痛めたり、不注意で高いところから落ちて足を挫いたりする方がいらっしゃるし、年明けには、たくさん食べて、少ししか身体を動かさないことで、体調不良になるという方が多いからだ。

かくいう私も、正月休み後からなんとなく胃腸の調子が悪く、実際に体重も増えたのかもしれないが、体が重くやる気が出ない。

これではいかんと運動を始めようとも思うが、そこまで気分が乗らないので、とりあえず鍼灸院内の不用品の整理を始めた。

部屋の隅々まで立ったり座ったりしながらひっくり返し、要らなそうな物をかき集めていると、そこそこの運動になる。部屋が少し広くなったような気がして、気分も良くなった。やっと一年が始まったような気がした。

今度から鍼灸院の大掃除は年末ではなく、仕事始めの日にしよう。


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原文

呂氏春秋(りょししゅんじゅう)に流水腐(くち)ず戸枢蠧(むしばま)ずとあり。流水戸枢〔戸枢とは戸のくるるなり〕は動(うごき)てやまざるもの也。常に動(うごき)ある物(もの)は腐(くち)ず蠧(むしばま)ざるをいう。凡人の身も常に動作あるをよしとす。動作せざれは脾胃の気運行せず。気血壅滞(ようたい)して病を生ず。常に動作あれば脾胃の気めぐりて気血流行(なかれめぐ)りて病を生ぜず。流水戸枢の不腐(くちず)不蠧(むしばまざる)かごとし。然れども動作にも亦節(よきほど)あり。若節を過(こえ)強(しい)て動作すれば、筋骨を傷(やぶ)りて害あり。其人の稟受(うまれつき)によき程あり。一概に定(さだめ)がたし。何事にても吾体の辛苦せざる程動作するをよしとす。毎日務(つとめ)て動作すれば常になれていよいよ身健に成りて辛苦に思事なく、逸予(いつよ)して久しく体を動さず俄(にわか)に動作すれば、辛苦に覚(おほゆる)ものなれば、務てやまざるをよしとす。
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多紀元悳『養生大意抄』(国立公文書館内閣文庫所蔵)より、筆者による翻刻。

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