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『養性訣』解説 - 江戸の養生書を読む 01

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江戸時代の名医、平野重誠の『養性訣』の翻刻と、内容の解説をしていきます。
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身体から心をととのえる ー 養性訣解説02

五事調和のための養生法究極の養生とは、様々な欲望に動揺しない、徳性の高い人になること。『養性訣』冒頭にある、このストイックな考え方を前回紹介したが、著者の平野重誠の本業は宗教家ではない。医者である。 そのため、患者を説教ではなく、別のアプローチで心身の安定に導こうとしていた。その考えのもとになるのが、今回のテーマである「五事調和」になる。 この「五事調和」の「五事」は、食・眠・体・息・心の五つ。 『養性訣』の末尾にある「附言」によると、五事調和は仏教思想からの引用で、五

レゴ遊びに学ぶ、健康のための仕事のやり方ー 養性訣解説03

子どもと一緒に、よくレゴで遊ぶ。遊びとはいえ、レゴはものづくり作業。人間の本能をくすぐり、大人でも達成感と喜びが得られる。皆さんはレゴでどんなものを作ったことがあるだろうか? 我が家では時々実用的なものも作る。最近ではティッシュペーパーのケースを製作した。ティッシュの箱の大きさに合わせ、カラフルな外枠を組む。紙をスムーズに引き出せるよう、子どもと一緒に試行錯誤する。頑張ってひと仕事終えた時の嬉しさは、今でも忘れられない。 今回の『養性訣』解説は、ずばり仕事と養生について。

食材や薬材の性質の偏りについて - 養性訣解説04

健康増進のために、私たちは何を食べるとよいか? 東洋医学従事者としての私に向けて、時々こういった質問がくる。実はなかなか難しい問いで、いつも気のきいた答えがみつからない。これは東洋医学的にみて、誰にでもよい健康食材がそれほど多くないからなのだろう。 通常、東洋医学的な食養生は、個人の体質に合わせて行われる。症状の同じ人が集まったとしても、全員に同じ食材をすすめることはなく、個別に効きそうなものを選ぶ。 例えば身近なものだと、スイカには利尿作用があるため、むくみによいとさ

こころのかたより - 養性訣解説05

ここ10年ほど、ほぼ新聞を読んでいない。これは私に限ったことではなく、同じような方はきっと多いだろう。 普段はほとんどスマホでしかニュースを見ず、アプリやSNSがなければ、世の中で何が起きているか、全くわからない。ネットはそれくらい情報を集める方法として、頼りになるし、頼りきっている。 好きなことをさらに好きに、嫌いなことをさらに嫌いによく言われることだけれど、ネットのニュースにはどうしても偏りが出てしまう。それは思想的な偏りというよりかは、嗜好的な偏りで、ほとんどのウェ

その悩みは、幻かもしれない - 養性訣解説06

昔話昔々、中国の随の時代に、陳箴(ちんしん)という人がいました。ある日、陳箴は仙人の張果(ちょうか)に占われ、ショッキングなことを告知されます。 あなたは一年もたたないうちに必ず死ぬ、と。 困った陳箴は、弟の顗禅師(きぜんじ)に相談しました。すると顗禅師は、食(たべもの)眠(ねむり)体(からだ)息(いき)心(こころ)の五つの事を調和することなどを、兄にすすめました。 弟のアドバイスを守り、陳箴は五事の調和を真面目に実行します。そして数ヶ月が経ったときのこと。 再び張果

満腹の害 - 養性訣解説07

1.満腹の害「腹八分に医者いらず」という諺がある。なんとなくそれは正しいことなのだろうと、皆さんも認識しているだろう。ただ、八分目を守らないと一体どうなってしまうのか。そのあたりが曖昧だ。 今回の『養性訣』解説は、食について。八分目の利点と、それを守らないとどうなるのかが説かれる部分を読んでいく。 では早速、満腹の害からみてみよう。 (1)なにもかも面倒くさくなる【原文】 身体(からだ)自(しぜんと)沈重(おもく)、起居(たちい)もわれしらず懶堕(ぶしょう)になり (『

眠りすぎの江戸の人から、睡眠不足の現代人が学ぶこと - 養性訣解説08

今回の養性訣解説は「睡眠」について。睡眠というと、現代では睡眠不足が問題になることが多い。 一方で、江戸時代の養生書である『養性訣』では、睡眠不足よりも、過眠の害を説いている。恐らく江戸時代は、慢性的な睡眠不足の人は、現代よりもはるかに少なかったのだろう。 では睡眠不足の現代人は、眠りすぎの江戸時代の人から、何を学び取ることができるのだろうか。まずは睡眠の役割についての部分を読んでみよう。 眠りは心身の疲れを癒やし、眼の食事である【原文】 眠は眼の食と古人も言(いえ)ば

淡々と今を生きる - 養性訣解説10

面白おかしく暮らしたい、華やかな生活がしたい、有名になりたい。誰もがもつ正常な欲求だろう。ただ、これらの欲には際限がなく、求めすぎると体を病んでしまうことがある。 今回の『養性訣』は、欲望と心に関することがテーマになる。心の摂生は五事調和の最終目標で、ここで上巻も終わる。それでは、欲にとらわれすぎると、身体にどういった影響が出るか、まずは以下を読んでみよう。 【原文】 人々安逸(おもしろきこと)に耽(ふけ)り、歓楽(たのしみ)に習(なれ)て、ただ富貴栄華を慕い、名声功利競

江戸後期の養生書にある健康器具を再現し実際に使ってみた - 養性訣解説11

アップルの創業者のひとりが禅を学んでいたというのは、誰もがご存知だろう。 また、グーグルやインテルなどの世界的なIT企業でも、マインドフルネスという、禅のような瞑想呼吸法を取り入れている。これは社員の集中力を高めたり、心の不調を緩和させるためだ。 このような禅をもとにした呼吸法は、現在世界的に広がっており、当noteで解説中の『養性訣』においても、心身を調える重要な方法として紹介されている。 『養性訣』の呼吸法は、白隠禅師という、江戸中期以後、多くの養生家に影響を与えた