スペイン巡礼2018回想記(19)アタプエルカ〜ブルゴス
2018年5月24日。
この日は、アタプエルカからブルゴスまでの20kmの行程。
支度をすませてザックを背負い、オテル・ルーラル・パパソルを出ると、おじさんたちのホテルに向かった。
私が泊まったオテル・ルーラル・パパソルは朝食がついていないので、おじさんたちのホテルのほうで朝食をとらせてもらうことになっていた。
アタプエルカは霧の朝である。
私がそもそも少し約束の時間に遅れたうえ、食べるのが遅かったのだが、おじさんたちは待っていてくれた。おそらく7時すぎ、連れだってアタプエルカを出発。
こんなふうに人に気をつかって行動したのは、全37日の巡礼でこの日だけだった。いつもはこの手の面倒をきらう私だが、一緒にいて居心地のよいおじさんたちだったので、待っていてもらうなどするのも少し心楽しかった。
アタプエルカを出て、坂を登っていると、霧が晴れてきた。
振り返ると、うしろから巡礼者たちがついてきている。いつもは遅い出発なのであまり他の巡礼者がいないのだが、今日はおじさんたちに合わせて早いので、いつもとちがった。
なお、昨日のうちにおじさんたちに、重いザックで足腰をやられたという話をしていたところ、正しい持ち方を教えてくれると言った。それで私はこの日、久しぶりにザックを自分で背負って出発していた。
おじさんたちの教えは、ウェストベルトをきつめに締めるように、とのことだった。ベロラドの若い巡礼者に教えてもらったことと一緒だが、ショルダーベルトなどもきちんと点検してもらって、安心できた。
おじさんたちのおかげで、この日以降、私はきちんと自分で12kgのザックを背負って歩いていく。
スペイン巡礼中は、山の上に登ると、広大な野原がひろがっている、という場所が多かった。
日本の山の頂上はわりと狭いことが多いので、この地形は興味深かった。頂上が何kmも続くのだ。
(有名な巡礼モニュメント)
一応おじさんたちは目上なので、道順の選択をおじさんたちにまかせていたところ、実はおじさんたちもなんとなく進んでいて、広い野原の真っ只中で若干迷うことになった。人まかせはよくない。
おじさんたちがスマホに入れていた巡礼地図アプリで事なきを得た。しかし、天気もよく、広い野原の道を歩いていくのはとても楽しく、迷ったことも大して気にならなかった。
広い青空を交差する飛行機雲が、とても印象に残っている。
高台から少し下りたところで、午前中のバル休憩。
スペイン巡礼といえば、絞りたてオレンジジュースだ。オレンジジュースマシンが設置してあるかどうかは店次第だが、かなりの割合で絞りたてをいただける。どこの店であっても確実においしい(なお、帰国後、私は絞りたてオレンジジュース「ロス」になり、スペインと同じジュースマシンを東京で検索しまくることになる。ちなみに一部の高級ホテルと代官山ピカールにあります)。
あと、ショーケースに入っているチョコケーキを見た瞬間、「よし、食べよう!」となってしまった。
このとき以降、私は午前中でも遠慮なく甘いものを食べるほうに方向転換する。それまでは、午前中の間食は日本から持参したナッツなどにとどめていたのだが……。巡礼中は長く歩くので、とにかくお腹が空くのである。
休憩のバルを出てしばらくして、ブルゴスの空港にさしかかった。ブルゴスの街が近い。
街の入り口は広大な緑地公園のようになっていて、水のある風景を見ながら快適に歩くことができる。こんな公園が近所にあるだなんて、ブルゴス市民が心底うらやましい。
ブルゴスの市街地に入って、昼食。
白アスパラ(缶詰)とタコのガリシア風、それに牛の尻尾の煮込みだ。白アスパラ(缶詰)以外は美味。
おじさんの1人は生ビールが大好きなあまり、瓶ビールを意味するスペイン語「セルベッサ」以外に、生ビールを意味する「カーニャ」を重点的に覚えてきていた。おじさんがあまりにも強調するので、私も完全に覚えてしまった。
さて、このときだったか、おじさんたちと遭遇した数回の別のときだったか忘れたが、私が小説を書きあぐねているという話をすると、
「あなたには才能があるよ。好きなように書きなよ」
と、言ってくれた。
何か、私の話し方がおもしろいとかなんとかそんな話で、話しているみたいに書けばきっとおもしろくなる、というようなことだったと思う。
実際に文章を読んでもらったわけではなく、根拠はあるようなないような激励ではあったが、この言葉は私がスペイン巡礼でもらった最大の宝物のひとつだ。
レストランを出たあと、
「また会う日まで!」
と言って、次の約束もなく、おじさんたちとは別れた。
おじさんたちが予約した宿と私の宿がかなり離れていたのと(ブルゴスは大きい街である)、私は翌日ブルゴスで休憩日をとる予定だったが、おじさんたちは歩く予定だったからだ。
軽く手を振って、さっさと別々の方向に歩きだした私たちだが、このあと私がスペイン巡礼を終えるまでおじさんたちと再会することはなかったし、今も再会していない。いつかまたご縁があったりすることがあるだろうか。
以降、私は最後までひとりの巡礼旅を続けた。
ブルゴスで2連泊する宿は、ブルゴスの端っこにあるオテル・プエルタ・ロメロス。ブルゴス大学のすぐ近くだった。今日も生理を警戒して個室である。ここも手頃なホテルなので小さい部屋だが、かわいいつくりの部屋だった。
夕食は、軽食を部屋でとる。
おじさんたちから、緑茶のティーバッグは水出しで飲めると教えてもらったのでその水出し緑茶と、同じくチキンラーメンも水でつくって食べた。和食が恋しい私の体に、お茶とチキンラーメンはとても沁みた。
(部屋からの眺め)
(スペイン巡礼2018回想記(20)に続きます)
(リアルタイムで更新していたインスタ)
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