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こころのかたより - 養性訣解説05

ここ10年ほど、ほぼ新聞を読んでいない。これは私に限ったことではなく、同じような方はきっと多いだろう。

普段はほとんどスマホでしかニュースを見ず、アプリやSNSがなければ、世の中で何が起きているか、全くわからない。ネットはそれくらい情報を集める方法として、頼りになるし、頼りきっている。


好きなことをさらに好きに、嫌いなことをさらに嫌いに

よく言われることだけれど、ネットのニュースにはどうしても偏りが出てしまう。それは思想的な偏りというよりかは、嗜好的な偏りで、ほとんどのウェブサービスでは、ユーザーの好みを学習し、その人が好きそうな内容のニュースを優先して表示しくれる。

例えば猫関係のニュースや動画ばかり見ていると、その情報がさらに集まってくるので、偏りといっても便利な偏りでもある。

ただ、この便利さによって、好きなことをさらに好きに、嫌いなことをさらに嫌いにさせられることもあるだろう。


親愛(かわゆし)と賤悪(にくし)

さて、今回からやっと『養性訣』の本編に入る。本編最初の話題は、この心の偏りと陰陽について。

東洋医学でいう陰陽は、善と悪の評価を目的としたものではなく、役割や働きの説明に用いられる。両者とも必要なもので、万物は陰と陽の調和よって、構成され、運行されている。人体も同じで、この陰陽が偏ると心身を病んでしまうと考えられている。

タイトルに「養性訣解説」とついているにも関わらず、当初からあまり『養性訣』の原文をがっつり解説していない気もするので、本編突入の今回は、原文を細かく区切って意味を解説していこうと思う。

・人には本来偏りがない

【原文】
さて人はこの陰陽沖和の気を受得て生れ、その本心はもと淡然虚静(かたよりなき)ものなれども、摂生の道に背き、沖和の性を失うより、疾病も生じ気稟(きしつ)も変じゆくなり。

人はもともと陰陽調和の気を受けて誕生し、生まれて間もない頃は、誰もが心に偏りのない純粋な状態だった。この素晴らしく調和のとれた状態で生まれたのに、不摂生によってバランスが崩れ、病気になり、気質も変化していってしまう、ということが書かれている。耳が痛い。

・賢さや勇敢さも陰陽の調和と不調和に左右される

【原文】
故に人の心の善悪邪正、智愚勇怯(つよきよわき)の均(ひとし)からざるも、悉皆(ことごとくみな)陰陽の調適(ととのう)と否(ととのわ)ざるに因て、骨肉血液の区(さまざま)に別れ、偏倚(かたずみ)たる質(ところ)あるに従て、その差(たがい)あるなり。

人の心の善悪や、賢さ、勇敢さなども、陰陽バランスの状態に左右される。逆にいうと、陰陽が調和すれば、賢くなるということだろうか?

実は賢くなる。というのが次の節に続く。

・技芸を効率よく極めるための心身づくり

【原文】
故に今人倫の道を明にし、六芸の淵底を究んと欲(おもふ)にも、先その始摂生の道に由(よる)ときには、事半(ほねをりなかば)にして功倍(てぎわばい)し、一を聞て十を知の才をも発すべし。

摂生をすると、技芸を効率よく極められるようになるとのことで、何をするにも心身の安定が基本となるということだろう。「一を聞て十を知る」というのは、学習効率のよい人の特徴だが、養生によって、その境地に近づけるようだ。

・一切の病苦はその心の偏るところより起こる

【原文】
故に一切の病苦は、皆其心の偏倚(かたよる)ところにあるより発(おこる)ものなることを、よく反求(がてん)しぬれば、これを治する法も自(しぜん)と明得(あきらめえ)らるべきことなるを、人々その親愛(かはゆし)とおもい、賤悪(にくし)とおもふ心の向(ひかるる)かたに偏倚(かたより)て、その身の修(おさまら)ざるより、精神おのづから外(うわのそら)に馳(なり)て、血常に上に衝逆(のぼり)、漸に下に粘結(こり)て、病苦も従て起(おこり)、遂にはその天年を終ること能(あたわ)ざるにいたるは、尤(もっとも)歎(なげかわ)しきことにあらずや。

「かわいい」や「にくい」という心の偏りが、一切の病を生じさせる原因だとする。好悪の偏向によって、精神がうわの空になり、血が上部に鬱滞し、それによって病を発症するとのこと。


こころのかたより

以上が今回の解説になる。好き嫌いの感情がいきすぎると、心の偏りから心身を病んでしまうということだ。

冒頭にあげたネットの情報の偏りは、一度嫌いになったものを、その後も継続的に徹底的に嫌いにさせるように仕向けてくるので、心身の健康のために、自分もそうならないようにしなければと思う。

じゃあ、そろそろまた昔のように新聞に戻ろうか?

そこで新聞を選ぼうとすると、誰でもすぐに気づくであろう。新聞にも、もともと論調の偏りがあるではないか。むしろ1種類の新聞だけ読み続ける方が、もっと偏ってしまう気がする。紙だろうがネットだろうが、媒体が変わっても、人の行動はそれほど変わらない。

逆に、ネットのニュースや、SNSのよい点は、自分が意識さえすれば、多様な考え方を手軽に入手できるところにある。新聞をいくつも購読するのは経済的にも大変だが、ネットでは手軽にそれができる。

猫派の私もSNSで猫アカウントのフォローばかりせず、これからは犬の良さも知るようにしよう。


【原文の完全版はこちら】
家庭の東洋医学で随時更新中。

【今回読んだ部分】
巻上一から巻上四
底本:平野重誠『養性訣』(京都大学富士川文庫所蔵)
凡例:第1回目の解説最下部

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