スペイン巡礼2018回想記(29)ラバナル〜ポンフェラーダ
2018年6月3日。
この日はラバナル・デル・カミーノを出て、ポンフェラーダまでの約30kmの行程。ポンフェラーダでは城見物が控えているので、今日も30km歩行からの街歩きだ。
ラバナルは山の中にあり、朝はいきなり登山で始まった。
小さなかわいい村を通過し、その後は昼すぎまでずっと桃源郷のような花咲く山道が続く。天気は、一時あやしい雲行きもあったが雨は降らず、おおむね快適な山歩きだった。
山道の途中に見えてきた村で、いつものように巡礼者メニューのガッツリ昼食。
昼食後は、ノイバラが咲く山に入った。ノイバラは涼しい香りがする大好きな花だ。よい香りに満ちた山……スペイン巡礼中は、特に観光地として期待していないときでも、随所に物語のような場所がある。
ノイバラの山道のあとにも小さな村を通過したが、なぜか巡礼者以外の人通りが一切ない村で、アメリカ人らしい巡礼者が大マジで「これはおかしい……」とつぶやいていたのがおもしろかった。
私もちょっと怖かったが、アメリカ人巡礼者たちがあとからやってきて騒ぎはじめたのですっかり安心し、「ブエンカミーノ」と告げてさくさく歩いていった(寂れていて美しいと思わなかったので写真はない)。
山道が終わると、ローマ時代の橋が残るモリナセカという街に入った。20km強は山道を歩いてきた計算なので、くたくただった。
橋を眺められるバルに入り、オレンジジュースを頼んで休憩する。
モリナセカでは天気も快晴で、バルでいったん腰を下ろすとあまりの気持ちよさに二度と立ちあがりたくないという気がひしひししたが、例によって8km先のポンフェラーダですでに宿を予約済だ。
私は未練がましく橋をチラチラと振り返りながら、モリナセカをあとにした。
やがてポンフェラーダの街が見えてきた。
街の入り口は、いつものように古い橋だ。ホタテの標識を追いかけていくと、ポンフェラーダ名物の城がいきなりどーんと現れた。
いったん城を通過して、まずは予約したホテル、オテル・アロイ・ビエルソ・プラザにチェックイン。スペインでよく見られる張り出し窓の部屋で、街並みとしてはよく見ていたが、中に入るのは初めてだった。
それから城見物に戻った。
青空も、城からの眺めも、城そのものもすばらしく、毎度のように30km歩きの疲労は吹き飛んだ。
城下のバルのテラス席で、欧米人の男性が何か飲み物を飲んでくつろいでいるのがふと目に入った。
男性が手にしている水色の足をしたワイングラスには、何か透明な飲み物が入っていてレモンが飾ってある。
私はそれを見た瞬間、
お……おいしそう!!!!!
雷に打たれたようになった。あのときの衝撃は、巡礼から一年以上経っても忘れられない笑。
私は普段、通りすがりの初対面の誰かにいきなり話しかけるようなキャラクターではない。
街中で、通りすがりに何か気になることがあっても(たとえばリュックがかわいいとか)、まず気になりつつもスルーする。リュックがかわいいのであれば、気づかれないようにリュックに近づいてブランドロゴを確かめたことはある笑。のだが、
「これは何ですか?」
気づけば私は、この基本的な英文を男性にぶつけていた。男性は快く教えてくれ、「楽しんでね!」と言ってくれた。
飲み物の名はジントニック(とっくにおなじみの方にはオーバーですみません)。聞いたことはあったが、それまでは縁がなかった。
私は教えられたとおり頼み、城を眺めながらジントニックとチキンスープを味わう幸せな時を過ごした。私は以前にもアルハンブラ宮殿の城壁の下で、サングリアとイカフリットをおいしくいただいたことがあるのだが、それと比肩する幸福な時間だった。
美しい歴史遺産を見ながら酒を飲む、これほどの幸せはないと思うんですね(真顔)。
この日もくたびれ果ててはいたが、かなり幸せな一日だった。
というか、スペイン巡礼中は幸せな日が多すぎて、帰国して一年以上が経ってもなお、あの時間に帰りたくなってしまう。よく思い出づくりとかなんとかいうが、「楽しい思い出だった」で片づけることはできない。スペイン巡礼は私にとって現在進行形なのである。
(スペイン巡礼2018回想記(30)に続きます)
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