養生大意抄01

食養生的には美味しいものとどう付き合うべきか? - 養生大意抄01

はじめに:『養生大意抄』について

多紀元悳(1732~1801)著の養生書で、全2巻。内容は医家向けではなく一般向けで、心、飲食、起居動作、性、鍼灸薬餌などの養生の要点がまとめられている。著者の多紀元悳(もとのり)は官立の医学校である江戸医学館の初代館長で、将軍家斉の侍医であった。

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『養生大意抄』(国立公文書館内閣文庫所蔵)

江戸の養生書を読むシーズン2では、本書の中から現代でも応用できそうな内容を選んで意訳し、訳者のひとことコメントを加えながら読み進めていく。原文の完全翻刻版は連載終了後に公開予定。

第1回:食養生的には美味しいものとどう付き合うべきか?

【原文】

○常には味の淡薄なる物を多く食し、間には肥濃油膩(あじわいあつくあぶらこき)の物をまじえ食すべし。肥濃油膩の物は滞りやすし。おおく食し或は連日食すべからず。山野の農人等身は労動して淡薄なる物雑穀の類のみ食して身体堅固(けんご)にして長寿する者多きにてしるべし。脾胃の気よくめぐる故なり[1]。

[1]脾胃:現代医学でいうところの消化器系の臓器で、飲食物のエネルギーを消化吸収し、全身へ行き渡らせる起点となると考えられている。

【意訳】

日常的には味の淡薄なものを食べるようにし、時々味が濃く、油こいものをまじえて食べるとよい。味が濃く、油こい物は滞りやすいので、多く食べたり、連日食べてはいけない。これは山野の農民等が、肉体労動をしながら、淡薄な物や、雑穀の類ばかり食べていても、身体は丈夫で、長寿な者が多いことからもわかることである。脾胃の気がよくめぐっているからである。

【ひとこと】

普通の餌よりチュールにがっつく猫を見ると、動物だって美味しいものが好きなのだなぁと、より親近感が湧く。

素食がよいというのは、常識として、まあ分かっている。が、濃厚な美味しいものを食べたいという想いには、人間であれば余計に逆らえない。

では、養生書では美味しいものとどう付き合うとよいと説いているのだろう。どうせ質素なものだけ、ひたすら食べろとでも書いているにちがいない。

と思いきや、今回読んだ『養生大意抄』はちょっと違った。

美味しいものを完全に禁止していない。

基本として、味の濃いもの、油こいものは、たくさん食べたり、毎日続けて食べてはいけないとあるだけだ。乱れた食生活は脾胃を傷めてしまうので、それを避ける程度にわきまえましょうということだ。

質素な食事を基本として、時々濃厚で美味な物を挟んでいく。死ぬまで美味しいものを食べ続けたいグルメな人ほど、これを守って身体を壊さないようにするとよいだろう。

それにこういう食べ方の方が、もしかしたら幸せなのかもしれない。


【凡例:翻刻にあたって】

・旧仮名遣いは新仮名遣いに改めた。
・必要に応じて平仮名に濁点を補った。
・原書のふりがなは()内に記し、漢字の左側にある傍注は[]内に記した。
・漢字は難読なものに関しては、原則として常用漢字に改めた。
・底本に国立公文書館内閣文庫所蔵の版本を使用した。

※現代においては差別的であるとされる表現や内容が含まれますが、故人である原書の著者にその意図がないことと、歴史的な資料として忠実に残すため、そのままの形で翻刻・意訳いたしました。どうぞご理解ください。

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