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それでも人とつながって 008 児童3

『女の子だと違う道が出来てしまうから』


児童養護施設のボランティアも回数を重ねていた。最初のうちはあまりお話もしなかったシスターさん達からも声を掛けられるようになってきた。自分も高校生だったので進路について尋ねられた。あなたはどうするの。まだハッキリ考えても居ないようないい加減な状態だった。そういえばどうしようと改めて考えていると、ここに居る子達には時間に制限があるからと言う。

ちょっと恥ずかしい気がした。どうしよう。それとは別にここの子たちには自分とは違う時間の制限があるのかと思った。するとシスターさんの口からびっくりするような言葉が出た「あなたがここの子と一緒になってくれたら一番良いんだけどね」意味は何となくだけ分かるけど全くそういう状況も想像できないくらいに自分は子どもだった。そして「女の子だと違う道が出来てしまうから」と、その時の自分ではすぐには意味が分からないような言葉が続いた。でもハッと思い出すことがあった。

地元の元気あふれる幼馴染との絡みを思い出していた。いやいや本当なんだってと力を込めて話す一人の幼馴染。異性の話だ。みんな興味がありながら話の全部の意味が分からないような感じで聞いていた。「あっあっ」ってたまに声を出して寝ているだけでカネが貰えるって話してたぜ。なんだそりゃ?という感じがした。この時はみんな中学生だった。

幼馴染には同性も異性もいる。仲は良いんだか悪いんだかという時もあるが異性でもやはり小さい時から見知っているというのは何か大きいものがある。どこかで信頼しあっている。ある一人の幼馴染の女の子。可愛らしいがませている子だった。小学生の時に何回も名字が変わったので、いつの間にかみんなは自然とその子を下の名前で呼ぶようになっていた。幼馴染で遠慮もないから呼び捨てで。事情など全く分からなかったし気にもならなかった。

それはその子の話だった。力を込めて幼馴染は話し続ける。キスなら500円で良いって言ってたぜ。ふーんと聞きながら何となく500円ならあのアイスがいくつ買えるなと計算していた。なんであいつにお金を払ってまでそんな事をと思う。その程度だった。

その子は中学の途中。いつからか学校で姿を見掛けることが無くなっていた。もともと休みがちだったけどある日から全く見掛けない。どうしてるんだろうな。学校だけでなくこの辺にも居ないみたいなのは自分達にも分かっていた。この辺に居るなら必ず誰かが見掛けるはずだから。

ある日、別の幼馴染の女の子からあの子はいまバンドの追っかけをしてるんだよと話を聞いた。そんなことして何が面白いんだろうとこれも自分達には理解出来なかった。バンドの名前を聞いてもみんな全く聞いたことのないような名前だった。語呂的にも少し馬鹿にしやすいような名前だったので余計に意味が分からない気がした。

ある日。その子の家の横を通ると駐車場に見慣れない黒塗りの車が停まっている。見るからにな感じの車。何となく気に食わない感じがした。誰だか分からないけどその車の持ち主とそんなのと一緒に居る幼馴染のその子の両方に。日をおいて妙な噂を聞いた。地元の幼馴染のような先輩からだった。アレにあんま関わんねぇ方が良いぞと忠告された。「はい」と返事をしたがその話も気に食わなかった。

暫くして。また変な噂を聞く。身体を売ってるらしいと。全く意味が分からない気がした。そんな世界のことも自分には全く分からない。人から聞いただけのそんな話を信じることが出来なかったし、あいつがそんな事をする訳ないよと思った。何となくだけど。でもこの噂話は後々になって本当だったことが分かった。一つの事件が信じたくないもない証拠になってしまったんだ。それはまた別の機会に書くけど。

『女の子だと違う道が出来てしまうから』なんだか嫌な思い出にシスターの言葉が重なってしまうような感じがした。否定して欲しい気持ちがあり無意識にその言葉に「どういうことなんですか」と尋ねていた。シスターは落ち着いていて、あぁそうねというふうにゆっくり答えてくれた。

あなたは男の子。男の子はどんなふうになっても、結局は頑張らねければならなくなる。そうしないとどこの社会も認めない。だからあなたもいつかはとても頑張るの。だからきっと頑張りなさい。女の子はね。若いというだけで生きられてしまう方法がある。その方法で生きてしまうと世の中が簡単に思えてしまう時期がある。でもそれはその後の人生を簡単に行かせなくさせる原因になるの。
シスターは少し表情の力を抜いてちょっと微笑むように短く息を吐いた。聞いているこちらをリラックスさるように。

そうなんだ。やっぱり。あの時の気に食わないと思った噂話や出来事が。その感覚が心の中によみがえる。なんだか居ても立っても居られないような気持ちになった。どうすれば良いんだよ。分からない。なんとなくその辺に居る子たちを見回してしまった。そんな自分をバカだと思った。何をすれば良いんだろう。
そんな愚かな気持ちを察してか「目標とかが持てる子は幸せ。夢のある子は本当に幸せ」とシスターが優しく呟く。それは叶っても叶わなくても良いのと言葉が続いた。

「分かりました。俺、○○○になります」「俺が○○○になって、ここの子たちでもそれになりたい子が居たら俺が面倒見ます」とその時に思いついたように勢いよく言った。シスターは少し驚いたようにした後に明るい笑顔になって「やっぱりあなたにはここの子の誰かと一緒になって欲しいわね」と笑いながら立ち去った。

思いつきのようだったけど自分は本気だった。この時までは漠然と興味がありながら決意する何かが掛けていた。でも心の中にずっとあったもの。
自分の進路選択はこの時だった。


これは児童の巻の三。この後に続く体験はまたの機会に。

もし読んでくださる方がいらっしゃったなら。
お読み頂いたあなたに心からの御礼を。
文章を通しての出会いに心からの感謝を捧げます。





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