スペイン巡礼2018回想記(1)ことのはじめ
私がサンティアゴ・デ・コンポステーラ巡礼のことを知ったのは、たぶん学生時代のことだった。
もうだいぶ前のことなので記憶があやふやなのだが、たぶんスペイン史の授業の一環だったと思う。NHK(これもたぶん)の1時間番組を見て、何かとても琴線に触れるものがあった。
(その番組を見ていちばん見たいと思ったプエンテ・ラ・レイナの橋)
そのとき思ったのは、ひたすら長い道を歩きつづけるというのは、どんな体感なのだろう? ということだ。
自分の書くファンタジー小説でも、よく荒野なり草原なりをえんえん歩きつづけるシーンが出てくる。RPGでも、えらく広いフィールドを徒歩で移動している。クラウドがあのフィールド音楽のなか緑の野を走るのが、いまだに目に浮かぶ(FF7リメイク楽しみです)。
スペイン巡礼なら、同じ体験が現実にできるのではないかと思った。
しかし、一か月かけて約 800 km も歩くなんて、明らかに大変そうだし、何を準備していけばいいのか見当もつかない。宿泊はどうするのだろう?
でも、いつかはやってみたい。生きているうちには。
そのときは、それぐらい現実味のない夢だった。
就職して働きだしてから、何とはなしに、仕事を辞めるときにスペイン巡礼に行こう、と思いはじめた。
飲み会のとき、いつかスペイン巡礼に行きたいという話をしたら、「飲み会のときに宗教と政治の話はやめたほうがいい」というアドバイスをもらって心底しらけたのを覚えている。
その後も折にふれて、仕事を辞めたら巡礼したいという話をして、「別に辞めなくても、何年かかけて少しずつ歩いたらいいんじゃない?」(実際、行程を数回に分けて歩く巡礼者もいる)と大人のアドバイスをもらったのも覚えている。
後者のアドバイスは一理あるなと思った私だったが、結局、仕事は辞めた。
就職から10年以上。
ある日、ギリギリまで水を入れたコップがあふれるように、辞めることを決めた。それなりに長く働いていたので、こうして心が決まるということを初めて知った。
決めたあとで、はたと気づいた。
ということは、スペイン巡礼行くのか?
ヘタしたら定年まで行かないのでは? と思っていた矢先だったので、夢がいきなり現実として迫ってきたことに呆然とした。
海外旅行は好きでそれなりに行ってはいたが、歩く旅なんてまったくの初体験である。身内でそういうことをしている人間もいない。叔父が街道ファンだが、国内の旧街道が専門(しかも登山はしない主義)で、あまり参考にならない。
2017年12月に退職を決意したあと、あわててスペイン巡礼を調べはじめた。2018年2月いっぱいでの退職が決まったので、その準備と並行してだ。
スペイン巡礼路のスペイン語での呼び名「カミーノ(道)」を検索すると、すぐに「日本カミーノ・デ・サンティアゴ友の会」さんがヒットした。友の会さん主催で、巡礼の説明会や歩行訓練としてのハイキングなどが開催されている。
スペイン語講座つき説明会に参加してみて、そこそこ広いホールが人でいっぱいになっているのを見て、こんなにもスペイン巡礼に関心のある人がいるのかと驚いた。
(飯能の山で行われた「ワンデーカミーノ」(歩行訓練)イベントで撮った写真。当時、登山に興味がなかったので、今となってはどこの山だったのか……)
トレッキング趣味がない私にとって(トレッキングという言葉すら知らなかった)、友の会主催の説明会やハイキングは大変ありがたかった。スペイン巡礼では 10 kg 前後のザックを背負って歩くのだが、登山用ザックも持っていなければ、他の道具も何もわからない。一度だけ登った谷川岳で使った登山靴も、サイズが合っていない。
友の会さんのアドバイスをもとに、退職金をはたいて道具をそろえた。これだけは、いやになって辞めた職場に感謝した。実は退職金の0がひとつ少ないトラブルがあったりもしたのだが、それでも感謝は感謝である。(※ただの凡ミスで、ちゃんとした金額をいただきました)
出発はスペインの美しい季節、5月に決めた。
以前、5月のアルハンブラ宮殿に行ったことがあり、宮殿じゅうに満ちるバラの香りに感動して以来、自分のなかでスペインは5月だからだ。
2018年4月末、習っている歌の発表会があった。
約1週間後に巡礼出発を控えて、そわそわと出席していたのをよく覚えている。曲はたまたまスペインつながりのララ「グラナダ」(スペイン歌曲)と、シューベルト「水の上で歌う」(ドイツ歌曲)だ。どちらもあまりそわそわして臨むような曲ではなかった……ので出来は推して知るべし……が、とにかく歌いきった。
そして、発表会が終わるとすぐ、巡礼の5月がやってきた。
(スペイン巡礼2018回想記(2)に続きます)
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