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レゴ遊びに学ぶ、健康のための仕事のやり方ー 養性訣解説03

子どもと一緒に、よくレゴで遊ぶ。遊びとはいえ、レゴはものづくり作業。人間の本能をくすぐり、大人でも達成感と喜びが得られる。皆さんはレゴでどんなものを作ったことがあるだろうか?

我が家では時々実用的なものも作る。最近ではティッシュペーパーのケースを製作した。ティッシュの箱の大きさに合わせ、カラフルな外枠を組む。紙をスムーズに引き出せるよう、子どもと一緒に試行錯誤する。頑張ってひと仕事終えた時の嬉しさは、今でも忘れられない。

今回の『養性訣』解説は、ずばり仕事と養生について。武士、農民、職人、商人と、職業を大まかに四分類し、心身の健康のために、それぞれどのように仕事に向き合うべきかが説かれる。

『養性訣』は江戸時代の養生書なので、今の世の中には当てはまらない職業もあるが、以下の3点が全職業に通じる要点になる。これは現代人にも通じる気がする。

職分を知り、
謙虚に学び、
そして自分に恥じない仕事をする

こうすることで精神が爽快になり、それにともない気血のめぐりがよくなり、病の原因がなくなっていくと、著者の平野重誠はいう。道徳の教科書と違って、「健康のために自分に恥じない仕事をする」というところが味噌だ。

これは手抜きせずにやった時の、レゴ後の爽快感とも似ているが、現代の労働環境はそんなに単純ではない。

人によっては、自分の体力の限界を超える量の作業をあてがわれる。強い疲労の中、とにかく早く仕事を終えるしか考えられないこともあるだろう。仕事の量が不適切だと、頑張れば頑張るほど不健康になってしまう。

この状態は、組織と個人両者にとって、長い目でみると何ひとつ良いことがない。ただ、働く側が問題に感じていても、雇用主側が動かなければどうにもならない。

平野重誠は養生の道をひとことに集約すると「思無邪(おもいよこしまなし)」だと言う。これは『論語』に出てくる言葉だそうだ。そして商人の養生道は、「非義の利をむさぼらず」とする。

つまり、これを雇用主に置き換えれば、働く環境やお給料を見直し、それをより良いものに再構築すると、雇用主の心身も健康になるということだ。誰も損をしない。

子どもは新たな作品創りに必要な部品確保のため、せっかく時間をかけて創った超大作を、何の躊躇もなく解体しはじめる。大人の私は「え?もう壊しちゃうの?勿体なくない?」といつも軽く再考をうながす。

子どもにとっては、すでに創りあげたものより、これから創りあげたいものの方が、はるかに大切なのだろう。

さて、今回の原文は以下の通り。職業における養生について。自分の今の職業はどれに当てはまるのか考えながら読んでみたい。

【原文】
一、養生の道とて、もとより別に口授秘訣あるものにあらず。ただ人と生れ得たる天性を遂(とぐ)るまでのことなれば、かならずこれを外に向いて求んとすることなかれ。

まず士大夫(さむらい)の専ら心がくべきは、古昔(むかし)の聖賢の道義(みち)を講(とき)たる書を読て、人倫(ひとたるみち)の大本を知明(しりあきら)め、かたわら武藝の嗜(たしなみ)みふかく、常にその身を愛嗇(だいじに)し、ただ義のためには命を塵芥(ちりあくた)よりも軽んじる念(こころ)を長(のだつ)るが、養生の第一なり。

農民(ひゃくしょう)は、国主(かみ)の恩賚(めぐみ)にて、安穏に妻孥(さいし)を撫育(すごす)ことを、常に忘ることなく、稼穡(のうぎょう)の事(わざ)を懈(おこた)らざるが養生なり。

その他、工匠(しょくにん)のその職(わざ)に拙(うと)からず、商売(あきんど)の非義(よぶん)の利を貪(むさぼ)らざるが如き、これ工商の養生なり。

故(ゆえ)如何(いかに)となれば、四民おのおのその分限を知り、謙虚を守り、内(み)に省(かえりみ)ていささかも愧(はず)ることなければ、精神おのづから爽快に、気血融通(からだのめぐりよき)を以て、病を醸造(かもす)べき、基本となるものあることなければなり。

論語に、詩三百、一言(いつげん)以(もって)蔽之(これをおおう)、曰(いわく)、思無邪(おもいよこしまなし)といへり。思(おもい)に邪(よこしま)なければ、その心かならず爽快なり。心爽快なれば、病はおのづから少し。今またこの養生の道を一言に約(つづめ)ていはば、この思無邪(おもいよこしまなし)の三字を以ても盡(つく)せりとすべし。これその外に向ひて求むべきにあらねばなり。此義(このわけ)は本編(ほんぺん)に説(とく)ところを通暁(がてん)して、おのづから明(あきら)かなるべし。

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※現代においては差別的であるとされる表現や内容が含まれますが、故人である原書の著者にその意図がないことと、歴史的な資料として忠実に残すため、そのままの形で翻刻いたしました。どうぞご理解ください。

【今回読んだ部分】
綜凡三表から綜凡四表
底本:平野重誠『養性訣』(京都大学富士川文庫所蔵)
凡例:第1回目の解説最下部

【原文の完全版はこちら】
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