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それでも人とつながって 004 ボランティア1

『わたし大人になりたくなかったの』


80代後半の女性の言葉に驚きながらとても痛快な気持ちになる。重い障害を持つ小さな子たちと親御さんのグループ活動が始まった。会員も増えて毎週集まっては関係機関や先輩ママさんなどにより、世間の多くの子育てとはちょっと違うタイプの子育てライフをサポートしている。そこに参加したお母さんたちがお喋りや情報交換、相談などに集中できるよう、子どもたちのお世話をする人が必要となった。その中の一人のボランティアさんの言葉だ。

あまりにも面白かったので、子どものままで居たかったのですか?と問うと、そうじゃなくて大人になりたくなかったのと微笑みながら答える。なんだか透き通っているような感じがした。そうなんだ。子どものままで居たい訳ではなかったけど、大人になりたい訳じゃないんだな。不思議だけど素直にそうなんだと思えた。

思うように身体を動かせない。言葉が出ない。声を掛けられているのは分かっているけどリアクションは無い。いろいろいろいろな子たちが集まっている。みんな感受性は豊かで、こちらの関わり方で自分の中身が見透かされてしまっているような反応をされることもありドキッとする。機嫌の良し悪しの表現も様々で、誤魔化しが効かないことが肌で分かる。

でも。この小柄で白髪の大人になりたくなかった方が子ども達をあやしたり、面倒を見たりしている時には何故なのかみんなリラックスしたような雰囲気になるのが傍目に見ても分かる。ご機嫌がよろしくなかった子も同様に。何か秘訣でもあるのだろうかと思って尋ねてみた。その方は少し笑いながら「わたし大人になりたくなかったの」と答えてくれた。あの子たちと居るとね、と言葉を続けた。言葉はそこまでだっだけど、何か分かった気がした。

この方の活動は長年続いた。途中から娘さんと思しき人の送迎によって会に参加していた。娘さんらしき方はボランティアするのにボランティアが必要なんですと笑っていた。笑った顔が大人になりたくなかった白髪の女性にそっくりだった。娘さんだと分かった。


これはボランティアの巻の一。この後に続く体験はまたの機会に。

もし読んでくださる方がいらっしゃったなら。お読み頂いたあなたに心からの御礼と、文章を通しての出会いに心からの感謝を捧げます。

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